- 2011年5月10日
- 日常風景
「八日目の蝉」と「岳」
「八日目の蝉」は演出の巧さを堪能できる映画です。
前作「孤高のメス」に続き、成島出監督の腕前は安定してきました。
冒頭いきなり女性アップのモノローグから入るあたりは、映像的面白味に欠けて心配になりますが、
豪雨の中赤ん坊を誘拐する場面の迫力ある大胆な構図あたりから映画に引き込まれます。
2時間37分を息もつかせず見せ、ラストの実に潔い終わり方もお見事です。
ただ、実際の赤ん坊を使った迫真の撮影で、赤ちゃんが苦しげに泣いたり身をよじったりする場面では、
この映画とそれを見ている自分自身がこの赤ちゃんをいじめているような気がしてしまいます。
といって実際の赤ん坊なしには成り立たないのですから悩ましいところですね。
「岳」はマンガが原作です。
マンガのテーマは、命を失う危険を冒してまで人が山に登るだけの山の魅力と、
人命救助に命を懸ける山岳救助隊の隊員たちの心です。
マンガを読んでいるときから、登山の趣味がないわたしには、
「好きで登って、場合によっては自分のミスで遭難した人を命懸けで救う必要があるのか」
という疑問が頭に浮かびました。
作者もそのことは承知の上で、作品の中でそのことを納得させてくれます。
しかし、今実写の映画になり、大震災のあの悲惨な犠牲者や被災者、
それを救助する消防や自衛隊の姿を見たばかりの気持で観ると、その疑問が再度湧いてきます。
好きでそうなったのでもなく自分には何の落ち度もないのに津波に襲われた人々を救うことと、
好きで山に登った人を救うことの違いをどうしても感じてしまうのです。
もちろんどちらも貴い命でしょうが、限られた予算や人員の制約を考えると、どうしても気になります。
この映画がリアルに山の世界を描いているだけに、なおさら気になるのです。
今までのように、あらゆるところに行き届いたサービスができなくなるこれからの日本を考えるとなおさらです。
…と、こういうことを真剣に考えさせるのがこの映画の力でしょう。
今だからこそ、単なる山岳娯楽映画としてでなく考えさせる映画になり得ます。
どちらも、機会があれば観てほしいですね。