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間近でみた制作姿勢は、トップクリエイターの指標に。総合造形4年・團隆希さん 米山舞プロジェクト参加学生へインタビュー!

こんにちは。文芸表現学科・4年の出射です。連日の猛暑でしたが、皆さんはどんなふうに夏を過ごしていましたか? 校内では今年もねぶた制作など、夏休みもお盆以外は休みなくものづくりが行われていました。今回はそんなものづくりの取り組みのひとつ、ウルトラプロジェクトに参加した学生の体験談をお聞きしてみました。なんだか心が燃えてきて、自分もつくりたくなるお話です🤖

 


 

 

多様なクリエイターと共につくる、ウルトラプロジェクト

 

今回お話を聞いたのは、総合造形コースの4年生、團隆希さん。團さんが参加したプロジェクトは、米山舞(イラストレーター)× ウルトラファクトリーで行われた、「ウルトラプロジェクト」と呼ばれているものです。

 

ウルトラファクトリーは、金属、木材、樹脂の加工や、UVなどによる特殊印刷など、とにかくいろんな機材を、全学科全学年が使うことのできる共通工房。その工房を拠点に、さまざまなつくり手と協働して学外で発表する作品制作を行うのが「ウルトラプロジェクト」なのです。

 

 

ウルトラプロジェクト

 

 

本学には他にも社会実装プロジェクトと呼ばれるものがありますが、こちらは企業やまちから「依頼」を受けて作品を制作する、または協働していくことが多く、ウルトラプロジェクトとはやや始まり方が異なる印象です。

 

そんなウルトラPJ(以下プロジェクトはPJと表記)のひとつとして、米山舞PJがスタートしたのです。
2023年5月12日(金)から29日(月)まで開催されていた米山さんの展覧会(詳しくはこちら)に合わせ、3月末に発足、制作期間は1ヶ月と短期集中。5名の学生が参加しました。

 

《EYE》(撮影:株式会社カロワークス)

 

根気づよさがあれば、初心者でも取り組めるウルトラファクトリーの魅力

 

本PJの中心的なメンバーとして米山さんを支えた團さんが、はじめてPJに参加したのは、3年生後期だったと言います。

ヤノベケンジさん(現代美術家・ウルトラファクトリー ディレクター)のゼミに参加したことがきっかけだったそうです。

 

 

  “出身が富山なので、高校生の頃にオープンキャンパスに行くときは大学から出ているシャトルバスを利用していたんです。
バス内ではヤノベさんのドキュメンタリーや学校紹介の映像が流れていたから、PJというものがあることはそのときから知っていて。でも、すごいおもしろそうなことやってるなぁと思う反面、コロナ禍に入学したこともあったし、周囲にはヤノベさんのことが好きでだったり、PJに入りたくてこの大学に来たりっていう子たちがいるわけです。
僕は衝動的に総合造形コースに入ったところもあって、興味はあるけれど、そういう、どうしても参加したいんだ、という熱意には繋がっていないところがありました。”

 
 

  “3年生のはじめに入ったヤノベさんのゼミで、自分がもともとイラストレーションに興味を持ってきたことや、イラストから立体に繋げていけたらおもしろいんじゃないかと思っていることを、ヤノベさんに話していたんです。
そのころに、もしかしたら米山さんのPJが始まるという話を聞いて。もともと米山さんはアニメーターとしても、イラストレーターとしてもすごく好きな方だったので、そんな米山さんのイラストを立体と掛け合わせていく今回のPJって僕の興味にはぴったりだったんですよね。”

 

 

大学に入ってから、どんなことでも必ずそこには学びがあるんだ、と思うようになったという團さんは、はじめてPJに参加するときにも、前向きな気持ちだったそう。

 

 

  “それで、少しでも工房を使ったものづくりの経験を積んでおけば参加できるかもしれないと、まずはヤノベさんのPJに参加しました。それが3年生の後期ですね。メンバーは1年生や2年生が多いので、僕のように3年生の後期に参加している人は珍しかったんですが、僕からしたら彼らの方がPJの先輩なので、教えてもらう気持ちで、機材のことなどを学んでいきましたね。”

 

  “作業内容は、割と単純で、初心者でもちゃんとこだわって取り組めることが中心です。でもやっぱり根気はいる。そこが良い面でもあり、難しい面でもありますね。ヤノベさんのPJは《SHIP’S CAT(Speeder)》という車をつくりますとか、3メートルを超える大きい猫をつくりますとか、一回もやったことないのに大丈夫かな、みたいな気持ちになるものも多いんですが、実際は淡々と同じことを繰り返していいものをつくっていくので、根気良く地道に学べば成長できるんだなぁと感じていました。”

 

 

↑表面をひたすら磨く

 

たしかに、あの滑らかな流線型を描く車や、巨大な立体作品を見ていると、自分とはかけはなれた世界のものづくりに思えます。

そもそも車ってつくれるの? というように。そんな「これってつくれるのだろうか?」という思いをサポートし、実現していくのがウルトラファクトリーなのです。

実際にウルトラの設備を使ってみると、つくることに対する喜びがふつふつと湧いてきます。それらは誰かのつくったもので楽しむ瞬間よりももっと、心の中心を潤す喜びのような気がします。キッチンで料理をするように、勝手がわかればより楽しくなる。そういう場所です。

 

 

