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アートライティングコース 浅野幸治

<Anyアート>の受容探索 ―地域アートはどこに向かうのか―

【本文】
いま、なぜ地域アートなのか:新しい価値の創出  
 現在、どこの地域でも、人々は共通の悩みを抱えています。高齢化や人口減少が進む中、相次ぐ自然災害、いじめや虐待など痛ましい出来事が多く、さらに新型コロナウイルス感染症拡大など、先行きが見えず不透明な社会に対して、既存の価値の喪失など人々の不安が高まっている状況です。  
 こうした社会状況を直ちに解決する即効薬があるわけではありません。またそんな中で、国や行政に依存するだけでは、必ずしも成果は生まれてきません。今、地域に求められているのは、住民自らが地域や社会を新たな目線で見つめ、潜在する資源の発掘・発見を通じて、地域の歴史・文化・環境の持つ精神的な豊かさへの新鮮な感動を創出し、新たな魅力を発信することで、「ヒト、コト、モノの交流」により地域から人々が未来の展望を見つけることです。  
 近年、このような理念から生まれた「地域アート」【註①】への関心が高まっています。それは、「感性によって新たな価値を創出する」というアートの特性を通じて、地域での展望を見つける可能性に期待が寄せられているからです。

地域には何があるのか:柏原の地域資源  
 私の住む大阪府柏原市には、多くの地域資源【註②】があります。しかし、地域の人々が、地域の保有する魅力的な特性を自信や誇りとする意識が弱いのが現状です。地域の創生には、住み生活している地域をリアルに見つめ、その資源をベースに、戦略的な地域の魅力の発信と交流を通じた新たな対応が求められています。  
 そのために、柏原を舞台に「都市と自然の融合するまち=柏原」の地域資源と特色を活かし、地域アートを通じた新しい価値の創出によって、アートに触れ暮らす魅力的地域空間「アートなまちづくり」【註③】をめざしています。

柏原における地域アートの問題:地域アートの内実を固める  
 「都市と自然の融合するまち=柏原」をフィールドとしたKASHIWARA芸術祭2019【註④】では、従来の「柏原ビエンナーレとそのフレーム」【註⑤】を踏まえ、アーティストから地域サポーターへと、運営母体を抜本的に変革することで、前回より参加者が4割も増加しました。しかし、地域におけるアート活動の取り組みが進み、興味や関心は広がっているものの、若者や子どもの参加、ネットワークづくりを支える地域人材が少ないなどの課題も指摘されています。  
 現状を打開する鍵は、アートは面白く楽しいものだという実感を持てる人、またそれを推進する核となる人材が、地域でどのくらい生まれ育っていくのかです。地域の内実を固めるために重要なことは、アートを狭い範囲でとらえず、アートとの日常的な結びつきを深め、みんなで遊び楽しみながら人的パワーを結集し、「アートに関する地域的な受容の醸成」を具体的に図ることです。

地域アートと現代アートとの関係:現代アートの正面からの議論  
 アートと人とをつなぐこうした活動を通じて、地域の人からは、アートに関するいろいろな疑問が寄せられました。例えば、アートとは美しいものを見ることで、不思議なものや醜いものはアートと違うのではないか。一般の絵画や彫刻だけではなく、あらゆる素材や手法で表現されていたりしていて、何でも良いのか。美術館やギャラリーではなく、なぜお寺や町家、倉庫や畑といった空間で展示するのか、などです。  
 現代アートは、従来の芸術と異なり、アートの「創作表現の手法と場」の拡張や「創造の担い手と役割」の変容に特質があります。前者は、パフォーマンスやインスタレーションという表現方法により、空間・地域・環境へと表現の場が拡張したこと、後者は、作家だけでなく、鑑賞者=受け手がアートに参加するなど役割に変化が生じたことを意味します。
 私たちは、こうした特質を参考に、難しいとも言われる現代アートとは何か、正面から議論し学習する中で答えを見つけていくことが、一つの解決策ではないかと思っています。なぜならこれらは、次に述べる<Anyアート>を考える上でも大切な特質だからです。【(資料1)を参照】
 私たちの地域アートでは、美しいものだけに限定せず、多様なもの、素材や手法が特殊な作品を受け入れ、作者の制約はせず、パフォーマンスも含めてアートの対象としており、「地域で行う現代アート」と規定しています。

地域アートの探索:いつでも・どこでも・だれでもアート=<Anyアート>  
 単に現代アートの学習会といった手法ではなく、私たちが掲げる<Anyアート>とは何なのかについて具体的なイメージを呈示し、それをきっかけに地域の人々とアートについて広く論議を図ることも求められています。【(資料2)を参照】 
 人は、それぞれアートについてのイメージが異なっています。そのため地域にある美しい、面白い、不思議なものなどを、これは「柏原に特有なアート」ではないのかと、みんなで意見交換し、地域における「アートとは何か」の主体的な探索、発掘、発信、共感、共有をめざすアクションを行っていきます。これが<Anyアート>の取り組みです。

