キャラクターデザインコース

ゼミ通ヒーローズ vol.40 鈴木瞭佑と卒業制作『バラけルギア』について語るの巻

「ゼミ通ヒーローズ」とは、京都芸術大学キャラクターデザイン学科ゲームゼミの学生の研究や取り組みについてピックアップし、担当教員村上との対談形式で綴る少々マニアックなブログ記事となっています。

 

村上

今回のゼミ通ヒーローズはゲームゼミ4年生の鈴木瞭佑君、通称イチローの卒業制作について触れていきたいと思います。

 

イチロー

はい、宜しくお願いします。

 

鈴木瞭佑(イチロー)君

 

村上

卒業制作でのゲームゼミの成果物としては、毎年コンピューターゲームとかカードゲームに大別されることが多いんだけど、今回イチローが卒業制作で作っている作品はそのどれにも当てはまらない新たな領域に突入したというか、枠を飛び越えた企画になってて興味深かったので、色々話を聞いてみたいと思います。

 

イチロー

はい、今作っているものは、『バラケルギア』というタイトルで、アナログゲームというかバトルホビーとしての作品となっています。ロボットが二体向き合って立っていて、プレイヤーは攻撃するか防御するかを選んで、相手のコアにパンチをヒットさせてバラバラにできれば勝ちっていう簡単なルールの玩具になっています。

 

試作品の写真

 

村上

なんか昔懐かしい玩具でそんなイメージのものがあったよね。

 

イチロー

『ポカポンゲーム』ですね。ハンマーで相手の頭を叩くか、ガードするかっていう。

 

村上

どうしてそういう玩具を作ろうと思ったの?

 

イチロー

アナログゲームって、ルールを最初に覚えないといけないじゃないですか。カードの種類もたくさんあって、楽しさを理解するのに時間がかかるものが多いので、感覚というか見てるだけで面白いものにしたかったんですね。

で、『ベイブレード』みたいなバトルホビーを作りたくなりました。ホビーと言いながら、あれもゲームといえばゲームですよね。

 

村上

確かに、ルールがある以上ゲームと言えるよね。

 

イチロー

最初はあまり大げさな話にするつもりもなくて、実験的な感じでやってみようかなって思ってて、パテとかでパーツをくっつけていくような工作の延長で考えてたんですよ。でも3Dプリンターって実際に使ってみると意外と簡単だったので、自分でも作れると分かってからどういうゲームにしようかって考え始めました。

 

村上

遊び方自体も本体の構造に合わせて色々試行錯誤してたね。

 

イチロー

そうですね。最初は磁石を使って、反発とかを利用したものにできないかと考えてました。規則性がないというか、予想がつきにくい遊びにしたかったんです。

最初の構想としては、ボディと手足が磁石でくっついたロボットがいて、心臓部の磁石を引き抜くと体のパーツがバラバラに崩れ落ちるっていうイメージで作ってました。

でも物理のこととかあまり考えたことがなくて、磁力の強さとか重さとか摩擦とか、頭の中ではイメージできてることが、実際に作ると全く思うようにいかなくて、結局バネを使った遊びに変わっていきました。どのみち、磁石だと動きが地味で、バネを使って派手に弾け飛ぶ動作の方が面白くなりそうだったのでそれで良かったなって思ってます。

 

村上

「崩れ落ちる」より「吹き飛ぶ」にした方が勝利したときの快感も大きいしね。

思い返せば、初期段階のサンプルって、サイズが物凄く大きくて、重量もかなりあったよね。

 

イチロー

そうですね。最初のものは樹脂自体にガラス繊維が混ぜ込まれてたので重たかったですね。

重い方が崩れ落ちやすいかと思ったんですけど、パーツの突起が本体に刺さる形になってたので、コアの磁石を引き抜いても手のパーツが本体に引っかかって落ちなかったんですね。

 

村上

で、外側に向かって押し出す力が必要になったので根本的に構造を変えたと。

 

イチロー

そうです。それでバネで外側にはじき出す構造に変更しました。

 

村上

プロダクトデザインを専門に学んでる学生からすると「なんだよ、そんなことも気づかなかったのかよ」って言われるかも知れないけど、まあ試行錯誤に時間をかけたお陰で、身をもって色んなことを理解することができたね。

 

イチロー

実は中間合評の後からまた何段階かバージョンアップしたんですよ。今度は、もし無茶なことをして内部が破損しても、すぐ分解して修理できるようにボディ自体のパーツが分かれるようにしました。あとは、肉抜きもして軽量化を図りました。肉抜きっていうのは、内部の不必要な部分に空洞を作って、少しでも軽くする作業のことですね。

 

村上

夏休みの間だけでもかなり改良を重ねたね。

 

コア部分のイメージ

 

完成形のイメージ

 

イチロー

あと他にも、前までは右手と左手が同時に吹き飛ばずに、たまに片方だけ残るような不具合もあったんですけど、コア部分を改良して、確実に両手が同じタイミングで吹き飛ぶようにしました。今年の2月にCGで試作品を作って、そこからずっと改良を重ねてきましたけど、バージョンアップするたびにどんどんパーツが増えていって内部構造が複雑になっていきましたね。

 

村上

今年の卒制メンバーは、イチローに限らずみんな動き出しがメチャクチャ早かったよね。なんかプレッシャーがあったの?

