キャラクターデザインコース

ゼミ通ヒーローズVol.66 玉倉有悠希と卒制作品『catharsis』について語るの巻

 

 

※「ゼミ通ヒーローズ」とは、京都芸術大学キャラクターデザイン学科ゲームゼミの学生の研究や取り組みについてピックアップし、担当教員村上との対談形式で綴る少々マニアックなブログ記事となっています。

 

村上

今回はゲームゼミ卒制作品の中から、唯一のインタラクティブアート作品となる『catharsis』を制作した玉倉有悠希さんのインタビューをお届けしたいと思います。

 

玉倉有悠希(以下玉倉)

ゲームゼミ4年生の玉倉有悠希です。今回は「catharsis」という作品を制作しました。

これはゲームではなく、測域センサーというものを使用したインタラクティブアートで、実際にアートの中に入り込む体験をしてもらうことに重点を置きました。

 

玉倉有悠希さん(本人のアバター)

 

玉倉

測域センサーというのは、工事現場とかで作業員が退勤した後に設置しておいて、不審者を検知して位置情報を取得するといったものです。この仕組みをあちこちで応用していて、今ではショッピングモールでのインスタレーションに使われていたり、エンタテインメントの領域だと有名なチームラボさんがアート作品として使ってたりしますね。

 

村上

3年生のときの学科展でも、VRを用いたインタラクティブ映像を展示してたよね。映像体験に興味があった?

 

玉倉

いや、もともと目指してたのは、自分が生み出した世界の中に入り込む体験ですね。私が惹かれてたのはゲームや映像というよりもインタラクティブアートであって、あくまで自分自身を表現するための手段です。

インタラクティブアートが今の段階かつ自分の技量でできる最適解だったというだけで、もし時代がもっと未来だったら、多分コンタクトレンズにモニターとかカメラがついてると思うので、そういうデバイスを使ってたと思います。

 

村上

テクノロジーに興味があったというよりは、体験デザインを重要視したということね。

 

玉倉

そうですね。私の頭の中をアウトプットしてみたくて、それもただアウトプットするだけじゃ面白くないので、VRのゴーグルすら装着せずにもっとシームレスというかスムーズに入り込めるものってなんだろうって考えた時に、測域センサーに行き着きました。

VRだと没入感は高くなる代わりに、まずゴーグルをつけなきゃいけないという制約が発生したり、長時間つけてると重たく感じたり、人によって頭の形も大きさも違うのでうまく見えない人がいたりするので、もっと自然に入り込めるような仕掛けを実現したかったんです。

 

村上

ゴーグルをつけるときはワクワクするんだけど、自然な感じはしないよね。

 

玉倉

ここがユニバーサルスタジオジャパンのアトラクションだったらそこも含めてワクワクすると思うんですけど、私はもう何も介さずに普通にその場に踏み込んだ瞬間からその世界に入り込むことを理想としてたので、じゃあもうコントローラーはいらないやって。自分自身の身体をコントローラーにしてしまおうと。

 

村上

ここ最近のゲームゼミの傾向でもあるんだけども、ゲームパッドを持って遊ぶゲームが徐々に減ってきて、何かの別の付加価値があったり、新しいデバイスと併用してみたり、アナログとデジタルを行ったり来たりするような電子工作的なものが増えてきてるね。この作品に至ってはもうコントローラーすら必要ないっていう。

 

玉倉

そうですそうです。

 

村上

今回の制作で苦労したポイントは?

 

玉倉

単独での制作だったのでプログラムが苦労しましたね。細かくスケジューリングしても、まぁ思い通りにいかなくて…(笑)。はんだ付けをしたのも中学生以来だし、ウルトラファクトリーに行って調べつつ作業を進めてました。電子部品を見ても、プラスとマイナスの線の区別すらつかないところからのスタートでした。

 

測域センサー

 

玉倉

で、北陽電気さんの測域センサーを購入したんですけど、最初に製品が届いたときに、それをコンセントに差したらすぐ使えるのかなって思ったんですよ。そしたら使えなかったんですよ(笑)

 

村上

使えなかった…?

 

玉倉

なんか変換機やらアダプターやらを用意して、自力で全ての接続の過程を作らないといけなかったんです。それを聞いた瞬間に「あ、やべっ」と思って、大急ぎでウルトラファクトリーに行ってライセンスを取得しました。

 

村上

企画が動き出してからライセンス取った…!?まあ、なんという大誤算…。

 

玉倉

爆速で取りに行って爆速ではんだ付けしましたね。

 

村上

その苦労の甲斐あって、実際に展示をしてみたら結構大勢の子供に体験してもらってたように感じたけど、どうよ?

 

玉倉

そうですね。一般の人ももちろん入ってきてくださったんですけど、真っ先に来られるのは子連れの方が多かったですね。難しい操作を必要とせずに、手放しで遊べるので、取っつきやすかったみたいです。

 

プレイ風景

 

村上

頭の中に入るということで、そもそも玉倉の頭の中にはどんな世界が広がってるの?