地域アート資源の活用:「Anyアート99@大阪KASHIWARA」から見えてきたもの  
 この主体的な探索活動をするプロジェクト「Anyアート99@大阪KASHIWARA」【(資料3)を参照】を通じて、<Anyアート>に関するコンセプトの地域的な合意形成をめざし、柏原らしいみんなで共有できる新しいアートランドマーク【註⑥】を構築することで、現代アートと地域アートの裾野を広げていきます。  
 既存の資源を活かす<Anyアート>の取り組みとして、柏原における地域アートに特徴的なものを整理すると、ぶどうアート、手ぬぐいアート、コットンアート、シャッターアート、柏原壁画アート、野外彫刻アートなどのアートの芽が存在しています。  
 また最近では、<Anyアート>的なグループ活動として、端布を利用した新たな造形活動「クレイジー・キルト」や、カラフルな色紙を駆使した高齢者の≪デイサービスの壁画饗宴≫、若者の仕事を支えるアートスペースなども生まれてきました。これらの地域アート資源と人材グループを拡充発展させ、地域の各種団体との「ハッピー連携」による「つながるアート」の推進とともに、戦略的な地域アートの新たな方向性が求められています。

地域アートの方向性:他のプロジェクトからの学び 
 新型コロナの影響でイベントや事業の延期や休止が多い中、最近、近隣の地域アートの中で、伊賀の「風と土のふれあい芸術祭」と、アートなまちづくりをめざしている茨木市の「SOU/Walking」ほんもの作品展などの実体を調べるアートツアーなどを実施しました。  
過疎化の中、山間の廃校になった小学校の校舎を拠点とする伊賀、一方の茨木では数年前に新たに開設したJR総持寺駅自由通路をギャラリーに、若手の作品を中心に大型プリントして壁面一杯に展示し、市民が身近な場所でアートに触れる取り組みを行っています。どちらも公共空間を有効に活用し、アーティスト・イン・レジデンスやアートコンペのようで、地域外からもアーティストを呼び込むユニークな取り組みでした。【(資料1)を参照】 
 また、コロナ禍でも、アートに対する逆転の発想ともいえる箕面や奥大和、京都高瀬川など、地域空間を活かし自然環境の中を「歩きながら」アートを楽しむ多彩なアートプロジェクトも面白く参考になる点が多かったことです。
 これらに共通する具体的なキーワードは、「活かすアート」と「歩くアート」であり、既存の空き空間を有効に活かすなど、根底には資源やコストを浪費せず循環させるエコロジカルでサスティナブルな思想【註⑦】があります。

<Anyアート>戦略:「活かす・つながる・歩くアート」  
 以上のことから<Anyアート>は、エコロジカルな思想を基調とした「活かす・つながる・歩くアート」の戦略をめざします。方法としては、日常的に=いつでも、場所を選ばず=どこでも、アーティストだけでなく、特に子どもや高齢者に着目=誰でも、道具や素材を選ばずエコな=何でも、の5つを柱に底辺を広げるアート活動を展開します。一方、サポーターの拡充とともに、質的アップも重要で、外部からの触発など現代アーティストからの刺激も併せて求めていきます。  
 難解なイメージが先行して敬遠されがちな現代アートに、今や社会的な市民権が獲得されてきた現在、地域アートは現代アートの「契機としての」、あるいは「結び手としての」力を発揮するでしょう【註⑧】。そのために、私たちの<Anyアート>戦略は、地域でのアートの受容基盤を拡充し、「アートなまちづくり」につなげることが求められています。


