キャラクターデザインコース

ゼミ通ヒーローズVol.77 ムン・ユギョンと卒業制作作品『ILLUSION』について語るの巻

※「ゼミ通ヒーローズ」とは、京都芸術大学キャラクターデザイン学科ゲームゼミの学生の研究や取り組みについてピックアップし、担当教員村上との対談形式で綴る少々マニアックなブログ記事となっています。

 

村上

今回は卒業制作でVRゲームを制作したムン・ユギョンさんのインタビューをしたいと思います。

 

ユギョン

今回私が作ったのは「ILLUSION」というゲームで、VRで体験できる運動系のゲームになっています。子供を守りながらプレイヤーが盾になって前に進んでいくという遊び方になります。

 

村上

ゲームの面白いポイントはどこにある?

 

ユギョン

まず、VRの面白さは、自分がその世界に入り込んで体験できるところだと思います。

このゲームでは、プレイヤーの後ろにいる子供の姿を確認しながら走ることが重要なのですが、普通のパソコンの画面だと前しか見られないのに対して、このゲームはVRの良さを生かして、本当に後ろを振り向かないと子供の姿が確認できないので、かなり体力を使うことになります。

また、敵の弾がどこから飛んでくるのか分からないんです。天井からも床からも飛んでくるので、これを盾で弾くのも結構体力を使います。あとは「走る」という動作も実装していて、コントローラーを握った状態で両手を激しく振ると素早く前進します。

 

村上

実際に遊んでみると、両手を激しく振ったり物陰に隠れたり振り返ったりして、かなり忙しいゲームになってたね。

村上

ではこの作品のテーマとコンセプトは?

 

ユギョン

「人は守りすぎると弱くなる」に注目してゲームを作りました。

私は昔より弱くなったなと思ったことがあって、それがきっかけでした。なんで弱くなったのかと考えてみたら、昔からお母さんも社会も周りのみんなが私を守ろうとするので、私が何かを守るというきっかけが得られなかったというのもあります。その点を考えながらこのゲームを作りました。

 

村上

過保護社会によって自分は守られすぎた、てことね。

 

ユギョン

そうです。でもそれが良いことなのか悪いことなのか自分では分からなくて、ゲームを作りながら考えてみようと思ってこの制作を始めました。

 

村上

で、今回のゲームでは一人の少女を外からの攻撃から守るために自分が盾になると。

 

ユギョン

はい、そうです。敵の攻撃が子供に当たったら体力ゲージが下がっていきます。だから守らないといけないんですが、守りすぎたら子供の動きがだんだん遅くなっていくので、守るのが難しくなっていきます。自分の速度と子供の速度に差が出てくるので、離れないように動くのが面倒になってくるんです。

 

村上

過保護に慣れることでどんどん世話が焼ける状態に陥ってしまうってことね。

ここで面白いのは、ゲームのシステム上子供を守らないとゲームオーバーになってしまうから守るしかないっていう。つまり過保護にするしかないゲームなんだけど、それによって守る側が苦しくなっていくっていうジレンマが発生するよね。

 

ユギョン

はい、そういうことです。

それ以外にも、ゲームのストーリーが終わったら、その時のゲージ残量によってエンディングが変化するという設定もあって、自分の行動がいろんな形で評価されます。

 

村上

VRでゲームを作る上で苦労したことって何かある?

 

ユギョン

3年生のときに学科展(学生作品展)に向けてVRの「キャロットクライム」というゲームを作った経験があったので、大きな問題はなかったですね。

普段「オーバーウォッチ」というゲームで遊ぶときにもVRゴーグルをつけてプレイして、そこでたまに酔うことがあったんですけど、そのおかげで「どうすれば酔わないVRゲームを作れるのか」を研究するきっかけにもなって、酔わないカメラ制御や演出の実装も行うことができました。

それ以外には、単独での制作だったので、実装する仕様も多くて、タスク管理が大変でした。

あとは「守る」という意味合いが広すぎて、どこから研究したらいいのか少し難しかったです。

 

村上

そもそもゲームを作りたいと思ったきっかけは?

 

ユギョン

ゲームが自分の世界というか、頭の中の大半がゲームで占められていて、研究するのが面白すぎて、作り始めたらその世界に入り込んでもう出てこなくなりますね。

でもゲームだけで終わらずに、私は将来自分の会社を作って、事業の中に色んなゲームシステムを入れたいなと思っています。

 

村上

システムを入れたいっていうのは?ゲームというよりゲーミフィケーションという意味で?

 

ユギョン

両方で考えています。エデュケーションも含めて、社会に役立つゲームシステムをどんどん実装していきたいと思っています。30年くらいかかるかもしれないですけど(笑)

 

村上

大学でゲームを学ぶって、どういうことだと思う?

 

ユギョン

高校時代にボードゲームを作ったことがあって、周りの友達50人くらいに「なぜゲームで遊ぶの?」と聞いたら、ポジティブな意見だけじゃなくて、中毒症状が出たり人の悪口を言うのが楽しいといったネガティブな意見も色々あったんです。でもやめられなくなる理由を知りたくて、この大学で授業を受けるうちに遊びのメカニズムとか人の心を誘導する仕組みを学ぶことができて、人のことが色々分かるようになりました。

あとはプログラミングの授業を受けてみて、一人でもゲームを作れるようになって、ゲームシステムを考えることもスムーズにできるようになってきました。

 

村上

他にアピールしておきたいことは?

 

ユギョン

VRでゲームを作りながら「VRでトラウマを治す」という研究もしていて、論文をたくさん読んでいるうちに、守ることや守られることでどんな安心感を得るか、危険を回避する防御装置としての無意識の行動なども理解しました。

VRで激しく体を動かすのでエクササイズにもなるし、トラウマの解消にもつながるかもしれないということで、この分野をまだまだ研究したいなと思っています。

 

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