油画コース

人がいて作品がある 油画コース卒業生が社会で活躍中!【文芸表現 学科学生によるレポート】

違うジャンルを学んでいても、芸術大学でものづくりを楽しむ気持ちは同じ。このシリーズでは、美術工芸学科の取り組みの現場に文芸表現学科の学生たちが潜入し、その魅力や「つくることのおもしろさ」に触れていきます。

 

こんにちは。文芸表現学科2回生の工藤鈴音です。

最近は朝夕の風が心地よく、ひっそりと秋の気配を感じます。夏が終わっていく寂しさも抱えつつ、今回は穏やかな気持ちで芸術の秋を迎えることができるような展覧会にお邪魔しました。

 


 

現在、障がいのある方々の作品や表現に出会える場art space co-jinにて、油画コース卒業生の高野郁乃さんがキュレーションを担当された、北村こうさん(こちらは京都芸術大学通信教育部・洋画コースの卒業生です)の個展「HUMANiMAL-北村こう個展」が開催されています。

 

今回はそんなおふたりにお話をうかがいました。

 

 

・・・

 

作家さんのもつ世界を魅せる

 

 

光のようにすっと心に差し込む強さと穏やかさを合わせもつ詩と、描かれた場面の前後にある物語が自然と浮かぶ油画がおりなす北村さんの世界観はどこか不思議で温かくて、まるで絵本を読んでいるときのような気分になります。

 

 

今回の個展は、あくまで他人のキュレーションによって他人が鑑賞するというかたちにこだわり、北村さんは一切キュレーションに介入せず、すべて高野さんにおまかせしたといいます。

 

展覧会場は大きく二つの空間に分けられており、入り口近くの空間は、ガラス張りのギャラリーの外にもほんのり光が漏れるくらいの明るさの中、ポップな印象の作品が並び、奥の部屋に進むにつれて、照明の明るさも落ち、しんみりとした深さを感じられる作品を楽しめるような工夫がされていました。

 

 

 

二つの空間の間では、穏やかな表情をしたプレーリードッグがわたしたちを迎えてくれます。

これも、プレーリードッグの視線で入り、その視線で奥の展示に誘う、高野さんの展示のこだわりのひとつです。

 

 

高野さんは北村さんが毎日Twitterで投稿されている詩と以前に書かれていたブログより、およそ500~600作品も読み、この展示会を行うことを決めたそうです。

 

20代のころは小説家になるという夢を抱き、文芸部にも所属し、日々、言葉を綴っていく中で北村さんはズレを最小限にその時その時の自分を表現できる形式として詩にたどりつきました。

高野さんは北村さんの様々な作品に触れてきたからこそ、北村さんのその過程をとても大切に受け止め、展示の中でも特に言葉の配置にこだわっていらっしゃいました。

 

 

  “詩はその時その時の北村さんにチャンネルがしっかりあっているなと読む中で思ったんです。
そのチャンネルの合わせ方を日々鍛錬されているだけあって、北村さんの奥行きが素敵だなと思いますね。
ことばを操れる方だから、絵も素敵なんだと思います。

 

  “北村さんの素晴らしいところは自分のことをすごく理解された上で画材を選んだりとか、される内容をしっかりと決めていってらっしゃるっていうところで、その集大成が今回の展覧会です。

 

 

ご自身も油画と詩を生み出す立場として、高野さんは北村さんの魅力をとても嬉しそうに語ってくださいました。

 

 

障がいのリサイクル

 

油画の中に描かれている愛くるしい生き物たちの名は「HUMANiMAL」。展覧会のタイトルにもなっています。

 

「HUMANiMAL」とはその名の通り、human(人間)とanimal(動物)を掛け合わせた生き物たちのことを指します。

 

いろんなものが愛し合っている時間の流れが「人間」や「動物」という枠組みを超えて、全ての動物の中に心の流れとしてある。それらが一種の妖怪のような形をとって現れたもの、それが「HUMANiMAL」だと北村さんは語ります。

 

 

  “勘違い、間違い、思い込み、ゆがみ、一般的でないそういうものを逆に自分の絵の中に活かしていって、非リアリティを微妙なところで、調和させたところに「HUMANiMAL」が出てくるんです。だから、人に真似できないと思いますね

 

  “ズレとか、取り間違いとか、そういうことが往々にして起こる構造の持ち主でないとできないんですけど、多分その特性は世の中ではかえって邪魔になる特性なんです。だけど、それを「障がいのリサイクル」として、自分の生き方だとして「HUMANiMAL」に結実させたということです

 

普段の生活の中では邪魔になってしまう部分も美術の世界だったら、アートとして表現をする上でその特性や障がいというものが役に立つことがある。

障がいも含めて描くこと。そのことが大きな武器となって表現に奥行きを生むことの強さを感じます。

 

 

 

  “詩を書くときにその視点になりきることができて、絵を描くときも、視点を変えることができる方って、そうそういないなって思うんですよ。北村さんはいろんな自分をもっていらっしゃるんだなって

 

北村さんの言葉の後に一言添えるような形で言葉を紡ぐ、高野さん。

その一つひとつの言葉から、キュレーションを担当されるにあたって、まずは作家さん自身のことを理解しようと積極的に会話を重ねてこられたことがうかがえました。

 

 

 

一瞬を描くということ

 

