染織テキスタイルコース

どう生きたいかを生きる 美工教員展に寄せた、染テキ・河野愛さんの「声」【文芸表現 学科学生によるレポート】

違うジャンルを学んでいても、芸術大学でものづくりを楽しむ気持ちは同じ。このシリーズでは、美術工芸学科の授業に文芸表現学科の学生たちが潜入し、その魅力や「つくることのおもしろさ」に触れていきます。

 

文芸表現学科・3年生の出射優希です。

GWもいつの間にか終わり、気がつけば6月。1年も半分が終わろうとしていますね……。少しずつ暑くなるなか、大学全体がひとつの大きな船になったように、少しずつ速度をあげて活動が行われているのを感じてます。

 

今回は、そのなかでも特に重要な展覧会『逸脱する声』についてです。

(なお、美工教員展にまつわる一連のレポートでは、一人ずつの教員のみなさんの「つくる人」としての姿をおもに捉えたいので、あえて「〇〇さん」と伝えさせてもらっています)

 


 

美術工芸学科専任教員展、ギャルリ・オーブにて開催

 

京都芸術大学・美術工芸学科の専任教員による展覧会『逸脱する声』が、人間館1Fギャルリ・オーブにて開催されます。

会期は2022年6月9日(木)〜16日(金)、22日(水)〜28日(火)。

学科長である竹内万里子先生キュレーション(企画・構成)のもと、22名の「作家」が集う、大規模な展覧会です。

 

↑「言葉の森」の設営中。

 

学生である私たちはどうしても、「先生」として日々芸術を伝える人の姿を見ています。

ですが今回の展覧会は、特に「作家」としての教員の在り方を、それぞれの作品を通して示していくという試みです。

大学史に残るような、貴重な展覧会になるのではないでしょうか。

 

「声」が描く、芸術へ向き合う姿

 

この記事から数回にわたり、参加作家のみなさんの「声」の一部をご紹介していきます。

文芸表現学科に所属する学生が、一人ずつにインタビューを行いました。

展覧会に寄せて語っていただいた「声」は、会場内「言葉の森」にてご覧いただくことができます。

 

↑チラシ制作は情報デザイン学科見増勇介特別ゼミが担当。カラー部分はよく見ると「声」によって形作られています。

 

「声」そのものが鉛筆であるかのように、それぞれの視点で見る過去や現在、そして芸術へのひたむきな姿勢が、語りによって描き出されています。

 

今回ご紹介するのは、参加作家のお一人である、染織テキスタイルコース・河野愛さんの「声」です。

 

ものごとをじっと見つめる、社会のなかで生きる自分を考える

 

河野さんは、染織というジャンルに制作のルーツを持ちながら、現在はインスタレーション作家として活動されています。

布に限らず、陶器やガラス、写真などを用いた作品を制作されてきた河野さんですが、今回の展覧会には、乳児と真珠のシリーズ《こともの foreign object》より、「呼吸をするライトボックス」が展示される予定です。

 

  “いま振り返ってみると、場所とか人の記憶とか、時間とか価値が変化するっていうことを作品のテーマにして、そこをじっと見つめるような作品を作りながら、そうした自分と社会の立ち位置を探るというようなことを、ずっとし続けてきた感じがします”

 

  “美術をすることにすごく興味があるというよりも、「自分はどういうふうに生きたいか」ということへの興味のほうが近いのかもしれません。
暮らしも、何もかもが、全部制作につながっているように思うんです”

 

↑教員展で展示される乳児と真珠シリーズの、はじめの姿(滋賀県立美術館にて)

 

コロナ禍での育児を経験し考えたことについては、以前に滋賀県立美術館で作品が展示されたさいに、お話ししてくださいました。

https://www.kyoto-art.ac.jp/production/?p=130254

 

 

挑戦をつづける領域横断的な生き方

 

大学卒業後、会社員をしながら作家活動を続け、現在は大学教員と作家活動、そして育児も行い、「領域横断」が生き方のキーワードになってるのだといいます。

環境の変化も乗り越え、挑戦をし続けられるのはどうしてなのでしょうか……?

