- 2025年3月31日
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緊張感とリンクするインターフェースの制作的研究ー 卒業展受賞者インタビュー|学長賞・柳生海斗さん
こんにちは!プロダクトデザインコースです。
先日無事に会期を終了した卒業展。たくさんの方にご来場いただき誠にありがとうございました。
そして、改めて以下の受賞者のみなさん、おめでとうございます!
|学長賞|
柳生 海斗さん(Canadian International School Singapore 出身)
|優秀賞|
小原 暉さん(枚方高校出身)
|同窓会特別賞|
苫田 光輝さん(津山工業出身)
|奨励賞|
與島 大智さん(西宮南高校出身)
好井 悠人さん(香川中央高校出身)
向井 百花さん(登美ケ丘高校出身)
木村 勇斗さん(川内高校出身)
森田 翔斗さん (庄原格致高校出身)
小山 駿平さん (銅駝美術工芸高校出身)
荻原 快さん(長野日本大学高校出身)
|教員賞|
|風間先生賞| 久保田温飛さん(洛西高校出身)
|時岡先生賞| 村上 夏海さん(浜松市立高校出身)
|大江先生賞| 河野 明都さん(水口東高校出身)
|北條先生賞| 久保田玲香さん(京都芸術高校出身)
|上林先生賞| 上倉 千弘さん(京都芸術高校出身)
今回は、卒業展にて学長賞を受賞した柳生海斗さんへお話を伺いました!
卒業展までどのような道を歩まれたのでしょうか。
—この度は「学長賞」の受賞おめでとうございます。まずは作品について教えてください。
一言でいうと「インターフェースの新しいあり方」を提案しました。我々の持つ身体的な感覚をデザインに活かす(別のものに置き換える)ということに挑戦していて、今作では緊張感を感じながら操作するインターフェースを提案しました。プロダクトの状態が不安定になればなるほど身体的に感じる緊張感が高まり、その度合いに応じて光の強さ(照度)が繊細に変化します。数字や記号を使わず、人間の持つ感覚を基準に操作をする、リモコンのようなものだと思っていただけると分かりやすいかもしれません。とある未来に、このスカルプチャーのようなプロダクトが空間にポツンと置かれており、その状態を変化させ感覚を頼りに操作することで空間に溶け込んだ様々な電子デバイスを操作する、そのようなことも想定して提案しました。
—制作のきっかけはどんなことでしたか?
従来のインターフェースはどんどん簡易化・便利になっていますが、その分失われ見落とされているものも多くあると感じます。例えば「あかり」が欲しいと思った時、ボタン一つで電気をつけることもできますが、時間に余裕があればキャンドルを灯すという、より豊かな感覚に溢れた行為も選べるはずです。そういった、感覚豊かな操作法、そんなものに興味を持ちました。技術の発展により機能や利便性、モノそのものは進化しても、人とモノとの関わり方、関わる面としてのインターフェースは今後消えることはありません。そこでは従来の味気ないものではなく、身体的な体験を活かした、数字や記号を使わないで繊細な操作のできる新しいインターフェースのあり方を研究をしてみたいと考えました。過去の卒業生のインターフェースの研究に刺激を受けたのもきっかけです。
▼参考にしたという研究:
宇野 淑乃さんなど
▼鉄球が3つ置かれているニュートラルな0の状態から、ひとつづつ鉄球を取っていきバランスが崩れ緊張感が高まるにつれ、台座の光も強くなっていく
▼ガラス玉が大の端のきわどいところに移動し安定感を失うほど、光が強くなる。
—実際進めていく中で苦労したことはありましたか?
答えの無い、行く先の見えない研究を一年間続けるというのは大変でした。また、自分の研究内容をどのように周りに共有し、いかに議論を深めていくのか、というところで苦労しました。インターフェースの研究を行う上で重要になってくるのは提案の実装です。実際に手に取って使用できるプロトタイプが必須だと言えます。そのため、今回初めて電子工作(電子回路設計)に挑戦することにしました。知識が無い状態からはじめるのは大変でしたが、友人や教授にアドバイスをいただくことで形にすることができました。プログラミングはChatGPTを活用するなどして、今時ならではの手法も取り入れていきました。3つの作品それぞれの意図に合わせて光の変化の度合いを変えているため、使っているセンサー、回路設計も違ってきます。自分一人だけの力では難しいことも、詳しい人に聞いたり技術を活用したりすることで、実現できることもあるんだなと学ぶことができました。(Mくんありがとう!)
