- 2015年8月8日
- 日常風景
【教員紹介】第4弾:伊藤直樹先生
「情報デザイン学科をもっともっと知ってもらいたい!」
ということではじまった、インタビュー企画の第四弾!!
今回は、”未来を切り拓く世界的クリエイター”、伊藤直樹先生のご紹介です。
主な授業:情Dコース2年次「コミュニケーションデザイン論」
主な授業:情Dコース3年次「構想計画—エンターテイン—」
伊藤先生は国内外で非常に高い評価を得ているクリエイティブディレクターで、
海外の有名な賞の審査委員も務める、日本を代表するトップクリエイターです。
情Dの授業においても「情D学生のデジタル化を目指す!」という目標を掲げ、
他に先駆けて”NAVERまとめ”や”EVER NOTE”を使った授業を行うなど、
いつも学生達にデジタルの風を運んでくださいます。
今回は【教員紹介 夏休み特別版】として、
本学が発行する機関紙「瓜生通信*1」での
伊藤先生特別インタビューの内容を中心にご紹介します。
*1 瓜生通信・・・京都造形芸術大学が発行している広報誌、年3回発行
今回の瓜生通信では伊藤先生の特集のほか、
情報デザイン学科卒業生の醤油ソムリエール、黒島慶子さんの記事なども載っています!
興味を持たれた方は、ぜひ本誌をお手に取ってみてくださいね!!!
では
「クリエイティブについて」
「学生時代のこと」
「伊藤直樹の、 いま と これから」
についての、伊藤先生の熱いインタビューをお楽しみください!
(伊藤先生の詳細なプロフィールはこちらからご覧いただけます。)
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話し手|情報デザイン学科 教授 伊藤 直樹
”クリエイティブ”について
— 伊藤直樹先生は「良質なクリエイティブ」とはどのようなものだと思いますか。
恐れを知らず、どれほどの情熱を注げているか。
そういう情熱って伝わってきますよね。どれくらい徹夜したか、頭が爆発するほど考えたか。それから、他人のアイディアを真似するのではなく、過去の作品に事例を学んだ上で新しい表現に挑戦することがクリエイティブであるといつも自分に言い聞かせています。
しかし、今までにないクリエイティブにチャレンジをするといっても、傍若無人にアイディアを押しつけるのは危険です。例えばTOYOTAだったら何十万人もの社員や、TOYOTAに興味や関心のある膨大な数の人びとが「いいね!」と言ってくれるかどうかをシミュレーションしながら仕事を進めます。自分がやりたい表現を押しつけるのではなく、目の前のクライアントやその先にいる消費者の顔色を良い意味でうかがうんです。企業のブランドを預かることにはとてつもない責任が伴います。莫大な予算のCMを打って、仮に反感を買って大炎上したら、上場企業だったら株価に跳ね返ります。場合によっては時価総額で一夜にして何十億円下落することもありえます。
例えば、不謹慎にとられかねないギリギリの表現だったとしても、それは人の感情を逆なでしない、人が怒らないラインを絶妙な加減で推し量らなくてはいけません。それができない人間は世の中にメッセージは投げられない。尖った表現ほど自分で手を切らないように細心の注意が必要です。
結構クリエイティブの世界では、アイディアばかりに注目されることが多いですが、こうしたクリエイティブにおける「ディフェンス能力」は僕らにとって重要な能力なんです。ディフェンス能力があるからこそ、アイディアという「オフェンス」の部分で遊べるわけです。僕、新しいアイディアが生まれたとき、まっさきに相談するのは弁護士なんですよ。法的に問題ないかを確認するために。僕は表現する上で幼稚性を大切にしています。僕、幼稚なんです。今でも週末に友達を集めて鬼ごっことかやってます。でもその幼稚性を否定してしまうと清らかさや無邪気さを失ってしまいます。大学の授業でも幼稚性は絶対に否定しません。「お前子供だなぁ」と思ったことは一度もない。そこには絶対に光るものがあるから。
— 伊藤先生は「クリエイティブディレクター」とは何者なのかを伝えるときにはどのように説明しますか。
難しいですよね。僕の最新の大きな仕事は成田空港の第3ターミナル*2ですが、クリエイティブディレクターがどんな役割を担ったのか、一般の方にはわかりにくいかもしれません。クリエイティブに限らず、ビジネスの世界では肩書きで役割が決まっているものですが、僕はそういう枠組みに収まりたくなくて、アートやデザイン、建築もやりたい。でも建築は一級建築士の免許がないとできない。ならば建築の専門家と組んで、自分のアイディアを実現する方法を模索すれば良いわけです。それなら、仕事に枠組みなんてなくなります。
*2 成田空港の第3ターミナル・・・2015年4月から営業を開始した成田空港のLCC専用第3旅客ターミナル。伊藤は誘導デザインなどのサイン計画を主に空間デザインやクリエイティブコンセプトの開発を務めた。
学生時代のこと
— ところで、学生時代に熱中したことはなんですか。
映画を観ること、つくること。それに本を読み漁ること。書店に1日1回は必ず行っていました。あらゆる情報を吸収するためにいろんなジャンルの本を読んでいました。特に印象的だった本は吉本隆明さんが書いた『共同幻想論』。いかに大衆が同一の幻想を抱きながら生きているかを論じたものです。共同幻想の最たるものはマス広告*3ですね。
