油画コース

対象を短い時間で描写し、話し合う クロッキーの合評会でわかったことは?【文芸表現 学科学生によるレポート】

違うジャンルを学んでいても、芸術大学でものづくりを楽しむ気持ちは同じ。このシリーズでは、美術工芸学科の取り組みの現場に文芸表現学科の学生たちが潜入し、その魅力や「つくることのおもしろさ」に触れていきます。

 

文芸表現学科3年生の下平さゆりです。

前期授業終わりの7月下旬。夏だな、と嫌でも実感させられる暑さのなか、大学の各コースでは、制作した作品の発表会ともいえる、合評会がおこなわれていました。なかでも今回は、油画コース1年生の、クロッキーの合評会のようすをお伝えします。

 


 

油絵具を用いて、段ボールに描いてみる

 

クロッキーとは、限られたごく短い時間で、すばやく対象を描写すること。

授業では、油絵の具を使ってボール紙やダンボールに描きます。今回は、そうしてできあがった作品たちを、先生と、そして学生どうしで見て、意見交換をしていく「合評会」がおこなわれました。

 

↑壁いっぱいに貼られた学生のクロッキー。それぞれが個性豊かで、同じ題材に対してのアプローチの仕方や、見方のちがいを感じておもしろいです。

 

なぜ、絵について言葉にして話し合う意味があるのか?

 

合評会は、単に実力を評価する場というよりも、ひとりずつ、作品の制作意図や感想について話す場です。

自分の制作をことばにしていくことで、自分のしたかったことも見えてきます。描いていてどうおもしろかったか、心が動いたことは何だったのか、考えたり書き留めたりして、作品づくりに活かしていきます。

 

 

授業を担当している東島毅先生の各学生に向けたコメントなどからは、学生が、自分のことばで絵を説明することの意味を考える機会になったのではないでしょうか。

 

多くの人や空間にひらかれたものであるために、作品にことばを添える。

自分が描いた作品の意図を汲み取ってくれる・自分の絵に足を止めて見入ってくれる人ばかりではないからこそ、自分のことばで意思を語ることは、自分を助ける手段にもなります。

 

 

「無理なことをやるから、表現になる」

 

東島先生と同じく、授業を担当されている浅野真一先生からは、構図や色使いといった技術面について的確なアドバイスがありました。

 

なかでも、「無理なことをやるから、表現になる」という言及

――「立体物を平面の絵として描くこと自体が、そもそも無理なこと」ということばが忘れられません。

 

なにかをつくろうとしたとき、扱うテーマも、題材も、使う道具も、その表現のしかたも、すべて簡単にはいきません。

そのむずかしさ、無理さに挑戦して、そのうえで、自分にどうプラスになったか。

 

日々無理なことに挑んで、ひとつずつ消化と吸収を繰り返すのが、ものをつくるということなんだと、ハッとさせられました。

自分が実際に手を動かして、どうなったかという経験と感覚が、これからの自分の表現を支えていくものになるのかもしれません。

 

 

「たまたまを抜群にするのがセンス」

 

芸大ではどの学科・コースでも、つくった作品に対して意見を交換しあう機会がたくさんあります。

 

どの学科でも、どこにいても、ものをつくりたい人にとって、まずは手を動かすことも、自分がしたことをことばに起こすことも、自分がつくるものの可能性を広げていくことなんだな、と今回の合評会から改めて感じます。

 

↑合評では、たくさんの格言も生まれましたが、「たまたまを抜群にするのがセンス」という先生のことばは個人的に特に響きました。

 

 

学生のみなさんは、1年生。これからもっともっと、好きなものを見つけたり、ときには苦い経験をして伸びていくであろう4年間のなかで、きっとたくさんの素敵な作品が生まれるはず。そんな今後が、楽しみです。

 

 

 

取材記事の執筆者

文芸表現学科3年生

下平さゆり(しもだいら・さゆり)

湘南工科大学附属高校出身

 

大学2年生のとき、テレビドラマ用の脚本「夏休みの男」が、「シナリオS1グランプリ」(シナリオ・センター主催)で準グランプリを受賞し、雑誌「月刊シナリオ教室」に作品の全文が掲載された。
ふざけながらも、シンプルな葛藤でドラマを引っ張るサスペンスをつくる力が評価されてきた。京都の永観堂や旧三井家下鴨別邸などの、庭という独特な場所のありようからインスピレーションを得たノンフィクションも執筆している。

この「KUA BLOG」では、人や出来事との出会いを通して考えを豊かに遊ばせ、そこで見つけたおもしろさを記す視点を、「待つ」ようにして静かに育てあげてきた。

 

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