 

玉倉

私は周りからは大人っぽいとか達観してるよねって言われるんですけど、実際には多分お子ちゃまなんですよ。男子小学生ぐらいの感じで(笑)、ハタチを越えてもずっと子供っぽいなって思ってて。そんな自分の中を表したらああなったんです。

アナ雪の「Let it go」のシーンに憧れてキラキラ目を輝かせながらやってるっていうのを思い浮かべて作りました。私の中にある幼心を表現できたんじゃないかなと思います。それであれだけ子供に楽しんでもらえたのは私としてはすごい嬉しかったです。

 

村上

ルーツはアナ雪?

 

玉倉

そうですね。あんな感じで手から魔法を出して足から結晶を出すみたいなことをやりたかったんです。

元々コンセプトアーティストになりたくてこの大学に入ってきたんですけど、それは自分の頭の中に浮かべる世界をアウトプットしたかったからなんです。だから結局のところ高三の頃からやりたいことは何も変わってないんですね。

 

村上

入り口は一枚絵としてのコンセプトアートだったけど、知識が増えた結果としてインタラクティブアートに行き着いたっていうことだね。

 

玉倉

ただ鑑賞するだけじゃなくて、体を動かした方が深く記憶に残ると思ったんです。実際に歩きながら英単語を暗記すると覚えやすいみたいな話も聞きますし。

あとは、実際に展示して気付いたんですけど、子供同士とか親子の会話が生まれるんですよ。

 

村上

体験だからこそ残るもの。体験込みでの作品っていうところがまさにインタラクティブアートの大きな特徴だね。

 

玉倉

最近だとアップルがゴーグル出しましたけど、これからはもっと小型化されたり、生活に浸透したり、まだまだ広がっていきそうですね。

今回私は天吊りのプロジェクターで床に投影してたんですけど、あれがもっと安価で家庭にも導入できるようになったら色々活用できそうです。

 

村上

例えばどんな風に?

 

玉倉

掃除をしない子に掃除しなさいって言ってなかなかやらないですよね。私もそうだったんですけど(笑)。例えば雑巾がけをするときに雑巾の軌跡がキラキラ光ったり、床に投影されたコインをどんどん集めていったりすると、嫌な掃除も楽しくなると思うんです。この辺りはお子様連れの家族の方と喋ってて出てきた発想ですけど。

あと、物体だけじゃなくてファブリーズの霧にも反応することを今回発見したんですよ。

仕事で測域センサーを使ってる人がたまたま来て、ファブリーズにも反応するなんて知らなかったって言ってたんで、まだあまり知られてないんじゃないかなと思います。

雑巾がけだったり消臭スプレーを使うときに、位置情報を取ってエフェクトが表示されるようにしたら魔法使いになったみたいで楽しくなるんじゃないかなって思いますね。

 

村上

確かに、色々広がるね。

ちなみに、鏡を全面貼りにした空間だからか、一度あの空間で座禅を組んだらすごく気持ち良かった。なんかアルファ波がドバドバ出そうな感じで。

 

玉倉

あれは本当に全面貼りにして良かったですよ。もともと全面貼りにする予定だったんですけど、合評では「足元しか見ないのに全面貼りにする必要はあるの?」って指摘されて、結局ゴリ押ししました(笑)。

 

村上

鏡のシートを貼るのは、後輩にも手伝ってもらって、人海戦術で何とか形になったけど、それよりも2台のプロジェクターの映像の位置を合わせるのがかなり面倒くさくて苦労してたね。1台は天井から吊って、もう一台は足元に設置した単焦点プロジェクターで、これが一つの映像になっているように境界線を綺麗に繋げなきゃいけないから…。

 

玉倉

合評の時、正面に投影してたのでまあ単焦点プロジェクターを置くだけで最初は良かったんですけど、床にした方がいいんじゃない?っていうフィードバックをもらって、「あ、確かに!」ってなりました。

ただ、単焦点プロジェクターの配置に合わせてUnity上の表示設定も調整して、画面の比率を確保しながら、天吊りプロジェクターの投影サイズと同じになるように調整して…。投影したら案の定歪んでるので、今度は吊ってるワイヤーの長さを調整して…て感じで設営のときは終日調整してましたね。

 

村上

展示の前日には謎のバグが発生して、エフェクト表示と同時にUnityが固まるという…

 

玉倉

あれは多分直ってます。ただ、人が多すぎると当然表示されるパーティクルの数が多くなりすぎて、パソコンが重くなって止まっていたようでした。なので、重くなってフリーズする直前にエラーを出してパーティクルに表示制限をかけるようにプログラムしました。

 

村上

その制御は自分でプログラミングした?

 

玉倉

もともとソースコードがあったので、値とかその中身をいじって編集した感じです。最初から自分でプログラムを書くと膨大な時間がかかるので…。

 

村上

今回は中身を作ることも難しかったと思うけど、映像だけで見てもなかなか伝わらなくて、展示を含めて体験して初めて理解できるものだから、合評では伝え方が難しかったね。でもインタラクティブアートの分野でもゲームゼミとしての新たな突破口を開くことができたから、これからもどんどん発展していくと思うよ。

というわけで、卒制大変お疲れ様でした。これからもプロの世界でぜひ頑張ってください。

 

玉倉

はい、ありがとうございます。

 

 

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