ただ、この考え方は「インターネット以前」の考え方とも思います。現代はイメージをコントロールできない時代なんですよ。なぜならインターネットがあるので、企業の本当の姿はネット上の口コミで一瞬のうちに広まる。今から読むとすればそういう幻想を生み出すことが困難な時代においていかに広告を打つべきかを学べると思います。
*3 マス広告・・・4つの媒体(テレビ・ラジオ・新聞・雑誌)に掲載される広告。
— 学生時代に制作していた映画はどういったテーマだったのですか。
当時、哲学書や心理学の本に傾倒していたので、脳をテーマに混沌とした哲学的な映画を、当時四谷にあった実験映画専門の学校に通って制作していました。実験映画はストーリー性がないものが多いですが、ストーリー性のある映画も制作してみようと思い脚本を書いてみたもののうまく書けなかったです。京都造形芸術大学の学生たちが課題に取り組む姿勢と一緒で、つくっては壊しの連続でした。
— その後はなぜ広告代理店に就職したのですか。
当時は映像とインターネットの可能性に賭けたいと考えていたのですが、その両方に関わることができるのが広告業界でした。映像表現によるストーリーテリングができるのではと期待していたんです。しかし当時はなかなか自分の考えを言語化することができなかったので、本を読んだり文章を書いたりシナリオ講座に通うなどして訓練していました。それくらい自分の考えを言語化することは難しいことですが、大切です。
伊藤直樹の、 いま と これから
— 休日をどのように過ごしていますか。
昔からスポーツが好きなので、休みの日もたいていスポーツをやっています。
震災以降は自分の暮らしにも自覚的でいようと思っていて、「暮らし×インターネット」についてよく考えますね。例えば「しゃもじにインターネットを付加したらどうなるのかなぁ」とか。
僕のあらゆるアイディアは「身体性」から生み出されています。ボールを投げて飛ばす腕の振りだったり、登山なら山をずっと降りていくときの身体の重みであったり、そういう身体感覚を忘れないように自分の身体の中に染み込ませておくんです。そうやって身体感覚を常に磨いておけば、脳へフィードバックされる情報量も格段に増えると思っています。
— 伊藤先生は今というよりも少し先の未来を見越していらっしゃるように思えます。
そうですね。今この瞬間もインターネットの可能性というのはどんどん伸びていて、僕はその可能性という形のないものをクリエイティブで形にしているだけなんです。別に予言者でもなんでもなくて、インターネットの持ってる特徴を駆使しているだけなんです。
近い将来の話をするなら、多くの仕事を、人工知能にとって代わられる可能性もあります。そうなれば、労働のあり方は劇的に変わっていきます。例えば法律が変わってロボットとの結婚が認められ婚姻届を市役所へ提出しに行く。そうしたら市役所の職員もロボットだったりなんていうことも充分あり得ますよ。
また、お金という媒体の概念も変わる可能性があります、指紋認証による決済が進化して、もしかしたらクレジットカードやキャッシュカードもなくなるかもしれない。ともかく現金を持たないという大きな思想に向かっていることは確かですね。しかしロボットを表現者として見た場合、予想もできないような優れたアイデアがロボットから生まれるかというと、いささか疑問です。これから何十年かは面白い人工知能などが出てくるかもしれないですが、僕のようなクリエイティブディレクターがロボットに取って代わられることはないと思います。人工知能が世の中に浸透した世界で、自分がどういうポジションで仕事をするかは、みなさん一人ひとりも考えなくてはいけません。
《伊藤先生に聞いた! 20歳のときに読んでおきたかった本 3選 》
「共同幻想論」 吉本隆明 著( 角川文庫、1982年)
「こっぷ」 谷川 俊太郎 著( 福音館書店、2008年)
「ブルーノ・ムナーリ かたちの不思議 1-3」 ブルーノ・ムナーリ 著( 平凡社、2010年)
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時代の最先端で活躍しながら、 いつも軽やかにジャンルや既成概念を飛び越えていく伊藤先生。
情報デザインの学生たちも、自分達の学んでいることをどんなモノゴトへ繋げていけるのか、
伊藤先生の授業を受けながら、たくさん考えてくださいね!!
この企画は、約ひと月に1回のペースで更新する予定です。
次回もぜひご期待ください。
出展|「瓜生通信65号 特集〈伊藤直樹の未来地図〉」より
本誌制作|
企画・編集 松本実波、笠井淳、加藤菜月、國府田有紀
企画・デザイン 溝邉尚紀
撮影 顧剣亭(p04,05,12,13) 高橋保世(表紙, p08,09)
※ 本文をブログに掲載するにあたり、
_「クリエイティブについて」「学生時代のこと」「伊藤直樹の、 いま と これから」 という3つの見出しと、
__恒例企画の 「伊藤先生に聞いた! 20歳のときに読んでおきたかった本 3選」を追加しています。
◉ 過去のインタビュー記事はこちら↓
スタッフ:森川