▼見た目のスタイリッシュさとは裏腹に、内部のバーツは複雑に入り組んでいる
▼試作品の棚。右側には試作を動かしている動画も上映し、工夫の詰まった展示空間に仕上がっていました
—いつごろから制作に取り組み始めましたか?
3年生の2月時点ですでに就職先が決まっていたため、卒業制作ではあえて今後の仕事内容とは異なった研究を行おうと思い、販売を目的としたデザインではなく、こんなモノがあっても良いのではないかという大きな問いについて1年じっくりと考えられるようなテーマを設定しました。工業デザインではなく、スペキュラティブデザイン(問題解決型の将来像を提示するのではなく、未来の可能性を臆測して提示するデザイン領域)に近い言えるかもしれません。途中何度も方向が変わりそうになりましたが、それも含めて一年間かけてじっくり理論と実験を重ね取り組むことができました。
—なぜプロダクトデザインコースを選んだのですか?
幼い頃から手を動かすことが大好きで、クリエイティブな仕事に携わりたいと思っていました。ただ、当時はプロダクトデザインという言葉に馴染みがなく、環境デザインとプロダクトデザインで進路を迷っていました。当時オンラインで参加したオープンキャンパスで学科長の風間先生とお話した際、「身の回りの全てのモノはプロダクトデザイナーによってデザインされている」という話を聞き、一気にプロダクトデザイナーの存在を身近に感じ、同時に憧れたのを覚えています。また、規模の大きい建築に比べ、自分の制作物を実際に手に取り、使用した人の反応もすぐに受け取ることができる所もプロダクトデザインの魅力だと思います。他の先生方の話も魅力的で、この大学がいいと直感的に感じたのを覚えています。
▼風間先生(プロダクトデザイン学科長)と記念写真!
—大学4年間を振り返ってみていかがでしたか
自分にとって全てが新鮮で充実した日々でした。小学校2年生から高校卒業までシンガポールに住んでいたため、日本で暮らすという体験自体新しいものでした。特にシンガポールは常夏だったため、日本の四季の移り変わり(特に京都)には毎年感動していました。また、憧れだった京都という地で身近に日本の繊細なモノづくりの現場を垣間見る機会もあり、授業以外でも、花道、水墨画などにも挑戦し、一見プロダクトに関係なさそうな分野でも共通点が見つかったり、幅広く学ぶことの大切さと面白さも学ぶことができました。
—海外生活が長かったのですね。在学中留学もされていたと聞きました。留学はいかがでしたか?
2年生の後期に、イギリスのノッティンガムトレント大学に半年ほど交換留学に行きました。世界共通とも言えるプロダクトデザインを産業の発祥であるイギリスでどのように学んでいるのか、とても興味がありました。イギリスの学生は、よく手を動かし形にするのが上手で、作品のクオリティも高く、良い影響を受けました。特に手書きのスケッチに力を入れており、他者へ自分のアイディアをいかに簡潔にそして正確に伝えるかというコミュニケーションの力が育まれたと思っています。皆さんのポートフォリオの美しさにも驚いたのを覚えています。
—今後の展望を教えてください。
春からパナソニックに就職し、プロダクトデザイナーとして働く予定です。デザインで世界中の暮らしを豊かにできるよう、様々なことに貪欲に挑戦して行きたいです。
—最後にこのブログを見ている後輩にメッセージがあればお願いします。
「楽しんだもの勝ち」ということですかね。大学生活には自分の好きなことを見つけるきっかけがたくさんあります。そんな自分の好きや得意を突き詰め育むにはこれ以上ない場所だと思うので、色々なことを楽しめたら良いなと思います。いままで興味のなかったことでもやってみたら意外と楽しかったり、一見プロダクトとは関係のないと思っても深い繋がりがあったり、幅広く物事を楽しめる人になれたらそれで良いと思います。
また、色々な人と話すことも重要だと感じています。実際今回の卒制も、ゼミ内の人や教授、他大学の友人やその教授にまで話を伺い、意見を交換していく中で大きく発展していきました。学びの機会を最大限に生かしてほしいなと思います。
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柳生さんの作品は、見た目の美しさももちろん理論と実験が積み上げられており、お話を聞けば聞くほど引き込まれるものがありました。
また、新しいインターフェースのあり方だからこそ、実装するために電子工作という未知の領域にも果敢に取り組み、いろんな人と積極的にかかわることで切り開いていく姿に感銘を受けました。今後のますますの活躍を期待しています。
柳生さん、インタビューありがとうございました!
柳生 海斗 / YAGYU , Kaito
2001年生まれ
Canadian International School Singapore 出身