【註】
① 地域アートとは一般に、現代アートから派生して生まれた新しい芸術のジャンルで、多彩な特徴と視点がある。本論では藤田の「ある地名を冠した美術」として捉えている。 地域アートの定義に関しては以下を参照した。
・ 藤田直哉(編)『地域アート―美学/制度/日本』、堀之内出版、2016年。
「地域アート」と「アートプロジェクト」とは同義語。(18頁より)
「地域アート」とは、ある地名を冠した美術のイベント。(7頁より)
・ 熊倉純子(編)『アートプロジェクト 芸術と共創する社会』、水曜社、2014年。
アートプロジェクトとは、現代美術を中心に、主に1990年代以降日本各地で展開される共創的芸術活動。(第0章2頁より)
・ 加地屋健司「地域に展開する日本のアートプロジェクト:歴史的背景とグローバルな文脈、日本のアートプロジェクトを、社会関与の美術の枠組みの中で考察が必要。(藤田前掲書、98頁より)
■「アートプロジェクト」の特徴
・ 作っている過程を、結果的にできるものより重視する。
・ その場所や社会に合わせたものを作る。
・ 地域や社会などに対する、いろんな効果が期待できる。
・ いろいろな人を巻き込んで一緒に作るために、コミュニケーションを図る。
・ 社会の他の分野のことを取り入れる。(藤田前掲書、18-19頁より)  
■グローバルな国際芸術祭の二つのタイプとは、瀬戸内や奥能登など地域型と、愛知や横浜の社会性を持った都市型がありイメージも定着しているが、問題は、ドメスティックな芸術祭には、どのような位置づけと方向性が求められているのかである。熊倉は、「地域社会からの期待」として、経済・産業振興やまちづくり・コミュティ形成などさまざま視点をとりあげている。(熊倉前掲書、第0章13-14頁より)
■地域アートは、アートや文化の持つ精神的な豊かさや新鮮な感動、新たな価値の創造に向け、地域や社会を新たな目線で見つめ潜在する地域資源を「ヒト、コト、モノの交流」を通じて、その魅力の発掘・発見・育成する取り組みである。 <Anyアート>は、地域における具体的なアクションを通じて、アートの受容を広げ地域的なアートの土壌の醸成をめざしていく。(「アートはまちの漢方薬」:熊倉前掲書、第0章15頁を参照した。)
② 柏原の地域資源  柏原は歴史的には、古代から政治・文化・交通の要衝の地として栄え、市内各所に歴史遺跡や文化財が点在している。地域の3分の2が山や川の自然環境の中、ぶどう、ワイン、綿実油等の地産品や、古墳、鉄道等の自然・歴史・産業・文化資源にも恵まれている。また柏原は、大阪のベッドタウンとして、大阪市内から公共交通機関で20分程度という利便性に優れた立地である。市民が利用する駅も10以上も存在するという恵まれた地域でもあり、また市内の2つの大学をはじめ近隣周辺都市にも多数の大学があり、若者だけでなく多くの昼間流動人口も存在している。しかし一方で、少子高齢化が進行する中、柏原は「消滅可能都市」に位置づけられており、空き家や商店街をはじめとした空き店舗も多く発生しており、地域の魅力の拡大と交流を通じた新たな地域創生が求められている。
③ 魅力的地域空間「アートなまちづくり」  地域の保有する関係relation、環境environment、空間spaceを活かす手法の一つがアートなまちづくりである。
④ KASHIWARA芸術祭2019  2019年の芸術祭では、「都市と自然の融合するまち=柏原」を舞台に、地域の国際的な絵本作家や若手のユニークな現代日本画家などとともに地域の歴史や自然をテーマにした作品を制作し、アート人材を発掘・発見・育成するための取り組みを行った。参加者数の増大や参加者からは良かったとの意見もあったが、地域に根ざす<Anyアート>の面からの今後の展開はまだ不透明なままだ。
⑤ 柏原芸術祭の経緯とフレーム  柏原ビエンナーレは、今から15年前に始まった。当時の市民展覧会では展示できない大画面サイズの力強い作品を展示できるユニークな展覧会として、制作者の意欲を支援するものとして、当時は画期的なものだった。さらに7年前の第5回から柏原という地域に基盤を広げ、展示会場を倉庫や古民家に拡大し、作品の表現空間の新たな追求へと展開した。さらに、作家会という会員制システムからオープンな公募制のシステムに転換、運営組織は、地域企業や団体、大学などと連携した実行委員会に脱皮し、展示部門だけでなく、音楽や身体表現などの発表の場を包含し、参加資格に制約がない公募制の開かれた「総合芸術祭のフレーム」を確立してきた。
<KASHIWARA芸術祭2019 問題点や課題>  現状では、2年に1回の一過的イベントに終始し、地域とアートのつながりや広がりを支える「内実」はまだまだ寂しいものとなっている。日常的な地域アート活動は、この間に子ども造形ワークショップやミニ現代音楽コンサートなどを実施してきたが、まだ緒に就いたばかりである。課題の、若者、子どもなどの参加をどう掘り起こすのか、<Anyアート>概念のブレークダウンと具現化(現代アートとは、探す、見る、考える、想う)、分野の拡大(音楽パフォーマンス、アニメ・漫画、映像・写真、インスタレーション)、連携ネットワークづくりを支える地域人材の育成(地域サポーターの確保とともに多くの地域の各種団体との連携)を克服し、2021年に向け開かれた特色ある芸術祭=KASHIWARA芸術祭(第9回柏原ビエンナーレ)のフレームが求められている。
⑥ アートランドマーク 
今、地域アートに求められているものは、「コンセプト」、「プレイスブランド」、「自分ゴト化」の3つで、それを戦略的に象徴するものである。大崎龍史(瀬戸内サニー代表取締役/総合メディアディレクター)「全国に乱立する芸術祭や地域アートフェス なぜ瀬戸芸は成功しているのか」、『PROJECT DESIGN』、事業構想大学院大学、2019年5月号。
オンライン版:https://www.projectdesign.jp/201905/area-kagawa/006308.php 
⑦ エコロジカルでサスティナブルな思想  
エコロジーとは、人間生活と自然との調和・共生を目指す考え方。サスティナブルとは、「持続可能な」という意味で、自然にある資源を長い期間維持し、環境に負荷をかけないようにしながら利用していくことを指す。
⑧ 八田典子「地域創生に資する〈現代アート〉の力―調査事例からの一考察―」、『総合政策論叢』(島根県立大学総合政策学会)、第19号、2010年 3月、53-66頁。
以下についても適宜参照した。
(ア) 現代アートの社会的な市民権獲得段階における地域創生に資する現代アートの力について一考(53頁)
(イ) 現代アートの力とは:「契機としての」あるいは「結び手としての」力 (64頁)
(ウ) 現代アートの特性と影響:①「自由な発想」→新鮮な魅力を地域に付与する存在、②「多くの人々が参画し協働する可能性が大きい」点→考えられないような人々と作品との様々な関わりが実現 (64-65頁)