 

イチロー

いや、プレッシャーというよりは、二つ上の先輩方の卒制の中間合評を見て、あまりのレベルの高さにかなりショックを受けまして…。あの頃僕は絵を描くことしかできなくて、ゲームなんか一人では作れなくて。でもゲームゼミは絵のうまいメンバーが揃ってて、しかもみんなプランニングもプログラミングもできる人たちばっかりだったので、こんなところでやっていけるのかなって、このままじゃダメだと思って。自分も後輩を驚かせられるような凄いものを作りたいって思ってやってましたね。

 

村上

おおー、理想的なサイクルが生まれてるなぁ(笑)

 

イチロー

でも改良を繰り返し過ぎて、スケジュールが少し遅れ気味です…。

 

村上

実際に精度が上がってるわけだし、これくらいの遅れはすぐ取り返せるから全然大丈夫。あ、でも最終合評まで二カ月か。あんまり大丈夫じゃないから急ごうね(笑)

 

イチロー

ですね。やばいっすね。

 

バイト中に描いたというラフスケッチの数々

 

村上

でも年明けから制作を始めて、今までブレることなく心が折れることもなくモチベーションを保てた要因は何だと思う?3Dプリンターで出力するとなると、時間もかかるし出費もかさむし、一回一回の実験の緊張感が高いので、たまにしんどくなるんじゃないかと思うんだけど。

 

イチロー

これはすごく単純な話で、実験するたびに実際に触れられるモノとしてサンプルが出来上がるので、やっぱりその瞬間にテンションが上がりますよね。で、実際に遊んでみてまた改良すると前回よりも良いものが出来上がるっていう感じで、みるみるバージョンアップしていく様子が見えるので、しんどいけど楽しいですよね。ダメだった場合でも、改善点が見えるので、それはそれで価値があるから特に落胆することもなく。

 

村上

そういう前向きさがいいね。

そうそう。もう一つイチローに聞きたいことがあったんだけど。春にゲームゼミで開催したRe:sult展のこと。

あのときイチローはデジタルゲームとして『ユナイヘクス』っていう戦略シミュレーションを作っていて、展示会の直前にデータが破損してゲームの展示ができなくなったよね。

 

3年生のときに制作した戦略シミュレーションゲーム『ユナイヘクス』のゲーム画面

 

イチロー

あれは、パソコンが壊れて初期化しないといけなくなって、クラウドにデータは残してあったんですけどUNITY側でのデータ参照が全部おかしくなってしまって…。

 

村上

と、そこまでは誰しもよくあることなんだけど、いや、よくあっちゃ困るんだけど(笑)、ここで特筆すべきは、その絶望的な状況から急遽アナログゲームに切り替えて展示に間に合わせるという離れ業を成し遂げた点が凄く感動的で。

 

急遽アナログゲームとして作り直した『ユナイヘクス』

 

イチロー

もう展示準備が進んでパネルの印刷をしてたときにゲームが壊れたので「どうしよう…!」ってなってたら、すずまるちゃん(ゲームゼミ同期の小林鈴果さん)がそのアイデアを出してくれて、本当に助かりました。

 

村上

ゲームがないからとりあえず企画書だけでも置いておくか、なんて話をしてたよね。

そこでデジタルゲームを、フィールドとユニットのデータだけを印刷してたった数日でアナログゲームとしてリメイクするなんてアイデア、よく思いついたなと思って心底感動してしまった。しかもちゃんと展示に間に合ってゲームとしても成立してるという。

 

イチロー

あれは自分でも驚きました。

 

村上

アイデアの良し悪しに加えて、絶望的な状況のときにゼミ生総出でユニットの切り抜きをして時間に間に合わせたあの見事なチームワークがこの代の最大の武器なんだなって思ったね。「私はこうしたい」じゃなくて、「このゼミをこうしたい」っていう意識を全員が持ってる。

 

イチロー

今年のゼミ生はみんな何か新しいことをしようとしてますよね。企画の内容だけじゃなくて、過去の先輩方が扱ってこなかった新しいデバイスを導入したり。

 

村上

イチローも新しい技術に手を出してるので、このまま最後までブレることなく、いばらの道を走り抜いていって下さいね。

 

イチロー

はい、頑張ります。

 

<149150151152153>