文芸表現学科

【卒展報告①】2020年度卒業作品 受賞者・作品をご紹介いたします◎

 

 

2月6日〜2月14日に開催しておりました、2020年度 文芸表現学科・卒業作品展にご来場と、オンラインをご利用くださった皆様、誠に有難うございました。
「ことばが読まれるかたち」をテーマに、今年度は会場だけでなくオンラインでも作品を届けられるよう、初の試みとしてオンラインストアを開設。

おかげさまで会場・オンラインを合わせると、昨年度よりも多い678冊を皆様にご購入いただきました。
今週初めにご注文分は全て発送いたしましたので、じっくり作品をお楽しみいただければ幸いです。

 

ちなみに、今年の会場は下記のような展示を展開していました。(2021.02.15 撮影)

※2020年度卒業制作作品の販売は終了しました。

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今年の作品数は34作品。

全てを改めてご紹介したいのですが、今回は賞を受賞した8作品と、来場者の投票から選出された特別装幀賞受賞作をご紹介いたします◎

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学長賞
小説『澄美子』

著:小林真世

 

装幀デザイン:田宮光太郎(情報デザイン学科3年)

装幀写真:菊池詩織(美術工芸学科2年)

12 小林真世

母子家庭に育ち、未婚の母となった紀代。絶縁状態にあった母・澄美子の死から一年が経ち、一歳の娘を抱えて帰った紀代は、澄美子に関係した二人の男に会うことで、自らにとっての『母親』の在り方を探す。

■作品講評/山田隆道(作家)

未婚の母の苦悩、亡き母と娘のしこり、血脈の肯定など、本作のテーマは普遍的で深刻なものである一方で、やや新味には欠ける。しかし、それでも物語に引き込まれ、心を激しく揺さぶられてしまうのは、著者の圧倒的な筆力と22歳らしからぬ人間的な成熟度、そして小説全体を覆う強烈な悲壮感と切迫感によるものだろう。
これまではトリッキーな小説ばかり書いてきた著者は、正統派とも言える本作について「置きにいった」と自虐気味に語っていた。
だけど、僕はそうは思わない。書き手としての真の実力があるからこそ、小細工や変化球に頼ることなく、あえてど真ん中に正々堂々と渾身のストレートを投げ込み、その強度だけで読者を圧倒したのだ。

 

 

 

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優秀賞
小説『メタリック・ブルー』

著:細井泉美

 

装幀デザイン:坂下実里(情報デザイン学科3年)
装幀イラスト:高橋茜(情報デザイン学科3年)

 

28 細井泉美

虫たちのことを友達だと思っていた少年・海里。夏のある日、海里は兄の風輝が作った昆虫標本を、こっそり埋葬しようと思いついた――。「オオセイボウ事件」をきっかけに、海里は洞窟の向こうの不思議な世界に足を踏み入れていく。

■作品講評/河田学(文学理論研究者)

冒頭に配された主人公兄弟のオオセイボウ事件は、じつに精緻な筆致で語られていて、読者はあたかも「生身」の人間の心を覗きこむように、メタリックに光り輝く虫への兄の憧憬、そして生命への弟の切ない想い、二人の少年の心理を指でなぞることになる。その均衡した世界をまるで切り裂くように、幻想的な世界が突如姿を現す。しかし驚くのも束の間で、読者はそのファンタジー世界にぐんぐんと取りこまれる。主人公同様、私たちは物語に誘われ現実の世界から不思議な世界へと旅することになるのだが、物語が終わるころにふと気がつくのだ。自分もかつてはそんな世界を心のなかにもっていたのだと。

 

 

 

 

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同窓会賞

小説『こんにちは、トマソン』

著:田村悠一郎

 

装幀デザイン:東浦美結(情報デザイン学科3年)
装幀写真:田村悠一郎

 

20 田村悠一郎

カメラを撮りながら歩くのが趣味の「私」は、あまり喋らないが表情豊かな友人とともに街へ繰り出す。街の風景や人を私見を交えながら撮り続ける私は、ふとしたことでカメラを持っていなかった過去と交わる。

■作品講評/木村俊介(インタビュアー)

