油画コース

どの角度から見ても成立する絵画をつくる 松岡柚歩さんと絵画表現の可能性を考える【文芸表現 学科学生によるレポート】

違うジャンルを学んでいても、芸術大学でものづくりを楽しむ気持ちは同じ。このシリーズでは、美術工芸学科の取り組みの現場に文芸表現学科の学生たちが潜入し、その魅力や「つくることのおもしろさ」に触れていきます。

 

文芸表現学科2年生の山口楓生です。大学の近くで実っている夏野菜も、落ちそうなくらい立派に育っています。今回は、五月の末から先月の中ごろにかけて開催された展覧会「ピースとホール」に際して、油画コースの卒業生である松岡柚歩さんにお話をうかがいました。

 


 

眺めても楽しくて、触感も楽しめる絵画

 

松岡柚歩 outline(check#88) 2022  [撮影:岡はるか]

鮮やかな色と、同居するさまざまな質感。

松岡さんの作品には、じっと目を凝らせば、画面の奥にいくつもの世界が広がっているような深度と厚みがあります。展覧会でも、訪れた人々は近寄ったり離れたり、側方から覗きこんだりして、立体作品を楽しむように鑑賞している様子でした。

 

切りわけられたショートケーキの1ピースが目の前に置かれたとき、私たちはホールケーキだったときの姿を思い浮かべることができます。

展覧会のタイトル「ピースとホール」は、その「見えるもの」と「見えないもの」の関係に由来しているそう。チェック柄の模様が遮られ、隠されても、その下には絵が続いていることがわかる――その不思議さに、松岡さんは学生時代から向き合ってきました。

 

見ためも食感も楽しめる、というところで、実際にケーキや和菓子などからインスピレーションを受けることもあるそう。

『knit』や『peel』シリーズでは、どろっとした白い絵の具の表面に、編み目のような凹凸が浮き出ている。これは、生クリームの搾り袋にメディウムを用いて、口金の跡を出しているといいます。

 

描きたいモチーフがあるというよりは、絵の具をどう扱うかということが、松岡さんにとって重要なのです。

画材に触れて実験を重ねながら、レイヤーごとに異なる素材をのせられた厚みのある作品群には、ただ眺めるだけでなく、咀嚼するたびに味わいが変わるような魅力が感じられます。

 

松岡柚歩 peel #01 2022 [撮影:岡はるか]

朝と夜で、向きを変えられる絵画

 

制作過程のお話をきいて最も衝撃だったのが、松岡さんは画面を完成させてから、いちばん最後に作品の上下を決めるということでした。

 

  “絵画は一方向にしか見られないのが不思議で。それが魅力でもあるし、規定でもある。だけど絵画にも、回してどの角度から見ても画面が成立するような面白さがあったらいいかなと思って”

 

彼女の作品は、正方形のキャンバスを用いたものがほとんど。横長や縦長の画面では、右から左へ、上から下へ見るという「時間軸」が生まれてしまいます。チェックなどの、どこから見ても成立するパターンが用いられるのも、上下左右がない絵画を目指しているためです。

 

絵を購入してくださった方々も、飾る場所や時間帯によって、日の当たりかた、影の落ちかたが変わるので、夜はこっち、というふうに、くるくる回して好きな角度で楽しんでくださるそう。これまでの絵画とは一線を画した、新たなアートのありかたですね。

 

展覧会を開くということ

 

松岡さんの制作は、肉眼で作品を見ることの面白さが見直されます。

ご自身も、どれだけ時間に追われていても、気になるものは、できるだけ自分の足で見に行く、ということを大事にしているそう。自分の経験を通してじゃないと実感できない、という思いが、写真では伝わらない質感のちがいを表現したり、視覚の特性を活かしながら色の見えかたを研究したりと、自身の作風につながっているのだといいます。

 

作品を通してコミュニケーションを取ることが好きで、美術の教員にも憧れていたという松岡さん。進路を変更した理由は、先生、あるいは前に立って人になにかを教える前に、まずは作家としての経歴を積むべきだと考え、今はアルバイトもしながら作家活動を続けているそうです。

 

油画コースの教員である東島毅先生との出会いが、人生のターニングポイントといえるほど、松岡さんにとって大きな出来事だったといいます。先生のお話や作品は抽象的だけど、「なんとなくわかる」、その曖昧さを大事にしようと思ったのだそうです。

 

  “なんでだろうって考える時間が長いほうが楽しいなと思う。答えがある世界ではないし、コンセプトはあくまで助け舟みたいなもので、いちばんは作品を前にして何を感じたかっていうものでいいかなと思ってる。
展覧会を見たあとにちょっと楽しい気持ちになったり、帰りの電車で思い返す時間があったり。それって言葉にはないコミュニケーションでもあるので。それで許されるのが美術。”

 

画面越しにも芸術に触れられるようになったからこそ、自分の目で作品を鑑賞できる機会を大切にしていきたいと感じました。

 

松岡さんは、大阪で開催された、千島土地コレクション「TIDE-潮流が形になるとき-」にも出展されていました。これからの活動も、とても楽しみですね。

 

 

 

取材記事の執筆者

文芸表現学科2年生

山口楓生(やまぐち・ふう)

福井県立敦賀高校出身

 

1年生のとき、各授業を代表するような作品が選ばれ、1年生から4年生までの全員で議論をかさねる合評会の場では、「世代と話し方」について調査と分析をおこなった企画をプレゼンテーションしている。
80年代から90年代にかけての広告コピー・テレビ番組・映画などにあふれる、異様なまでのエネルギーを新鮮に楽しんできた。また、川端康成の小説における人と人との絶妙な距離感のような、「もう存在しないかもしれない、今とはちがうタイプの人の温かさ」も好んでいる。

 

 

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