日本画コース

自分なりに「日本画」のありようを見つけるための基礎 「模写(1年)」「和紙とアクリル板で描く(2年)」という授業【文芸表現学科学生によるレポート】

違うジャンルを学んでいても、芸術大学でものづくりを楽しむ気持ちは同じ。このシリーズでは、美術工芸学科の取り組みの現場に文芸表現学科の学生たちが潜入し、その魅力や「つくることのおもしろさ」に触れていきます。

 

文芸表現学科3年生の下平さゆりです。

日中はだいぶ涼しくなって、すこし肌寒いくらい、秋も深まってきましたね。最近はどこを歩いていてもキンモクセイのいい香りがするのが、うれしいです。

大学では、後期の授業がはじまって約1か月が経ちました。入試もはじまって、入学を控えている方も出てきたころでしょうか。授業内容も深まっていく後期、今回は、日本画コースの2つの授業に潜入した様子をお届けします。

 


 

模写を通して歴史から学ぶのは「生きた描線」

 

1つめの授業は、1年生の模写の授業。

百鬼夜行絵巻の模写を通して、日本画の表現の基礎を学びます。

 

↑長い絵巻の中から自分で選んだ1場面を題材に、徹底的に見比べて描いていきます。

 

「歴史から生きた線を学ぶ」、とお話してくださったのは、授業担当の岩泉慧先生。

絵巻から、その線のひとつひとつの動き、色の重なりなど、細部をじっくり観察しながら、なぞるように描き学んでいくこの授業。

自分のやりたい表現やオリジナリティを実現させる力を、今回の模写のように、絵巻に使われている古典技法から表現の基礎を学ぶ――その丁寧な「基礎の積み重ね」で鍛えていきます。

 

学生のみなさんにお話をお聞きすると、なんと模写をするのは今回が初めてのようです。戸惑いもなく、淡々と手を動かす学生の方を見ていると、貫禄すら感じます…。

 

↑模写で手本の作品をじっくり見ることで、観察眼を鍛えます。

 

描いたあとに見比べるのも、授業の肝

 

模写は立派な自分の作品のひとつで、作品づくりの一環。いつか描く自分の作品につながる、必要不可欠の大切な下地。

模写が単なる練習というだけではないと思えたのは、あたらしい発見でした。

 

「見比べたらわかる、というのが模写のいいところ」と、岩泉先生。完璧に模写ができなくても、失敗してもいい。本物との違いがわかることが大事。見極める、ということを失敗や成功を通して学ぶのが、この授業の肝かもしれません。

 

 

伝統的な素材と、現代的な素材とに描き比べてみる

 

この、丁寧に基礎を知る、という1年生の授業の流れを、しっかり自分の中に定着させた先で学ぶ「応用編」が2年生の授業。

1年前の模写を経て、こんどはアクリル板と和紙という、異なる材質の画材を使って日本画の描き比べをしていきます。

 

 

アクリル板という現代ならではの素材を使うことで、和紙に描くときとは違った描き味を知ることができます。

描き味の違いを「比べる」ということが鍵で、模写の授業と同じように、比べることを通して、改めて日本画と、その表現の幅広さを学べます。

 

新しい挑戦も、じつは「基礎の応用」から

 

実際に授業を見ていて、アクリル板ってどう使うんだろう、と思っていると、学生のみなさんは1年生のときに学んだ基礎の知識を使いながら、自分の表現を試そうとしていました。

なかには、アクリル板に貼った銀箔を変色させる技法を、「銀箔は入浴剤で焼けますよ」と教えてくれる人も。

 

 

焼けるってどういうこと!?とびっくりしながら実物を見せてもらい、なるほど、と思いました。

入浴剤に含まれている硫黄を銀に付着させ、その化学反応で起こる変色を、日本画では「焼く」というそう。

料理は化学、というのと同じで、絵を描くことが化学だと改めて感じた瞬間でした。

 

↑銀箔の変色を利用した作品づくり、完成が楽しみです。

 

新しい素材を使う場面でも、それは未知の経験ではなく、1年生で学んだ基礎の応用。

授業で得た知識や経験を自分のなかで溜めておき、いつでも取り出して比べたり、自分の表現に変換できるようにする。

そんな力がつきはじめていることを、銀箔を焼く説明をしてくれた学生の人から感じました。

 

 

遊ぶときや実験にこそ、技術が要る……そのための「基礎」

 

「現代は表現が多様化していて、全ての人が納得する日本画の定義を示すことは難しい。そのため、この大学では、自分で日本画の定義を見つけられるようにいろいろな事にチャレンジしてもらっています」。

 

そう教えてくれたのは、2年生の授業を担当する出口雄樹先生でした。

 

「いろいろな事にチャレンジする」ためには、やはり基礎がしっかりしていないといけません。

日本画コースの授業に潜入したり、先生方にお話をお聞きしたりすると、この「基礎」ということばが力強く、何度も登場します。

 

ものづくりの現場だけでなく、日常のあらゆる場面で「基礎が大事」ということばは言われています。

基礎が大事、なんて大前提で当たり前かもしれません。でも、この「当たり前」を真剣に受け止められる人がどれくらいいるでしょうか。改まって「基礎が大事」と伝えてもらえる機会も、自分自身で痛感する機会も、そんなに多くはありません。

 

その少ない機会が、日本画コースではつねに存在しています。

一貫して「基礎を学ぶ」ということをなによりの軸として捉えていて、切実にその必要性を伝えてもらえる場。

今回潜入した授業からは、日本画コースが、しっかりとした基礎があるからこそ遊べる実験場のように見えてきます。

 

 

表現は思ったよりも体力勝負、そんな力仕事に備えるために

 

実験場のような授業からは、表現は力仕事だ、という発見もありました。

自分の頭や心の中にある、まだかたちにならないものを、数ある画材や技法のなかから最適なものを選びとって、作品として仕上げていく。自分の目で、手で、じっくり見極める。つねに頭や心をフル回転させて手を動かすことは、想像以上の体力勝負です。

 

その勝負に負けない下地をつくるのは、「基礎」ということばが力強く伝えられる普段の授業。

頭には知識の引き出しが無数にあり、その理性的な部分と、経験や直感を大切にする感覚的な部分のバランスで作品をつくる――そんな姿勢を、この授業たちを通して身につけられるような気がしました。

 

 

 

取材記事の執筆者

文芸表現学科3年生

下平さゆり(しもだいら・さゆり)

湘南工科大学附属高校出身

 

大学2年生のとき、テレビドラマ用の脚本「夏休みの男」が、「シナリオS1グランプリ」(シナリオ・センター主催)で準グランプリを受賞し、雑誌「月刊シナリオ教室」に作品の全文が掲載された。
ふざけながらも、シンプルな葛藤でドラマを引っ張るサスペンスをつくる力が評価されてきた。京都の永観堂や旧三井家下鴨別邸などの、庭という独特な場所のありようからインスピレーションを得たノンフィクションも執筆している。

この「KUA BLOG」では、人や出来事との出会いを通して考えを豊かに遊ばせ、そこで見つけたおもしろさを記す視点を、「待つ」ようにして静かに育てあげてきた。

 

 

 

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