- 2022年4月19日
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ゼミ通ヒーローズVol.47「辻村奈菜子と卒制作品『ハコニワ』について語るの巻」Part2
※「ゼミ通ヒーローズ」とは、京都芸術大学キャラクターデザイン学科ゲームゼミの学生の研究や取り組みについてピックアップし、担当教員村上との対談形式で綴る少々マニアックなブログ記事となっています。
村上
今回は、2021年度卒業制作展で最優秀賞となる学長賞を授業した辻村奈菜子さん(以下、辻村or辻子)のゲーム作品『ハコニワ』について聞いていきたいと思います。この作品については去年の10月にメイキングの記事として掲載しているので、ゲームの概要についてはこちらをご覧ください。
ゼミ通ヒーローズVol.39 「辻村奈菜子と卒業制作『ハコニワ』について語る」の巻
ではここからその続きに進みたいと思います。
辻村奈菜子(以下辻村)
はい、宜しくお願いします。
辻村奈菜子さん
ゲームデザイン
村上
『ハコニワ』は卒展での展示会場では大勢の子供にも楽しんでいただけたみたいで、随分好評だったね。正直なところ、合評の段階では「子供が遊ぶにはハードルが高すぎるんじゃないか」って心配だったんだけど、どの子供も辻子(辻村のニックネーム))の思惑通りしっかり観察して、時間かけて考えながら遊んでたよね。
辻村
子供って呑み込みがめちゃくちゃ早いんですよね。最初、コントローラーも初めて触りましたみたいな子供が来たときでも、基本操作だけを教えたら勝手に応用の方法を考えながら遊び始めたんですよ。それを見て親御さんも「うちの子すごーい!成長してるー!」って喜んでくれてました。子供が遊んでる姿を見ることでこちらも勉強させてもらいましたね。
村上
ブロックをジオラマの上に配置したらゲーム画面に変化が起きて、それだけでも楽しいのに、子供たちは試行錯誤の結果を確認することを楽しんでるように見えた。色々試して勝手に学習して、しかも全部の結果を記憶できてて、間違わずに応用へと向かっていくところが驚いたね。
辻村
レベルが上がるごとに出来ることが少しずつ増えていく仕様になってるので、成長が可視化されてるし、慣れてきた頃に新しい情報が入ってくるから取っつきやすいっていうのもあるかなって思いますね。
村上
最初はブロックを置くだけのところからスタートするよね。
辻村
そうですね。4種類の形のブロックがあって、最初は段差を越えるために坂道のブロックを配置して道を作るだけなんですけど、その段階でデフォルトの4種類から動作を試してみて、「進めるようになった」っていう喜びが得られます。で、「目的の宝石を見つけたけど手が届かない、どうしよう」ってなる絶妙なタイミングでレベルが上がって、今度は「ブロックを回転させる」ことができるようになるから、「配置」と「回転」を組み合わせて最初のお宝をゲットできる、というように順を追って学習していく構成になっています。
宝石は全部で5つあって、1つ目を取得することでゲームのサイクルも理解できるので、そのテンションのまま「残りもゲットするぜー!」ってなるわけです。
村上
次にやるべきことの情報を解放していくタイミングや見せ方、順番なんかが凄くうまくデザインされてるから、最後まで挑戦したくなるようになってるんだね。
辻村
そうですね。例えば、一つ目の宝石を取る直前に二つ目の宝石がチラっと見えてたりします。
二つ目の宝石を取ると、そのときその奥には三つ目がチラっと見えてるんです。そういう誘導の順番には拘りましたね。
村上
取った後じゃなくて、取る前にチラ見させるあたり、ゲームデザインとして心得られてるなって感じたよ。宝石の存在が気になるから常にテンションが保てるしね。
辻村
特に三つ目の宝石なんかは、特定の場所からしか見えないようになってたりするので、どうやって目的地へ行けばいいのかはめっちゃ考えると思います。
村上
この構成を見たときに、今の日本のドラマもそうだけど、特に海外ドラマのシナリオ構成に似てるなって思った。全ての問題を解決して一話目を終わらせるんじゃなくて、意図的に謎を残したまま終わる。新たな登場人物が出てきたり、新たな事件が発生したり。そういった情報を小出しにしていって、続きが見たい!って思わせる。一つ目の謎が解決しそうになる頃に二つ目の謎が登場して、常にモヤモヤするような飢えの状態を作り続けることで、一旦見始めたら止められなくなるように出来てるっていうね。
辻村
狭い洞窟を抜けた後で、「あれ?ここ最初の場所から見えてたところだ!」ってなって、序盤の伏線回収ができたような小さな喜びがずっと続くんですよね。
村上
伏線回収って言うとストーリー展開のことをイメージしがちだけど、そうではなくてゲームデザインとして回収していくっていうのかな。意味のないオブジェクトだと思ったら後ですごく重要だったとか、行けそうで行けないと思ってたら本当に行けた、とか。
辻村
ビジュアルの伏線というと、スタート地点に謎の門のような物体が置いてあるんですけど、そこはただの崖になってて何も起きないんです。でもクライマックスになるとそこにもう一つの島が出現して、最後の場所へと繋がる役目を果たしたり。ここが一番のお気に入りですね。
村上
展開としては海外のドラマに近いと思ったんだけど、ゲームデザインとして最初に思い浮かんだのが『ゼルダの伝説スカイウォードソード』かな。
辻村
あーはいはい、すごく良く分かります。
村上
マップの構造自体が伏線になっていて、ゲーム進行に応じて見え方や解釈が変わってきたりして、そこに物語までも見出せる。良く言えば『スカイウォードソード』をそのまま立体物にしたらこのゲームが出来上がったというような印象。
辻村
その例え話は嬉しいですね(笑)。若干のネタバレも含まれますけど(笑)。
Part3に続く