 

 

  “性格としては、とっても慎重なんですよ。慎重がゆえに、置かれている状況に対して「これでいいのかな?」と疑いつつやっているところがあるんです。今ジャンプしなきゃいけないっていうような時期を、すごく慎重に考えているんだと思います。
自分が自分の足枷にならないっていうのは、すごく大事なことのように感じます。日常的に何かをつづけていくと、小さいことだけにこだわってしまうこともありますけど、私ってこうだからってずっと思い続けると、同じことしかできないように思うんです”

 

 

作品だけでなく、人の手に触れるプロダクト(製品)の制作も行い、現在進行形であらたなことに挑まれているのだそうです。

 

「でも自分が本当に作家として生きていきたいのなら、つづけていけばどうにかなるんです」という言葉に、チャレンジを重ねてきた河野さんだからこその重みを感じました。

 

 

 

生き方をつくる姿に勇気づけられる

 

河野さんのお話を改めて思い出しながら、「自分にとって必要なチャレンジができているだろうか?」と考えます。

 

デザインと美術、会社員と作家活動、大学教員と作家活動、さらに育児。

河野さんの、世の中の分断されたように見える領域を結びつけ、生き方を選択肢から選ぶのではなく、自分でつくろうとされている姿勢に勇気づけられます。

 

あらゆる立場にいる人の「声」が、自分自身のまだ音にならない「声」をすくいとるきっかけになるかもしれません。

教員展会場の河野さんの「声」、そして今回参加される作家のみなさんの「声」も、ぜひ、こちらの記事と合わせてお読みください。

 

 

▼ 河野愛先生(美術作家・アートディレクター)

https://www.kyoto-art.ac.jp/info/teacher/detail.php?memberId=17001

 

 

逸脱する声―京都芸術大学 美術工芸学科 専任教員展

会期 第1期 2022年6月9日(木)〜16日(木)、第2期 2022年6月22日(水)〜28日(火)
時間 10:00-18:00 会期中無休
場所 京都芸術大学 ギャルリ・オーブ
出展者 〈第1期〉池田光弘、神谷徹、川上幸子、河野愛、柴田純生、清水博文、髙橋耕平、仁尾敬二、東島毅、山田伸、〈第2期〉出口雄樹、岩泉慧、金澤一水、菅原健彦、多和田有希、椿昇、福本双紅、ミヤケマイ、森本玄、矢津吉隆(副産物産店)、ヤノベケンジ、山元桂子
入場料 入場無料(予約不要になりました)
主催 京都芸術大学 美術工芸学科
企画 竹内万里子(美術工芸学科 学科長)
協力 京都芸術大学 文芸表現学科木村俊介ゼミ、情報デザイン学科見増勇介特別ゼミ

 

展覧会詳細

https://www.kyoto-art.ac.jp/events/2297

関連イベント

美術工芸学科インスタグラム(https://www.instagram.com/kua_biko/)にて随時お知らせいたします。

 

※6月1日付の新型コロナウイルス感染防止対策の一部緩和により、本展覧会はご予約なしで展覧会をご覧いただけることになりました(これまで一般の方は要予約とご案内しておりましたが、政府方針の改定を受けて変更になりました)。引き続き学内でのマスク着用や入口での検温などの対策にご協力をお願いいたします。

 

 

取材記事の執筆者

文芸表現学科3年生

出射優希(いでい・ゆうき)

兵庫県立西宮北高校出身

 

1年生のとき、友人たちと共に、詩を立体的に触れることができる制作物にして展示した展覧会「ぼくのからだの中にはまだあのころの川が流れている」を開いた(バックス画材にて)。

自分のいる場所の外にいる人とつながるものづくりに、興味がある。また、「生きること」と直結したものとして「食べること」を捉え、それを言葉で表現している。

 

 

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