キャラクターデザインコース

ゼミ通ヒーローズVol.68 野村夏望と吉中紫月と卒制作品『おかしの島』について語るの巻

 

 

※「ゼミ通ヒーローズ」とは、京都芸術大学キャラクターデザイン学科ゲームゼミの学生の研究や取り組みについてピックアップし、担当教員村上との対談形式で綴る少々マニアックなブログ記事となっています。

野村夏望さん(右)と吉中紫月さん(左)

 

村上

今回は、卒業制作作品の『おかしの島』を制作した野村夏望さんと吉中紫月さんのインタビューを行いたいと思います。ではまず自己紹介からお願いします。

 

野村夏望(以下野村)

企画兼プログラマー担当の野村夏望です。

 

吉中紫月(以下吉中)

企画兼デザイナー担当の吉中紫月です。

 

村上

では作品の紹介をお願いします。

 

 

野村

このゲームの設定としては、最初に主人公が「おかしの島」という不思議な島に流されて、そこから食材を集めてお菓子のイカダを作って脱出するというストーリーになってます。

ただしその島で拾えるものは余らせてはダメで、絶対に全て使い切らなきゃいけないんです。

このゲームのテーマとしてフードロスの問題を題材に取り上げていて、ものを無駄にしないように綺麗に使い切るためにどうするか、というのを考える内容になっています。このゲームで遊んだ人が、身近なところからできるフードロス対策についてちょっとでも何かを感じ取ってもらえたらいいなっていう思いで制作しました。

 

村上

なるほど、シリアスゲームの側面もある作品になってるわけだね。

 

野村

そうですね、実際に展示してみたら、意外と数字を合わせるところに熱中する来場者の方が多くて、なんか算数の知育玩具的な側面も見えてきましたね。

 

村上

ちなみに主人公が島流しにあったストーリー設定とは?

 

野村

お菓子作りが趣味のりんごちゃんという主人公が、ある日間違ってカップケーキをゴミ箱に落としてしまったことから、お菓子の神様が怒ってりんごちゃんをお菓子の島に島流しにしてしまった…という展開です。

 

村上

研究テーマがフードロス問題で、それはストーリーの展開でも、また「余らせてはいけない」というゲームシステムとしても整合性が取れてるね。

企画の初期段階からフードロスっていう文言が出てたと思うんだけども、元々この問題には関心があったの?

 

野村

いえ、最初は吉中さんの落書きから始まって、そのときに食べ物を題材にしたいっていう案が出てたんです。ゲームとしては全然違う内容で作ろうとしていて。

 

吉中

そのときは食べ物と動物のキメラみたいなものを描くのにハマっていて、なんかそれを使えないかなぁっていう話をしてまして。

キメラってそもそも奇妙な生物じゃないですか。その奇妙な生物たちを研究者が観察したり保護したりっていうのを最初に考えてました。

 

村上

食べ物をモチーフにしたキャラクターが登場するというところから始まって、でもそれじゃ研究テーマとして浅いからもっと普遍性とか社会性とかメッセージ性のあるものでテーマを深掘りしなきゃ、って話をしたね。

 

野村

ちょうど一年くらい前はそんなやりとりをしてましたね。

で、フードロス問題を調べ始めてました。

 

村上

その着眼点は良かったんだけど、今度はそのフードロスが単なるストーリーとして組み込まれてるだけだったから、「それってゲームである必要性ある?」と突っ込んで、ゲームシステムとしてフードロスを取り込むにはどうすればいいかを考えていったね。

 

野村

そうですね、結構迷走してました。

 

吉中

迷走したし、難航して立ち止まったりもしましたね。

 

村上

ゴールデンウィークくらいまでは企画のちゃぶ台返しが続いて、ようやく今のテーマとシステムが見えてきたって感じだったね。

 

野村

企画が見えてきた要因としては、一度アンケートを取ったのが大きかったですね。

買った食材の消費期限が切れた場合どうしますか?とアンケートを取ったところ、大半の人が「気付いたら期限が過ぎてたから捨てた」と回答してました。じゃあ身近なところからできる対策をゲームシステムとして落とし込めないかと考えて、「ぴったり使い切る」ってなんか気持ちいいんじゃないかという結論に至って、今のシステムになりましたね。

 

村上

実装されてる食材の種類は?

 

野村

4種類ですね。それを使って作れるものの種類が、いかだ、オール、帆、ハンモック、椅子と、ハチミツの結晶があります。

 

村上

ハチミツの結晶…?そんなのあったっけ?

