キャラクターデザインコース

ゼミ通ヒーローズVol.53 大野裕香とシリアスゲーム「あんさんあんさー」について語るの巻

 

 

※「ゼミ通ヒーローズ」とは、京都芸術大学キャラクターデザイン学科ゲームゼミの学生の研究や取り組みについてピックアップし、担当教員村上との対談形式で綴る少々マニアックなブログ記事となっています。

 

 

村上

今回はゲームゼミ2年生でゼミの副リーダーを務める大野裕香さんに来てもらいました。

 

大野

大野裕香です。宜しくお願いします。

 

 

大野

私は、元々はイラストを描きたくてこの大学に入ったので、特にゲームに興味があったわけでもなく、ゲームのキャラクターを描きたいとも思ってなくて、でも弟がゲーム好きで、作りたいとか何も考えずにゲームの授業を履修してみたら、プランニングをやってみたり人の心理を学んでゲーム性を研究するところが面白くなってきて、結果的に今はゲームゼミに所属しています。

 

村上

1年の時からチームを束ねる立ち位置で頑張ってたよね。

 

大野

グループワークのときには、絵を描いたりUIデザインなどを担当することが多いんですけど、私がよくしゃべって、話をまとめたりアイデアを出したりするので、成り行きでリーダー的な扱いになってることが多いです。

 

村上

じゃあ今回作った作品の紹介をしてもらおうかな。

 

大野

はい、今回制作したのはシリアスゲームで、作品のタイトルは『あんさんあんさー』という親父ギャグめいた名前になってます。京都のシリアス要素として、「人付き合い文化」に焦点を当てる形で企画を進めました。

京都人同士の付き合いって、近づきすぎず離れすぎずっていう独特のものがあって、これを何も知らない人が見ると少し怖かったり嫌な人だと思われたりしますよね。でもそれは意地悪で言っているわけではなくて思いやりの表れだったりするんです。そんな京都独特の対話をモチーフに、京都を理解してもらうためにゲームにしました。

 

 

村上

今年のゲームゼミは、生粋の京都人が一人もいなくて「京都人ってなんか面倒臭い」って思ってる節があるから、京都人を客観的に外から観察できる良い機会になったかも知れないね。

 

大野

そうですね。今回のゲームは「ワードウルフ」のような対話ゲームに着想を得て、暗闇の中でキャッチボールするみたいな感じで、1対1で会話の中から相手が伝えたいことを読み取っていくというゲームになっています。

 

村上

具体的にはどんな風に進行する?

 

大野

まず性格設定の書かれたカードがランダムで配られます。出題者がまずここから設定を考えます。

例えば「陽気」という性格設定のカードに対して、その中には「うるさい」「意見を聞いてくれない」というマイナス要素が2つと、「場を盛り上げてくれる」というプラス要素の3つが書かれています。この中の一つと場面設定を組み合わせて話をします。

このとき一番大事なキーワードを伏せて、ありとあらゆる言葉を使って婉曲表現を使って相手に伝えていきます。

キーワードはメニュー表のように記されていて、回答者はその中から答えを当てます。

あなたが言いたいことはこういうことですか?という質問も婉曲表現を用います。

対戦型ゲームのように見えて実は協力型ゲームになっているという構造です。

 

村上

婉曲表現というのが、ストレートにものを伝えるんじゃなくて、京都人特有の遠回しなものの言い方をするゲームってことだね。

 

 

大野

そうですね。出題者は「臆病な性格だから、自信を持ってほしいということですね?」とか、「おっちょこちょいだけど、みんなを和ませようとしてたのね?」というような感じで、相手がどんな性格で何を伝えようとしてたのかを当てていきます。

その性格の設定を伏せながら会話を進めていって、相手に察していただく、という流れになります。

例えば「陽気」っていう性格設定で、その中には「声を押さえてほしい」「意見を聞いてほしい」「場を盛り上げてくれる」という項目があります。

更に場面の設定があって「図書館」とか「明日はデート」とか。

「図書館の場面設定で声を押さえてほしい」だと、ストレートに伝わりやすいと思うんですけど、「明日はデート」で「声を押さえてほしい」が組み合わされると、話す方もちょっと考えないといけなくなります。組み合わせによっても話の内容が変わるし、当然話し手によっても全然変わってくるので、誰と何回遊んでも違う展開が楽しめるようになっています。

8種類の性格設定と、それぞれに3つの分岐設定があるので24通りの性格設定があります。更にそこに8種類の場面カードがある、という感じです。

 

村上

その対話が面白く盛り上がるポイントはどこ?