  “僕としては、作業時間だけでなく、休憩時間にするヤノベさんとの会話にも学ぶことが多かったです。休憩はヤノベさんのオフィスのある明るい部屋で取らせてもらっていたんですが、オフィスにはアニメのフィギュアとかもたくさん置いてあって。しかもそれが先月までアニメをしていたような、新しい作品のフィギュアもたくさんあるんですよね。
そうしたオタク的な面と同時に、もちろんアートに関する書籍も山積みになっていて。新しい文化と知識と、どちらにも視野を広く持っている。ここまでやってヤノベさんがあるんだ、と思ったんです。”

 

 

そうした、普段の授業だけでは計り知れない、つくり手たちの人物像が見えてくることもまたPJのおもしろいところなのだと思います。

 

 

 

 

夢中で過ごした一ヶ月間は、人生のなかの重要な学びに

 

そして米山舞PJで團さんは、中心人物として制作に携わります。

 

  “個展で展示するイラストに描かれている水や風といった、エフェクトの部分を立体にする作業を手掛けさせていただきました。
もともと米山さんのイラストから、立体にする部分だけを外注で3Dデータにしてもらっていたんです。それを発泡スチロールの原型に置き換えて、石膏を流し込み、FRP(繊維強化プラスチック)を張り込んでから、やっと樹脂を流し込めるんですが、それだけでは粗があるので、ひたすら磨いていくんです。その磨き加減も塗装の種類によって変わるのですが、これがかなり大変で……。
どんな塗装をするかも決まっていないので、どこまでやれば完成かもわからないなか納期がある。たくさんの人が楽しみにしている個展の作品ですし、やっぱりいつもとは違った責任感が生まれました。”

 

 

↑石膏で型取りをする様子

↑白く繊維上のものがFRPと呼ばれるもの。これがエフェクトの先端部まで綺麗に貼られていないと、樹脂が隅々まで行き渡らない

 

そんな緊張感のある状況でも、團さんは夢中で毎日を過ごしたそう。

 

  “米山さんのときは、制作期間も1ヶ月ときちきちで、ほぼ毎日、一日中大学で制作していました。
だからその期間はバイトも入れないですし、自炊ができない日というのも多かったんです。4年なので就職活動とも被りますし。
けれど自分の人生のなかの経験として、米山さんと制作する時間には大事な学びがたくさんあると思ったので、僕なりに優先順位を考えた上で参加しました。もちろん今回のPJがそういうスケジュールだっただけで、基本的にはバイトなどとも両立できると思います。”

 

  “その期間というのは僕も、米山さんというとんでもなくすごい人と関わってるもんだから、つくりたい気持ちが昂りすぎて、家に帰ったらパッパとご飯を食っちゃって、イラストを夜遅くまで描いたりしてました(笑)”

↑反射の少ない塗装になった

↑キャンバスにプリントされたイラストの上から完成したエフェクトを貼っていく

 

そんな團さんは、PJに夢中で取り組んだ経験を振り返って、プロの佇まいにこそさまざまなことを学んだと語ります。

 

  “僕のなかで、トップの人たちがどう活躍しているか、「自分の現状の生活や作品に対する熱意の持ち方は、プロと比べたら一体どういう違いがあるのか」はもっとも知りたい内容なんです。もちろん動画配信などで作画や制作の風景は見れますが、その人がどういう動きをしながら絵を描いているのかって配信では伝わらない部分があるんですね。そこも含め、作業時間だけでなく、休憩時間の会話や、作業終わりにご飯を食べたりする時間からも、本当に学ぶことが多かったです。”

 

  “プロのとてつもない作業を見たとき、僕は、自分もここまで頑張ろうというタイプです。諦めるよりも、ここまでやったらこうなれるかもしれないと思うし、ここまでできる人だからこそトップにいるんだなって、米山さんのプロジェクトでも、そういう思いになりまして……。”

 

  “米山さんと関わるなかで、アニメーターをしていたという自身の源流をすごく大事にされているのを感じて。僕も卒業制作に取り組んでいくうえで、自分はどういう経験を積んでここまできたのか、改めて振り返って、作品をつくっていくところです。”

 

↑梱包作業完了後、米山さん(1番左)との一枚

 

PJには、確かに特別な知識も技術も持たない状態で参加できますが、一方では團さんのように常に観察し、いつでもなんでも吸収できるような構えでいることが大事なのかも、と思います。

そして何より、一度我を忘れて取り組んでみること。

どんなに嫌でも自分とは一生一緒にいるのだからこそ、PJに参加したり新しい体験をするときには我を忘れて誰かのすごさにのめり込んでみると、その先でまた自分のことを捉え直していけるのかもしれません。

 

オープンキャンパスで実施されるキャンパス見学ツアーなどで、ぜひ工房にも足を運んでみてくださいね◎

 

 

 

 

取材記事の執筆者

文芸表現学科4年生

出射優希(いでい・ゆうき)

兵庫県立西宮北高校出身

 

大学2年生のときから書きはじめた、この「KUA BLOG」での美術工芸学科に関する取材記事のシリーズが、学内外で人気を博してきた。
個人で記すノンフィクション作品も含めて、地に足をつけ、ゆっくり呼吸しながら取材対象を受けとめ、言葉を深く彫り込んでいくプロセスの切実さに定評がある。
「逸脱する声 京都芸術大学美術工芸学科教員展」(2022年6月に開催)では、文芸表現学科の学生たちが23人の専任教員にインタビューした声の数々も作品として発表されたが、そのうち最多の8人へのインタビューとそのまとめを担当した。

 

 

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