 

吉中

ハチミツの結晶は、ストーリーのエンド分岐を構想して作ったアイテムなので、実用性はないです。

 

村上

実際に子供が遊んでた印象だったけど、反応はどうだった?

 

野村

やっぱり受けは良かったですね。展示教室に入って、りんごちゃんの絵を見た小さい女の子が一直線に来て「遊びたい!」って言ってくれました。

 

吉中

小学生って普通にNintendo Switchとかで遊んでるじゃないですか。だからすぐに操作を理解してくれたので、そんなに詰まることなく進めてくれてました。レシピを見て「この材料が何個いる?えー。これがこれだから、あと何個取ればいいんだ」って声に出しながらすごい楽しそうに進めていて、クリアしたらガッツポーズしながら喜んでくれてて(笑)

 

野村

遊んでくれた小学生もオーバーリアクションだったというか、クリアできたときすごかったですね。真剣にレシピの画面を見て手持ちのアイテムと見比べて、「よし行ける!」ってアイテムを取りに行って、結果クリアできてよっしゃーみたいな感じになってたので、その様子を見ているのが楽しかったです。

 

村上

そこがゲーム作りの醍醐味だよね。

 

野村

そうですね。しっかり見て考えて、数字がバチッと合ったら気持ちいいっていうところを作りたかったので。一番欲しかったリアクションだったなっていう感じですね。

 

村上

フードロスをテーマに…というと堅苦しいシリアスゲームの印象を受けるんだけど、でもプレイしてみると実は算数ゲームになってる点が面白いよね。

レシピを見て計画を立てて、そのためにどう行動するかを考えて、食材を拾い集める過程でちゃんと頭の中で足し算をするっていう。

お菓子が題材で可愛い絵柄だから自然にゲームの中に入り込んで、算数問題を解いてる意識もなく計算を楽しんで、しかもいつの間にかフードロス問題について触れてる。そう考えると知育玩具としての有用性はかなり高いと思う。

ちなみに算数の問題になっているところの難易度調整はどうやって進めた?

 

野村

ひたすらトライ&エラーでしたね。最初にとりあえず数値を決めて実装してテストプレイするんですけど、この数字だとちょっとゲームにならないなってなったら素数で組み合わせてみるとか、色々変えて、結果的に今の数値設定になりました。

 

村上

さっき言った「ゲームにならない」っていうのは、どういう状態?

 

野村

単純に簡単過ぎて作業的になってしまうとかですね。

このゲームに登場する数字っていうのが、大きく二つ「拾えるアイテムの数」と「使うアイテムの数」があります。例えば、拾えるアイテムの個数は2個・3個・5個というように最初から決めてたんですけど、使うアイテムの個数として、例えばアイテムAとBがあるとして、Aのアイテムを作るための個数が5個で、Bの方が10個必要となると、もう見た瞬間に答えが出てくるんですよね。そういうときは片方の個数を7個にしてみて、ちょっと迷う感じにしたりですね。

 

村上

要するに片方が合わないようにするってことね。

 

野村

そういうことです。一発では合わないというか、片方が変な数字になってしまうので、余らせないように取得する個数をちゃんと考えるように意識して調整しましたね。

 

村上

なるほどね。そこが今回のゲームデザインの肝だね。例えば算数ゲームだけやらされていると子どもは苦痛に感じるけど、そこにストーリーとキャラクターがあって、島を脱出するっていう目的を与えてやると、もう勝手に算数を楽しんでいくっていう。可愛いお菓子のビジュアルで気を引くというか惑わしておいて、勉強していることに気づかず勉強してるみたいな。それがシリアスゲームとしての理想的な形だったんで、能動的に考えたくなるように一筋縄ではいかないような数字の組み合わせを入れて単純作業感をなくすっていうところが素晴らしい。

 

村上

もし今後この作品をコンテストに応募することがあれば、もっとレシピと食材のバリエーションを増やして、算数問題の面白さをもっと出していけば普通に商品としてリリースできる作品になると思うよ。あとはしっかりバグを取って(笑)

 

野村

PCじゃなくてスマホ仕様にしたらいいかもですね。最近の小学生はだいたいタブレットを持ってるらしいから自然に遊んでくれそうです。

 

村上

教材として入れてくれたら広がりそうだね。

では、そういうわけで、せっかく作ったゲームなので一人でも多くの人にプレイしてもらえるようにぜひ卒業後も制作活動を頑張ってください。

 

 

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