  “自分の中に、いろんな思いとか、表現の根っこというものがあって、それを一瞬で伝えたいというか。その衝動とか憧れを、自分のパフォーマンスを、なんとかして表現に繋げたいという乾きみたいな。とにかく、一言とか、一瞬ということにこだわりを持っていると思うんですよね。

 

物語の前後をあえて描かず、その一瞬を丁寧に描くこと。それは、北村さんのこだわりのひとつでもあります。
「小説から詩にたどり着いたことと同じように、油絵の中でも物語を凝縮したんだと思います」と高野さんはいいます。

 

今回の展示作品の中で北村さんが一番気に入っているのは《うしの親子》という作品です。
色んなものが愛し合う時間の流れを表現する上で、北村さんには「体温」を表現したいという思いがあります。その気持ちがより強く表現されているのがこの作品です。

 

 

絵を描くことが好きになったきっかけも「体温」が関係しているといいます。

 

高校2年生のころ、美術の授業で自由な画材を持参するように言われ、北村さんはクレヨンを選びました。

その選択に周りの子から冷やかされてしまった際に、先生が後ろから抱きしめて腕をつかみ「こういう風につぶして書いてみたらいいんじゃない」と声をかけてくれたときのことを鮮明に記憶していると語ってくださいました。

 

北村さんはその時、大きな体温を感じ、絵を描くことが好きになったそうです。

 

「HUMANiMAL」の中には北村さんのその感覚が今も息づいています。

 

 

身体から離れて、また身体に戻っていく

 

 

  “その絵が自分自身として私はこうであるという姿を現してくれるのに時間がかかるときがあるんです。
白で塗りつぶして最初から書き直すこともあるけれど、白で塗ってしまっても、下のイメージは書き終えているので、だいたいそれになぞって描いていくから、前のエスキースの進化系なんです。”

 

 

うまくいかなかったときに、一からやり直すのではなく、その上から重ねていく。そして、それがまたその作品の厚みに変わってゆく。

無表情の動物の上から、練って、もりあげて、削っていく間に徐々に表情が生まれていくそうです。

色づかいも表情もその絵が持っているふさわしいかたちに導かれる。最終的にどんな風になるかはあまり意識せず、自然とたどり着くように描いていると北村さんはいいます。

 

そうした流れに身をまかせ、描いていく中でふさわしいかたちを見つけていく。無理のないその筆の運びが「HUMANiMAL」たちの表情や生きる力をより豊かにしている印象を受けました。

 

 

  “絵を描く過程っていうのはアイデア出しの連続なんですね。パッと最初に決めて、描いていくのではなく、アイデアをその都度考えてどんどんつくり直していく感じです。
だから、最終的にどんな顔になるかは分からないんです。最終的に見せてくれたその絵の顔がこういう顔だったんだなということなんです。”

 

 

油画と肉体には親和性があり、身体から離れていって、また身体に戻る。

その間でやり取りがあるところが北村さんが油画にこだわる理由です。

 

油画でないと出せないコクがあるし、少し世話がかかるところが可愛い。

北村さんと高野さんは同じ油画を愛する作家として顔を見合わせ、そう語ります。

 

 

 

ふたりだからできたこと

 

 

  “展示してみて、あらためて北村さんの作品はへんてこな良い絵だなという風に思っていて、なんかずっと見ていても気になるし。

 

  今回の展示はこの作品がいいっていう声が作品によってばらけているんですよ。一番好きな絵はどれって聞いたら、たぶん、みんなそれぞれ違うんですよね。
色んな北村さんがいる、チャンネルを変えられるっていう中で、これにすごく力を入れたとか、そういうことではないということのあらわれだと思うんです”

 

 

北村さんのそういった姿勢も、作品もすべて含めて、高野さんが北村さんに尊敬の念を抱いているということがとてもよく伝わってきました。

 

高野さんは北村さんの寝室から発掘したというエスキースを指差して「今からこれを油画で描くんだという力強さ、決意を感じますよね。」と一言。

 

 

北村さんは高野さんとのやりとりの中でその熱意をとても強く感じていたようでした。

「仕事をしながら、仕事じゃないっていうところまで見てくださって安心感がありました」

 

お話をお聞きして、おふたりだからこそ開くことができた展覧会であるということを強く感じ、その信頼関係にとても心が温かくなりました。

 

 

高野さんは、全国に文通仲間をもち、その人たちを大切にしながら、細く長く作家活動を続けていきたいと語ります。

 

作品はもちろん、作家さんの人となりを大切にしていらっしゃる姿勢がとても素敵で、これからも高野さんの担当される展示会、そして作家さんとしての活動から目が離せません。

 

また、北村さんの作品は今後、JR総持寺駅で大きく展示される予定が決まっているそうです。

沢山の人が行き交う場所で再び「HUMANiMAL」に会える日がとても楽しみです。

 

 

取材記事の執筆者

文芸表現学科2年生

工藤鈴音(くどう・りんね)

群馬県 太田市立太田高校出身

 

大学2年の前期には、小さな図書館についてのノンフィクションを記し、学科内の代表的な作品が集められて議論される、全学年参加の合評会に選ばれた。
大学1年の後期には、手話について調査して分析したプレゼンテーションが合評会に選ばれたが、このジャンルについては今後も見つめていきたいと考えている。

 

 

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