言葉を重ねて見える風景を、一言ずつ、読むたびに噛み締められる。ゆっくり何回も読み込み直せば、そのぶん「歩きながら過ぎ去る時間の流れ」みたいな、形を持たない何かを掬い取ることもできる。そんな読み方にも開かれています。
地層に厚みができていくように、少しずつ記され続ける過程を見守ってきた教員としては、やや抽象的な言い方ですが、「あえて視野の狭い観点を深めたからこそ、結果的に、破れ目も含んだ広い世界にまで辿り着けて良かったね」と伝えたいです。その「破れ目」の豊かさにまで踏み出せた勇気こそが、今作の達成だと思います。田村くんらしい作品での受賞、本当におめでとう。

 

 

 

 

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奨励賞
小説『世界の果てで優しくなって』

著:上原子陽菜

 

装幀デザイン:鳴海有花(情報デザイン学科3年)
装幀写真:菊池詩織(美術工芸学科2年)

07 上原子陽菜

高校生の芽依は、母・梨沙子の再婚相手、凌平に恋をした。叶わない恋心を抱きながら、芽依は家族というもののしがらみに気づいていく。どこか優しすぎる凌平と、口下手な梨沙子の間で、ひとりの少女が大人への一歩を踏み出すまでの物語

■作品講評/江南亜美子(書評家)

母と、母の若い恋人と、10代女性の「わたし」という、ある意味で「少女漫画」的なあやういバランスに三人を配しながら、その出会いによってもたらされ、構築されてゆくいわくいいがたい濃密な関係を、繊細に描き出した点が評価された。
複雑な環境のなかで少女が精神的に大人になる成長プロセスや、父性の発露と愛着の問題など、根源的なテーマがたくみに落とし込まれている。
読みやすく、端正な文章は、作品に透明感を与えるのに奏功し、主人公と同じ10代の読者にもひろく支持される要因となるだろう。ラストシーンのあとに感じられる切なさとすがすがしさは、ながく読者の心に残るに違いない。

 

 

 

 

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奨励賞

小説『うたかたの地』

著:隈部さつき

 

装幀デザイン:藤うらら(情報デザイン学科3年)
装幀イラスト:森川桃雪(情報デザイン学科4年)

11 隈部さつき

龍神が眠る土地『玄象』を守護する六家。彼らは、龍神と共に湖に封じられている女神が呼び水となって出現させるモノと、古くから戦い続けてきた。ある変わったモノを身の内に宿した暁音は彼と手を組み、この戦いを終わらせる方法を探す。

■作品講評/辻井南青紀(小説家)

丁寧な筆致をもって、作者独自の充実した世界が広がっているこの作品には、広義のファンタジー作品が陥りがちな「設定偏重」、あるいは設定や状況の「説明過多」といった瑕疵がない。また、若書きの作者が陥りがちな、創作された時空間を、登場人物たちがただ行き来することに終始してしまっている、といったようなこともなく、ドラマの展開の中で、主人公の内実がしっかりと描かれている。
作品世界を構想する際のリサーチや下調べも十分で、読者は、この作品世界に安心して身をゆだねることが出来る。密度の濃い「ミクロコスモス」がここにある、と確信させるに十分な構想力と力量を備えた作品である。

 

 

 

 

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奨励賞

脚本『:i』

著:鷲見肇

 

装幀デザイン:人見玲(情報デザイン学科3年)
装幀イラスト:橋本妹(マンガ学科2年)

 

16 鷲見肇

『カラム』と呼ばれる未知の存在が世界中に出現した。姿形のないその生物は『デザイナー』と呼ばれる人間の《言葉》によって初めて姿を与えられる。世界を大きく変える存在に挑む、デザイナーのアンナとその護衛キーラの物語。

■作品講評/山田隆道(作家)

SFアニメ映画を想定した脚本である。近未来に出現した『カラム』と呼ばれる未知の脅威、カラムを『言葉』によって顕現させる能力をもつ『デザイナー』、その護衛を務める『レコーダー』、そして『第三次世界立証』……。いたるところに暗喩的な造語が散りばめられた精緻なSF世界を構築することで、示唆に富んだ物語を描き出している。
ただし、この脚本家の最大の強みは、含みを感じさせながらも決してテンポは損なわないセリフの応酬と、適切なモノローグ処理。よって、この本はさらっと読むこともできるわけだが、ぜひ二度目以降は次のように深読みしていただきたい。カラムとはなにか? 世界立証とはなにか?

