愛顔(えがお)にするジャム・ピール
- 愛媛の規格外柑橘が織りなす、美味しさの循環
食文化デザインコース 日野美由紀
「もったいない」という言葉の先に、どんな景色を想像しますか。
愛媛県今治市。柑橘の銘産地であるこの場所で味は最高なのに、傷があるだけで行き場を失う規格外柑橘の現実に直面しました。農家さんの、一番いい味なのに、捨ててしまうのが忍びないという切実な声。この光景を、幼少期から親しんできた製菓を通して新たな価値へと書き換えたいと考えたのが、このプロジェクトの始まりです。
無添加・手仕事で、素材本来の力を引き出す。その指針を確かなものにするため、プロの現場での研修を通じて、素材を無駄にしない精神や表現のヒントを模索する中で、自身の取り組みが単なる加工の領域にとどまらず、素材を通して「地域の誇りを届ける表現」であるべきだと確信。素材の状態に合わせた火入れや工程を見直す試行錯誤を自ら積み重ねることで、確信ある美味しさを追求しました。
地場産業である今治タオルの製造過程で出る繊維屑を漉き込んだ色綿紙による梱包や、物語を伝える媒体(フライヤー)を通して、作品に今治の誇りと資源循環のストーリーを凝縮させています。また、蓋やパッケージを開ける動作の中で、封印シールや帯に記された背景に自然と触れる仕掛けを施し、持続可能な農業や食糧生産に貢献しながら、地域の食を楽しみ、味わう生活の豊かさを感じてもらうきっかけをデザインしました。
消費者庁の調査データによると、規格外農産物・食品を知っている人の7割以上が、品質(味)が変わらなければ購入すると回答しています。規格外という言葉が、確かな美味しさと結びつき、正しく認知されること。それが、もったいないという状況を「美味しさの感動」へと転換させ、日々の選択を前向きに塗り替える後押しになると実感しています。
「美味しい」から始まる心地よい選択が、自身の健康、地域、そして地球環境が手を取り合う未来をつくっていく。 このプロダクトから始まる体験が、見過ごされていた価値を笑顔へと変える確かなアクションになると信じています。これからも、食とデザインの可能性を信じ、心・体・地球が響き合う「美味しさの循環」を届ける活動を続けていきます。
JA選果場や直売所の実態を調査。徹底した品質管理の裏で、味は最高でも傷があるだけで活用が難しくなるもったいない現状に直面しました。現場の声を聴き、未利用資源を新たな価値へ変える解決策を模索しました。
市場調査から、無添加で地域性・クラフト性のある製品の希少性を確認。安心・安全へのニーズと、素材本来の味を求める潜在的な欲求に応えることが、新たな価値創造に繋がると確信しました。
同郷シェフの洋菓子店での研修を通じ、素材を使い切る精神と細部への徹底したこだわりを体感。プロの真摯な姿勢に触れ、自身の活動を「地域の誇りを届ける表現」へと昇華させる指針を得ることができました。
無添加ゆえの離水や褐色化など、素材ごとに異なる不均一な個性に正面から向き合いました。糖度や加熱時間を細かく検証し、失敗を積み重ねることで、素材の命を活かしきる最適な工程を導き出しました。
丁寧な下処理と火入れを積み重ねることで、「これが本当に規格外品なのか」と驚くような、洗練された美味しさと品質の両立を目指しました。
完成したのは、柑橘の命を凝縮したジャムとピール。丁寧な手仕事を経て辿り着いた透明感と鮮やかな香りは、素材の力そのものです。今治の豊かな恵みを、無添加で確信ある美味しさとして届けることを追求しました。
廃材を再利用した色綿紙での梱包。包みを解く体験そのものが、産地の物語への入り口となります。デザインを通し、地域の食を楽しみながら資源の循環を自然に感じるきっかけを、プロダクトのしつらえに込めました。
調査では、品質が同じなら規格外品も購入するという人が7割を超えています。試食会を通じ、その期待を「感動」へ変える鍵はデザインにあると実証。人々の豊かな食の選択を支える一助になると確信しています。
「美味しい」という純粋な感動が、地域や環境への貢献に自然と繋がっていく。このプロダクトが、個人の喜びと社会の課題解決が共鳴し合う、健やかで持続可能な食のあり方を提案する起点となることを願っています。
この作品が、あなたにとってこれからの豊かな食を考える、ささやかなきっかけになれば幸いです。
日野美由紀
食文化デザインコース
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