キャラクターデザインコース

ゼミ通ヒーローズVol.67 藤原莉子と中田未奈と卒制作品『Alice In Moratorium』について語るの巻 Part1

 

※「ゼミ通ヒーローズ」とは、京都芸術大学キャラクターデザイン学科ゲームゼミの学生の研究や取り組みについてピックアップし、担当教員村上との対談形式で綴る少々マニアックなブログ記事となっています。

 

藤原莉子さん(左)と中田未奈さん(右)

 

村上

今回は卒業制作作品の『Alice In Moratorium』を制作した藤原莉子さんと中田未奈さんのインタビューを行いたいと思います。ではまずは自己紹介からお願いします。

 

藤原莉子(以下藤原)

ゲームゼミのゼミリーダーを務めてます藤原莉子です。今回の制作では主にプランナーとプログラマーを担当していました。よろしくお願いします。

 

中田未奈(以下中田)

ゲームゼミ4年生の中田未奈です。デザイナー兼プランナーを担当していました。よろしくお願いします。

 

村上

では作品の概要を聞かせて下さい。

 

藤原

今回作ったゲームは仕掛け絵本とデジタルゲームを融合させた作品になっています。絵本に印刷された目に見えないような小さなコードを、ドットコードリーダーというペン型のデバイスを使って読み取って、それがデジタルゲームの中の動きに反映されるという仕掛けになってます。

童話をモチーフにして作ろうと考えていて、デザイン担当の中田ちゃんの絵のテイストにも合ってる「不思議の国のアリス」の世界を表現することにしました。

アリスの仕掛け絵本に実際にドットコードリーダーで触れることによって、デジタルゲームの中で物語が進んで、そのゲーム画面のヒントを頼りに仕掛け絵本を観察してまた別の場所をタッチするという、デジタルとアナログを行ったり来たりしながら楽しんでいく新しいエンターテインメントを作りました。

 

展示の様子

展示の様子

 

藤原

研究のテーマは勉強だけが学習じゃないです。今回デバイスとして使用しているドットコードリーダーがそもそも学習で使われてるものなので、勉強用のデバイスをゲームに落とし込んで、全体のテーマとしてその四年間学んできた内容も踏まえて、遊びも含めて学習という定義で考えました。

ドットコードリーダーで絵本をタッチすると、デジタルゲーム内で物語が展開

 

村上

この作品の面白いポイントってどこだと思う?

 

藤原

実際に絵本をペンでタッチするとゲーム画面が動いて、それだけでもお客さんは驚いてくれたので、そこが面白さのポイントだと思います。あと、仕掛け絵本を360度ぐるぐる見渡して色んなものを見つけたり探したりするところとか。

例えば、家のステージとかお城のステージは、建物の外を調べて中に入ると、屋根を外して部屋の中を覗き込めるようになっていたりするので、そんな地続き感も面白いポイントになってます。絵本を観察して何かを発見する面白さと、実際に触れることで何かを得られる、そんなアナログ的な体験が楽しいのかなって思います。

 

中田

仕掛け絵本自体は木とか箱とかのパーツが本にくっついてるので動かすことはできないですけど、デジタルゲームの画面では木が揺れてて、それと同じ木を絵本の上でタッチすると、ゲームの中で演出が起きて、また違うところをタッチしたらそれに連動してゲーム画面が変化していきます。

そうやってお客さんがゲームの仕組みを理解していくと、次はここをタッチしたらゲームがこういうふうに変わっていくんじゃないか?って感じでお客さんの中でも想像力と視野が広がっていくんです。

 

藤原

物語の導入部分で、木の上に猫がいて、この猫をどうやって下ろそうかと考えて仕掛け絵本を見たら近くにハシゴが落ちている…という場面があります。絵本の中のハシゴをタッチすると、ゲーム画面内のアリスがハシゴを拾って木に立てかけて猫を助けるっていうアニメーションが再生されます。答えを示してるわけじゃないけど、気になるものを見つけて実際に触れるとそれに見合ったアクションをしてくれるということで、まずは観察して、探して触ってみるっていう一連の動作をまずチュートリアルステージで学習していきます。

 

