和の伝統文化コース 大野 晶子【学科賞】
お狂言師とは、江戸の大名屋敷の奥向きや将軍家大奥で、外出がままならない女性たちのために、当時人気を博した歌舞伎狂言を演じた女性芸能者のことである。非常に興味深い文化ながら、いまではその存在がほとんど忘れ去られている。歌舞披露の場が大奥や武家の奥向きだったことと、当時、表面上は女性芸能が禁じられていたことから、史資料が少なく、お狂言師にテーマを絞った先行研究もほとんど見当たらない。舞踊や演劇の先行研究にときおり登場するお狂言師に関する記述には、齟齬が見られ、その実態は曖昧なままというのが現状である。
しかし数少ない一次資料を丁寧に読み込むことで、その曖昧さをある程度まで解消できるのではないか。そう考え、本論文では、幕末に実際お狂言師として活動していた人物の経験談をもとに、お狂言師の実態を推測し、タイプ分け、昇進ルート、ヒエラルキーという枠組みを当てはめて整理を試みた。そこから浮かび上がってきたのは、武家のみならず庶民にも人気を博し、明治に入ってもなお社会に高く評価されていたお狂言師の姿だった。江戸のお狂言師は、けっして忘れ去られていい文化ではないことを痛感した次第である。
江戸のお狂言師
― その実態と社会的評価を考察する ―
東京都
大野 晶子【学科賞】
和の伝統文化コース
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