- 2024年3月7日
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ゼミ通ヒーローズVol.67 藤原莉子と中田未奈と卒制作品『Alice In Moratorium』について語るの巻 Part2
※「ゼミ通ヒーローズ」とは、京都芸術大学キャラクターデザイン学科ゲームゼミの学生の研究や取り組みについてピックアップし、担当教員村上との対談形式で綴る少々マニアックなブログ記事となっています。
ゼミ通ヒーローズVol.67 藤原莉子と中田未奈と卒制作品『Alice In Moratorium』について語るの巻
Part1のつづき
藤原莉子さん(左)と中田未奈さん(右)
村上
技術面でいうと、ドットコードリーダーの実装に物凄く苦労してたよね。
藤原莉子(以下藤原)
中間合評のときは、ペンで読み取ったドットコードをパソコンで認識することができるようになったんですけど、DB(データベース)ファイルを使おうと思ったらUnityとの連携がうまくいかなったんですよ。Unity側の信号と衝突しちゃってうまく作動できなかったんで、知り合いのエンジニアに相談して、ちょっとアナログ的な方法に切り替えたら実装できるようになりました。それができたのが確か9月に入ってからでしたね。
村上
アナログ的なつなぎ方っていうのは、具体的にはどういうこと?
藤原
読み取ったコードには全部番号が割り振られてるんですよ。その番号の名前がついた空のファイルをここのフォルダに生成しますっていうふうにプログラムを組んで、その空のフォルダの名前だけをUnityが取得するっていう一方通行な仕様に変えたらうまく実装できるようになりました。
そこから先はUnity側のスクリプトで番号だけ不足するコードを書いて、一定時間経ったらファイルを削除するという仕様にしました。
村上
ファイルを削除しておかなかったらメモリ内にどんどんゴミが溜まって、処理が重くなって最後は固まるっていうバグが発生するもんね。これは外部デバイスを使った時の宿命なんだろうけど。
藤原
一回フラグが立ったら、その情報を残す必要もないんで。もし残したいものがあっても、スクリプトでフラグ立ててやったらいいだけなんで、全然問題ないですね。
村上
なんか、元々はイラストレーターを希望してこの学科に入ってきたのに、まさかこんな難しいプログラミングをすることになるとはね。
藤原
はい。2Dイラスト希望でしたよ(笑)
村上
昨年度の学科展の時点で、アナログゲームなのに電子部品をギミックとして使ってたり、既に技術屋としての片鱗はあったね。昔からこういう工作系は興味があったの?
藤原
うーん、興味があったというか、単に「こういうのがあったら面白いな」っていうのが頭の中にあって、それを実現したいと考えただけですけどね。自分的には技術的にもプランニング的にも能力がそんなにないと思ってるんで別の方向へプラスαでこうしたらもっと良くなるんじゃないかみたいな感じで。普通のアナログゲーム作りやったら他の人に勝てないだろうし、じゃあなんか別の要素を組み合わせて別のベクトルで面白さを見出したいなっていうのがありますね。
村上
さっきプランニング能力はないって言ってたけど、実はそれこそがプランニング能力なのですよ。感動的なストーリーを書くとか斬新なゲームシステムを考えるなんてことは正直誰でもできるんで、遊びのイメージを頭の中に描いて、それを実現するための具体的な技術を実装して、面白い体験を生み出すっていう、ここまでやるのがプランナーだから、藤原はもう十分それができてる。プランナーとしても優秀だけど、それ以上に普段絵も描いてるから明確にイメージすることができてるんだと思うよ。
村上
で9月まで技術検証に費やして、実際に絵本として作ってコードを読み込む仕様を実装したのは11月ぐらいだったかな?
中田未奈(以下中田)
12月に入ってたと思います。ステージの構想とかやることが膨大すぎて、もうシナリオと作画を同時並行でやってて、絵の素材が揃ったのが12月ぐらいでした。そこから印刷して仕掛け絵本の組み立てをしてたんで、控えめに言って地獄でした。
シナリオをチェックしてもらったのが9月で、この時はまだデザインの工数も割り出せてなかったから、かなりヒヤヒヤしましたね。
村上
技術検証含めゲームデザインとシナリオと一部のコンセプトアートが藤原担当で、それと並行して中田がコンセプトアートと実データ用の作画を担当してたね。
中田
ゲームとしてどういう展開にするかは結構早い段階で決まってたんで、細かい部分は決まってなくても絶対に必要になってくるキャラクターデザインを先に進めて、リコちゃん(藤原)が仕様を考える時に、ギミックのアイデア出しとかもしてました。
村上
絵本の形になったのは最終合評の直前だったね。
基本システムは何とか秋に完成して、今度は印刷したドットコードを読めるかどうかっていう難関が立ちはだかったよね。
中田
いや、ほんっと上手くいかなくて…。
村上
12月に入ってコードが読み込めないって分かった時はかなりヤバいと思ったけど、あれは結局印刷の精度の問題だったのかな?