中田

それで「あーなるほど、こういうゲームか!」って理解できたら、あとは穴に落ちて不思議の世界に行った後はもう自由に色んな所をタッチしてもらって、展開を予想しながら徐々に学習していくみたいな、そういうゲームデザインになってます。

 

 

村上

ゲームデザインもビジュアルデザインもとてもクォリティが高くて、技術的にも未知のデバイスに挑戦していたりと、色々評価できるポイントがあるわけだけど、個人的にはそこじゃなくて、研究テーマの「勉強だけが学習じゃない」っていう言葉にハートを打ち抜かれたね。その着眼点の面白に惹かれたから、娯楽ゲームとしても知育玩具としても絶対に面白いものになるって確信した。

 

藤原

はいはい。

 

村上

ゲームはコントローラーで遊ぶものっていう認識がある中で、仕掛け絵本とペンを提示される状態からのスタートになるから、まず「なにこれ?」から始まるよね。これは普通のゲームじゃないですよっていうのを徐々にプレイヤーが理解していく様子を外から見てるだけでも面白かった。

 

藤原

プレイ時間が30分くらいかかってしまうから、必然的にプレイできる人数が限られてくるので、もう傍から見てても「わー、すごい!」って思えるような仕掛け絵本を作ってもらいましたね。

 

村上

展示の手前にアーチもあって見栄え的にもかなりインパクトがあったから、特に子供はこのアーチを潜って別世界に遊びに行きたくなるよね。

 

中田

そうですね。子供ウケはめちゃくちゃ良かったです。

 

村上

子供は遊び方を理解できてた?

 

中田

ターゲットは小学校二年生以上の想定だったので、漢字が読めるくらいの小三小四ぐらいの子は理解してましたね。それより小さい子は、お母さんが文章を読んであげたりヒントを与えたりしながら親子で楽しんでる人が多かったです。

親子の対話ツールであり知育玩具であるってところも狙い通りの遊び方をしてくれたし、一人で黙々と謎解きをしてる人よりも友達同士だったり親子であったり、一人がプレイしてもう一人が上から俯瞰で見て、お互いに言葉を掛け合いながら遊んでる方がサクサク進んでた印象です。

実際仕掛け絵本を一方向から見るだけじゃなくて、本を回したときに裏側に何か見えたり、角度を変えないと分からない仕掛けがあったりするから、複数人で遊んだ方が盛り上がってましたね。

 

村上

ドットコードリーダーの存在を知ったのはいつぐらいだった?

 

藤原

去年のちょうどこの時期に卒制企画の最初のミーティングがあったじゃないですか。あの一週間前に遊びのイメージがパッて浮かんで、調べたら実際にあったから「あ、できるんや」って思って。

だからデバイス先行じゃなくて、「こういうのをやりたいな」っていうのがあったんで、それを実現できるのはどんなデバイスかなって調べて進めていきました。

 

村上

多分、普通に考えると身近なテクノロジーに手を出すと思うのね。例えばQRコードとか。

 

藤原

あーはいはいはい。

 

村上

QRコードを絵本のどこかに貼っておいて、それをカメラで撮ったらスマホの中で何かが動くとか。そういうことは誰もが真っ先に思いつくんだけど、そうじゃなくて、そのコードが目に見えないから探したくなるっていうところが今回の肝だったのかな?

 

藤原

そうです。見えないからこそ探したくなるようにしたかったんです。

コードが見えてたら、やるべきことが分かってしまうんで、作業的になって多分面白くないなって思ったんです。で、その見えないドットコードっていうのがまだ普及してないのもあって、みんなが知らんものを使った方が面白いかなと思って、今回はドットコードにしました。

 

村上

今風の日本のゲームに対するアンチテーゼみたいなものを感じるね。昨今のゲームって次の行き先を全部教えてくれるから、目を閉じててもエンディングまで行ける「盲導犬ゲーム」って揶揄されてる。

だから指示通りボタン連打してりゃ終わるゲームにするんじゃなくて、観察して予測して、それを実現するために成すべきことを考えるっていう、昔ながらのゲームのあり方みたいなところが実現できてると思う。

 

Part2につづく

 

<1112131415>