 

 

 

 

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奨励賞

小説『紙の上にいる』

著:田中随典

 

装幀デザイン:宮城竣(情報デザイン学科3年)
装幀写真:松田美優(美術工芸学科2年)

19 田中随典

本の中に住む「語り手」が、本を読んでいる読者に自分の経験したことや知識など、様々な話を語り掛けるが、フィクションの人間である「語り手」は読者と会話を重ねるごとに自分の存在に疑問を持ち始める。

■作品講評/河田学(文学理論研究者)

自分自身が「紙の上」の存在でしかないことを知っている登場人物が現れる物語、いわゆる「メタ」な物語はけっしてめずらしいものではない。この作品がとくべつなのは、それが真の意味での「メタフィクション」、すなわち「フィクションとは何か」という問題に真正面から向きあっているためである。「本の世界」というのはいかなる世界なのか、現実とは違うまたべつの世界が存在するというのはどういうことなのか、フィクションは読者の心を動かすことができるのか。小説のどんな理論家もいまだ明確な答えを出せない問題に、この作品は次々と示唆を与えていく。「フィクション論」の傑作というべきほかない。

 

 

 

 

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奨励賞
小説『魔法少女タイニーハーツ』
著:花田みつ希

 

装幀デザイン:福庄真優香(情報デザイン学科3年)
装幀イラスト:花田みつ希

17 花田みつ希

ごく普通の幸せな中学生・ことか。恋や夢に憧れる彼女はある日、身長僅か一センチ程度の少女と正面衝突してしまう。小さな少女を保護することに決めたお人好しなことかだったが、少女はなかなか心を開いてくれない……。

■作品講評/中村純(編集者・著述業・詩人)

「ことか。後悔していない? この先、今日のような危険な目にたくさん遭うわ。あなたはこれから、心も体も、たくさん傷つくことになるの。」
大光明ことかは、ある日、空から降ってきた身長1センチのリルクレアという女の子と顔面衝突する。故郷を滅ぼされ刺客に追われていたリルクレアとことかは、放課後の学校で刺客に追い詰められ窮地に陥る。
やがて、二人の間に芽生えていた友情が奇跡を起こす。物語を書くことで、作者花田みつ希の閉ざされた魂と時間が、静かに勇敢に光に向かって歩きはじめた。これはちいさな女の子の静かな革命である。私は奇跡を目撃している。

 

 

 

 

 

 

 

 

最後に、装幀特別賞のご紹介です。

この賞は来場者の皆さんの投票により選出される賞です。

 

 

 

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装幀特別賞
小説『悪夢の芽』

著:川村咲樹

 

装幀デザイン:宮城竣(情報デザイン学科3年)
装幀イラスト:白咲まぐる

08 川村咲樹

毎夜、その妊婦は人を殺す夢を見る。母として新たな命を産み出そうと「生」の道を歩く彼女と、その対極にある誰かの命を奪う「死」の悪夢。現実と夢、様々な苦しみに翻弄されながらも、彼女はただ我が子に会いたいと願う。

川村咲樹さん著、宮城竣さんデザインの、『悪夢の芽』が見事受賞! おめでとうございます!

 

 

 

 

 

 

ご紹介をした9作品も含め、会場を彩った素敵なカバーの数々は、情報デザイン学科・マンガ学科・美術工芸学科の学生と先生方のご協力のもと完成しました。

(ご協力くださったみなさま、本当にありがとうございました)

 

文芸作品は、作品そのものに実体がありません。

そのため、紙に言葉が印字され、装幀という「顔」を得て、やっと読者に存在を認識される形が出来上がります。

授業内や日頃の会話でも、先生方から学生に伝えていることではありますが、文芸作品が「世に出る」ということは、様々な人の協力があってこそ。

文芸表現学科の卒業展は、作者一人一人がそれを実感する場ともなっています。

そんな卒業作品展に向けた取り組みについては、3月中にお伝えできればと思っておりますので、引き続きどうぞお楽しみに◎

 

 

 

(スタッフ・大賀)

 

 

 

 

 

 

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