文芸表現学科

2022年度卒業制作受賞作と作品講評会のお知らせ

こんにちは、文芸表現学科です!

 

 

2月4日(土)より、京都芸術大学卒業展が開催中です。

文芸表現学科の展示会場(人間館4階NA412教室)では、4年生ひとりひとりが書きあげた小説や映像脚本、エッセイ、評論、ノンフィクションなど、さまざまなジャンルの文芸作品を文庫本化し、展示・販売しています。

 

 

展示会場の窓際一面を埋める色とりどりのタペストリー。

受賞作品それぞれの文庫を彩ってくれた表紙作品とともに、作中の印象的な一文を抜き出して展示を行っています。

 

今年度の卒業制作作品・全44作品のなかから、大学および学科が設定している各賞を受賞した9作品をご紹介いたします。

 

 

学長賞
小説『イルミネーション』

著:小櫻秀朋

 

装幀デザイン:山田茉加(情報デザイン学科2年)

カヴァー写真:渡邊莉那(美術工芸学科2年)

 

様々なものを失い続け、ついに母を失った京は、自分の人生に嫌気がさす。違う人生だったら。その思いは京に「並行世界を行き来する力」を与える。京は行方不明になった親友を探しながら、様々な自分と出会い、言葉を交わす──。

■教員講評/河田学・中村淳平

小説、脚本、マンガという異なる形式によって構成された本作に、戸惑いを覚える読者もいるかもしれない。しかしその根底にあるのは、このようにしてしか表現しえなかった作者自身の衝動である。

そしてその衝動は、なぜ人は芸術に魅了されるのかというテーマに直結している。本作を四年にわたる作者の芸術家修業の集大成といいうるのはこの根本的な問いを深く掘りさげたからであり、本作が一読に値するのは作者がこの問いに次の答えを与えたからである。

 

これだ、このひかり。からっぽで、だから必死な、あたしが惹かれたかがやきだ。

 

いうまでもなく、本作を支えているのはこの必死さにほかならない。

 

 

 

優秀賞
小説『どこでもない町大学』

著:向坪のどか

 

装幀デザイン:山口そら(情報デザイン学科3年)

カヴァーイラスト:久野優花(情報デザイン学科3年)

 

どこでもない町に行くには、西向きの電車に乗って終点まで——。

大学と町が一体になってしまった「どこでもない町大学」に住む親戚の家にいそうろうすることになった「ぼく」が、変な講義をたくさん聞く、学術ホラ話短編集。

■教員講評/山田隆道

N県Q市どこでもない町にある『どこでもない町大学』(〒314-1592)では、町のいたるところで死学や生物(なまもの)学といった奇妙な授業が行われている。町そのものが大学であり、大学そのものが町であり、学生でも教授でもない、もぐりの子供が一番えらいとされていて……。

こんなふうに終始徹底して人を食ったような距離感で、架空の学問や講義の模様を軽妙に綴っていく。言わばホラ話、バカ話の類なのだが、その背後には底知れぬ知性が漂っているから奥が深い。いかにも難しそうなことについて、常に少しだけ芯を外しながら語り続ける作者の手口は、実に愉快であり痛快でもあり、そして崇高なのである。

 

 

 

同窓会特別賞

小説『頬をなぞる』

著:朝倉みなみ

 

装幀デザイン:内堀航希(情報デザイン3年)

カヴァー作品:WANG MEITING(美術工芸学科2年)

 

復顔法とは身元不明遺体の生前の顔を復元する技術である。法医学者の夏美は、復顔師として各地の身元不明遺体と向き合う。共に奔走するのは、頬に大きな傷跡を負った若者、鏡子。顔にまつわる傷を抱えた二人が、復顔する意味を問い直す。

 

■教員講評/江南亜美子

人間関係のなかで生きる私たちにとり、人ひとりひとりを識別する「顔」にはどんな意味があるのか。実存的で深遠な問いに、「復顔」という法医学的な技術を重要モチーフとしてひとつの解を与えようとしたのが、『頬をなぞる』である。

復顔師の女性が偶然手がけたひとりの遺体。思わぬつながりが明らかになり、彼女の心を乱していく。そうしたサスペンスフルな物語を、禁欲的でリアリズムに徹した文体で展開した筆力にはたしかなものがある。女性同士のバディものとしても面白い。

人称や構成を粘り強く模索し、広く読者にひらかれたエンターテイメント小説として仕上げた点が、高く評価された。

 

 

 

奨励賞

小説『エッグプラント』

著:岩崎みなも

 

装幀デザイン:中野花菜(情報デザイン学科2年)
カヴァー写真:矢野美佳(美術工芸学科3年)

 