【参考文献】
<地域編>
(1) 『KASHIWARA芸術祭2019記録集:Anyアート』KASHIWARA芸術祭(柏原ビエンナーレ)実行委員会、2019.12、A4版28頁、500部
(2) Art Scene in KASHIWARAリーフレット:A3折り込みミニ冊子
・ 『ぶどうとアートの交差点:Appoko No.1』アッポコ2018.02
・ 『アートと地域の交差点:Appoko No.2』アッポコ2018.09
・ 『アートと地域の交差点:Any Art Scene No.3』Anyアート2020.04
(3) 「Anyアートプロジェクト:いつでも・どこでも・だれでもアート」(柏原市まちづくりに頑張る自治会・団体に対する補助金交付申請書)、Anyアート(KASHIWARA芸術祭実行委員会)2020.4 .
<全体編>
(1)小崎哲哉『現代アートとは何か』、河出書房新社、2018年。
本書では、以下を参考にした。(276-9頁、397-8頁)
現代アートの三大要素 ①インパクト:視覚的にある強いもの、かつてなかったような視覚的・感覚的な衝撃 ②コンセプト:思考的な要素、作家が訴えかけたい主張や思想、知的なメッセージ ③レイヤー:重層的、鑑賞者に様々なことを想像,想起、連想させる重層的に作品に組み込まれた感覚的・知的要素 以上によって鑑賞者の想像力を刺激する。
(2)山本裕貴『現代美術史』、中公新書、2019年。
  本書では、以下を参考にした。(185-198頁)
アートプロジェクト論(理論・批評家、リーダー・実践家など):コミュニティアート、
地域アートは2000年以降で日本独自の文脈である。
・中村政人:公共圏への関心、アーツ千代田3331
・藤浩志:エコロジカルと地域、かえるバザール
・村田真:脱美術館、プロセス重視
・北川フラム:越後妻有アートトリエンナーレ、瀬戸内芸術祭→アートフェステバル
・熊倉純子:共創的芸術活動、アートプロデュース
・加地屋健司:野外美術館(具体の系譜)、パブリックアート(ファーレ立川、新宿アイランド)、ヤンフート(ベルギー)
・藤田直哉:前衛のゾンビ「ある種のやりがい搾取」、地域活性化vs.批評性の希薄さ →全般的に政治的社会的意識の弱さ→3.11以降の社会的政治的展開が進む
(3) 藤田 令伊『現代アート、超入門!』、集英社新書、2009年。
(4) 伊藤亜紗『目の見えない人は世界をどう見ているのか』、光文社新書、2015年。
(5) 斎藤孝『ざっくり!美術史』祥伝社、2009年。
(6) 藤田直哉(編)『地域アート―美学/制度/日本』、堀之内出版、2016年。
本書では、以下を参考にした。(8-9頁)
地域アートの現象を解するための三つの軸が必要で相互に影響を及ぼす。①美学:感性・認識の学、②制度:芸術作品は制度や規制の中で作られるもの、③日本:特殊性と共通性(特に、国、自治体等の公的助成)
<論文等>
(1) 金善美「現代アートプロジェクトと東京〈下町〉のコミュニティ―ジェントリフィケーションか、地域文化の多元化か」、『日本都市社会学会年報』30、2012年。
(2) 田中一雄「アートプロジェクトの現状と課題―中之条ビエンナーレから考察する―」、『新島学園短期大学紀要』第35号、2015年、107頁-125頁。

資料1

資料2

資料3-1

資料3-2

浅野幸治

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