 

大野

婉曲表現を駆使する中で「お前、何言ってんの?」っていう部分が一番盛り上がりましたね。

聞き手は色々と予想しながら話を聞いていくわけですけど、婉曲表現を察することができなかったときに推理が一気に崩れていくときがあるんです。

 

村上

その予定調和が崩壊する過程は対話ゲームの醍醐味だから、盛り上がったなら問題ないね。

 

大野

そうですね。で、そんな対話だけではなく、人付き合いという抽象的な要素や人との距離感というものを何とかゲーム展開として可視化できないかと思って方法を探りました。

盤面上に四つの枠を設けて、そのうちの一つが語り手のコマ、もう一つを相手側にして、その二つがぶつからないように適度な距離を保ち続けるというのを一つのゲーム性としています。

 

村上

京都人の人付き合いのメタファーとしてるわけね。離れすぎてもダメだし、近づきすぎてもダメっていう。一定の距離を保った会話ができるのが、心の距離感の可視化として表現できてると。

実際に遊んでもらってみて、どんな反応だった?

 

大野

アートビット展での試遊会では、同年代女子は想定内の遊び方で盛り上がってました。

ただ、若い男性は突然「俺、魔王」って言いだして、魔王キャラを演じながら話を展開したんですけど、私たちは「人と人」しか想定してなかったところに全く別の存在を放り込んできたので、一瞬慌ててしまいました。それでも魔王設定で明日デートって感じで進められて、シュールな展開が面白く盛り上がったので結果的には良かったかなと。

 

 

村上

シチュエーションがぶっ飛んでいようと正攻法だろうと、婉曲表現というコンセプトさえブレずに表現できているなら特に問題はないんじゃないかな。

企画の発端としては、「ぶぶ漬け」というキーワードが出て、この文化を何か面白く表現できないかって話があったけど、そこからどういうプロセスで今の形になった?

 

大野

ぶぶ漬けって、知らない人からすると「帰れ」っていうことを遠回しに言ってるっていう印象があると思うんですよ。でも実際には「とても楽しいお話でした」を遠回しに伝えるためのものなので、京都人以外の人にはその意図が伝わりにくいんですよね。凄く嫌な文化だと思われがちですけど、実際にはそれはおもてなしの文化だったり、気遣いの表れだったということが理解できるようになってきます。

そこでこの「婉曲表現」というキーワードに着目して、ぶぶ漬け以外の素材でも婉曲表現を使えばどんな側面でも応用できるんじゃないだろうか、と企画が発展していきました。

 

村上

モチーフは変わったけど婉曲表現というコンセプトはブレなかったと。

今、シリアスゲームが注目されてきていて、一般の大学でも研究が進んでいたりするけど、今回実際に作ってみてどうだった?

 

大野

私たち自身が普段シリアスゲームに触れてこなかったこともあり、ついゲームの盛り上がりを優先的に考える傾向があるので、ゲーム性を全面に出し過ぎてはダメとか、アレしちゃダメ、コレしちゃダメっていう制限が増えてくることによってアイデアが出なくなってきてしまって、色んなアイデアが出てきても、学術的に評価されるのかどうか、とか色々気になってしまいましたね。

 

村上

シリアスと名前がつくからと言って真面目一直線である必要もなくて、内容がバカバカしくあっても、結果的にその遊びの着地点として「社会の問題」について表現されていたことに気付く、またそのテーマについて深く語り合いたくなるような要素があれば一応シリアスゲームの定義としては当てはまるのかなと。

 

大野

それでいうと、今回はゲーム性というか、対話の盛り上げを最重要視していたので、京都人の人付き合い文化に深く入り込むシリアス性は若干弱かったかなと思いますけど、浅く知って深く楽しめるというゲームバランスになっているからこそ、より京都人の深いところを知りたくなるという形で、結果的にはある意味シリアスゲームと呼べるものにできたんじゃないかなと思っています。

 

村上

今回はこのチームの他に、京都のオーバーツーリズム問題を題材にしたボードゲームと、京菓子文化を理解するための対話型カードゲームがあって、それぞれに独特の着眼点があるっていうか、よくあるスタンダードなシリアスゲームではない少し捻くれたものが揃って、我々のゲームゼミならではの形が実現できた…のかも知れないね。

ということで、今回の制作で得た知識や技術、経験値をぜひ今後の制作に活かしていって下さい。

 

大野

はい、ありがとうございました。

 

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