那須尾と多摩川の二人は、ブランド品やキャラクターグッズの「偽物」を作って金を稼いでいる。仕事を主導する那須尾は、多摩川の気の弱さを利用して偽物をデザインさせていた。だがある日、多摩川が自作した漫画原稿を発見し……。

 

■教員講評/江南亜美子

偽物と本物。まだ何者でもない焦燥感といっぱしの者と認められたい虚栄心。小説作品『エッグプラント』は、高校時代からの友人である男ふたりのいびつな力関係を通して、若者らしい普遍的な悩みと欲望を、ときにコミカル、ときにビターに描き出した。

下に見ていた相手がじつは自分を凌駕する存在と知った那須尾だが、多摩川のマンガ家としての実力を認めることができない。自身の嫉妬心と敗北感にフタをし、奇策に走ってしまう男の心の動きを、読者はスリリングに追うことになる。

創作の才能の有無という、芸術大学生にはなじみ深く切実なテーマに、卒業制作で真正面から取り組んだ心意気も素晴らしい。

 

 

 

奨励賞

小説『来る日』

著:奥村奈可

 

装幀デザイン:中田空(情報デザイン学科3年)
カヴァー写真:宮田紗花(美術工芸学科3年)

 

小学六年生の陽彩は、父方の祖母の家に行くのが憂鬱だった。いまだ男尊女卑の面影が残る親戚たちと過ごす夏休み。不満を募らせる陽彩が出会ったのは、そんな周囲とはどこか違う空気をまとった、父の従兄弟・和臣だった。

 

■教員講評/仙田学

「来る日」は、思春期に入りかけた11歳の少女の心の動きを、丁寧に解きほぐしながら描いた作品です。
冒頭で、主人公の陽彩(ひいろ)は水筒に貼られた名前入りのシールを爪で剥がそうとします。
「ようやくほんの少し捲れた部分を剥がそうとすると、表面だけが中途半端に剥がれて余計に剥がしづらくなった 」
陽彩は、こんな子です。親から貼られたラベルを自力で剥がそうとしてうまくいかず、その跡が不細工にこびりついたままの小六の子ども。
親や大人たちに強い違和感を覚えるようになった、小学生最後の冬の日に、陽彩は小さな冒険をします。そっと覗くようにその冒険を見届けてあげてください。

 

 

 

奨励賞

映像脚本『かまへんで万博!』

著:河合萌花

 

装幀デザイン:坂本真結菜(情報デザイン学科3年)
カヴァー写真:原田一樹(美術工芸学科3年)

 

一九七〇年、大阪万博。大阪はもちろん、日本全体が熱狂に包まれていた時代。大阪の演芸に魅せられた青年、八一と、万博に強く反対し学生運動を主導する喜三彦。かつて親友だった二人が万博を機に再会、そして対立していく。

■教員講評/山田隆道

1970年、万国博覧会が開かれている大阪を舞台にした映像脚本。万博の熱狂を能天気に楽しむ20歳の土木作業員・八一と、それを衆愚政策だとして反万博の学生運動に明け暮れる大学生・喜三彦。今となっては相容れない二人だが、実は小学生時代は漫才コンビを組んでいて……。

この脚本でもっとも評価したいのはセリフである。物語が要請する言葉ではなく、この作者からしか生まれてこないような、なんともチャーミングで、どこか引っかかりのあるセリフが随所に散りばめられている。苦悩して言葉を捻りだしたような汗臭さもない。おそらくセリフが湧いてくる人なのだろう。脚本家として、これは最大の強みだ。

 

 

 

奨励賞
小説『柚子と八朔』

著:田中澪

 

装幀デザイン:大西舞(情報デザイン学科3年)
カヴァーイラスト:菊島耕太郎(情報デザイン学科3年)

 

漠然とした生きづらさを感じていた柚香は、友人の麻莉那から整形をするのだと告白される。そして、麻莉那は自分の容姿についての思いを吐露し始めた。図らずも、自分の生きづらさと向き合うこととなった柚香がたどり着いた「答え」とは。

■教員講評/江南亜美子

現代的なテーマである「ルッキズム」を、たんに外見至上主義をやめようというイデオロギーに矮小化してしまわず、容姿と人格形成という観点から深く掘り下げていったのが『柚子と八朔』という小説作品である。

見た目が良いために得もするが鬱屈もしている柚香は、整形願望のある麻莉那、地下アイドルのシロちゃん、バー店員の朔とのそれぞれの関係のなかで、自身の弱さを徐々に発見する。思考の変化のプロセス(それは柚香の成長だ)をリアリティ高く描いた点が、評価された。会話文の臨場感が書き手の強みでもある。