中田
そうです。ドットコードが細かすぎて、これを再現できる印刷が難しかったんです。研究室のインクジェットもレーザープリンターもダメで、どの印刷会社に発注しても全部ダメだったので、もう実現は無理なのかなって本当にその時思ってました。で、恥を忍んでステッカーを張って実現するしかないのかって思いながら…。
村上
それやると、さっき話したQRコードと同じことで、答えがバレバレになるからゲームにならないという…。
中田
そうなんっすよ。
村上
最終的にどうやって解決した?
中田
解決したのはもう本当に展示ギリギリでした。ドットコードの開発元であるグリッドマークさんに問い合わせて、どうしても実現不可能なのでそちらで印刷お願いできないでしょうか?って(笑)。そしたら「いいですよ」って言ってもらえたので急ピッチでやってもらいました。仕掛け絵本の組み立ての設計は自分がやってたんで、印刷が終わったところから毎晩徹夜で組み上げていきました。
村上
修羅場(笑)。ギリギリまで粘りに粘ってなんとか実現したってことだね。
中田
そうですね。本当いろんな人の力を借りて実現できました。
村上
なるほど。制作の工程で他に苦労したところはある?
藤原
プログラミングの物量ですね。
村上
デバイス連携のプログラミングじゃなくてソフトウェア内部のプログラミングね。見せ方も含めてすごく良くできてたね。特にお茶会のシーンのライティングと被写界深度の設定とカメラワークは素晴らしかったよ。映像演出をプログラミンで実現するのは今回の卒制で初めて?
藤原
もちろん初めてです。カメラが動いた時の臨場感だったり空間を感じさせる描写をしたかったので、カメラの首を振るだけじゃなくてカメラそのものを移動させることで絵の奥行き感を出しました。そのときに被写界深度を出すために、絵本とはちょっと距離感を変えて、デジタルゲームで見栄えするようにアレンジを加えたりしました。何を見たらお客さんが驚くかっていうところを意識しましたね。
全部のステージを見比べながら、何か足りないなって思ったら、随時エフェクトを追加したり照明を調整したり。中田ちゃんから絵の素材をもらってからもずっと繰り返し調整してました。
ステージごとに見せ方やカメラワークを変えてて、一つ目のステージはわざと3フレーム遅れてアリスを追従するようにして挙動をリアルにしたり、他のステージは調べるアイテムごとにカメラを動かしたり。
中田
後輩の皆さんには、とにかくゲームの制作は計画的にやろうねって伝えたいですね(笑)。
村上
ゲーム制作は、形が見えてくるまでに時間がかかるし、一旦完成してからが本当の制作の始まりだから、とにかく計画を立てて、前倒しで作業をする癖をつけておかなきゃね。
中田
計画立ててやってたつもりなのに、毎日夏休み最終日状態でしたよ。ずっと締め切りに追われて、本当に冗談抜きで泣きながら作ってましたからね。でも泣いたらインクが滲むから上向きながらハサミでカットして「終わんない~!」って(笑)
村上
今回の制作は先の読めない実験的要素も多かったし物量もすごかったからね。
中田
皆で集まって計画表を作る時間みたいなの作った方がいいですよマジで。作ってこいって言っても作ってきませんから(笑)。やれる子は家で勝手にやるんでしょうけど、私みたいな計画性のない子はやれないですから。強制的にやらせた方が良いっすよ(笑)
藤原
うふふふふふ
中田
自分のことを過信しちゃうんですよね。この四年間の中でどの課題もギリギリで何とかなってきたから今回もできると思ってしまって。今自分はどれぐらい終わってないかっていうのを思い知る機会とか、途中経過をみんなで共有する時間とか、そんなんナンボあってもいいですからね(笑)、いや、ほんとに。血と涙でできてたんですよ。あのアーチは特に。
村上
急にアツく語り出した(笑)
今年はタスク管理を徹底させるわ。
中田
ほんとマジで、マジでほんとにそうしてください。
藤原
うふふふふふ
中田
特にデザイナーは寝る前に一枚描いてから寝ろって言いたいです。睡眠マジ大事なんで、たくさんやらなくていいから、とにかく毎日一枚描けと。ええからやれと。寝てから描こうじゃなくて描いてから寝ろと。
藤原
あはははは
村上
ありがとう、重々言っておきます。というわけで、制作大変お疲れ様でしたー!