リサーチ力も武器に、今後も独自の視点からテーマに取り組んでほしいと期待している。

 

 

 

奨励賞

評論『表象の中にしかない戦争 ──真藤順丈『宝島』を解体する

著:田原瞬

 

装幀デザイン:坂本真結菜(情報デザイン学科3年)
カヴァー作品:奥野葉留香(美術工芸学科4年)

 

多くの人にとって戦争とは遠い現実であり、ありふれたフィクションである。虚構の戦争を編む全ての作家は何を思い、何を語り、何を問いかけているのか。真藤順丈の『宝島』を通してイメージのなかにしかない戦争を把握する。

■教員講評/中村純

「物語は戦争を語り得るのか、誰が何を語るのか」という問いに真摯に向き合った労作である。戦争を体験したことのない作家が戦争を描く。加害者性を抱えた本土の人間がオキナワを描く。当事者以外が当事者を語るという倫理的問題に直面しながら、田原は真藤順丈の『宝島』というテクストを標として、作品の「語り手」とともに思索の旅をし続けた。

ハッシュタグで時代のイデオロギーを孕むキーワードで作品や作者が括られる時代に、田原はひとつのテクストを読み込み、作品を作品に取り戻す。社会と作品を切り分け、テクストを読むことでしか作品と社会を貫く評価は見えてこない。作者のそんなヴォイスが聴こえてくる。

 

奨励賞

小説『今日、君の恋愛小説が終わる。』

著:森路遼

 

装幀デザイン:村谷あみ(情報デザイン学科3年)

カヴァーイラスト:石川美空(マンガ学科1年)

ある日、人嫌いな高校生の澄人は、同じクラスの小春と修学旅行の旅行委員に任命される。振り回されながらも、小春を知るうち次第に心を開いていく澄人。しかし修学旅行の前日、澄人は小春が書く小説に綴られた残酷な真実を知ってしまい——。

■教員講評/河田学・中村淳平

はじめは借り物の衣装をぎこちなく身に纏っていたのに、いつの間にか舞台の上で自由に踊れるようになっていた——そんな印象の作品である。

作者が書こうとしたのはいわば王道の恋愛小説であり、王道であるがゆえに、登場人物もプロットもほとんどが借り物だった。しかし作者は飽くことなく、細部に至るまでこつこつと改稿を重ね、そこから生まれたオリジナリティは、本作の終結点に凝縮されている。それは破局であると同時に、新たな希望の生まれる場所である。そこには「物語」の永遠のテーマ、《出会い》と《別れ》が結晶のように輝いている。

 

 


 

 

卒業展会期中である2月10日(金)・11日(土)には、これら9作品を含む、全44作品を対象とした学科イベント「卒業制作作品講評会」を開催します。

4年生の卒業制作作品ひとつひとつについて、学科教員、在学生、時には特別ゲストや卒業生らも交えて講評・意見交換していく学科最大の文芸イベントです。

 

毎年熱い意見交換が行われる講評会の様子を、昨年度に引き続き、今年度もYouTubeにて配信します。

どなたでもご覧いただけますので、実際にお手に取っていただいた作品がある方や、気になっている作品があるという方はふるってご参加ください!

 

4年生の集大成を、皆さまにも見届けていただけますと幸いです。

 

文芸表現学科 卒業制作作品講評会

▼日時
2月10日(金)9:00~19:20
2月11日(土)9:00~17:20

 

▼配信URL
10日:https://youtu.be/QHYmCOO8biU
11日:https://youtu.be/sc5O35TBDOw

 

 


 

 

2022年度 京都芸術大学卒業展 大学院修了展

開催期間:2月4日(土)〜2月12日(日)

開催時間:10:00-17:00(入場受付は16:30まで)

入退場:自由・入場無料

開催会場:京都芸術大学 京都・瓜生山キャンパス

(文芸表現学科:人間館4階・NA412教室)

 

卒業展HP:https://www.kyoto-art.ac.jp/sotsuten2022/

 

 

 

文芸表現学科 オンラインストア

『BUNGEI BOOKSTORE』

URL:https://kua-bungei.stores.jp/

運営期間:1月29日(日)〜2月19日(日)12:00予定

 

 

 

 

高校生・受験生対象

卒展オープンキャンパス

開催期間:2月11日(土)〜2月12日(日)

開催時間:11:00-16:00※事前予約制

 

学科教員による「卒展ツアー」開催!

教員自ら展示会場にご案内し、見どころをご紹介します!

 

詳細・ご予約:https://www.kyoto-art.ac.jp/opencampus/oc02-11_02-12/

 

 

 

 

 

(スタッフ・牧野)

 

 

 

 

 

 

 

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