レシピエッセイ「中国の朝、私の食卓:日常から見える異文化の風景」
食文化デザインコース 李乃佳
電子ブックとして、アマゾンで出版済み
『中国の朝、わたしの食卓:日常から見える異文化の風景』は、「朝ごはん」を軸に、中国各地の家庭料理と、それにまつわる個人的な記憶を綴ったビジュアル・レシピエッセイである。
本書は、いわゆる網羅的なレシピ本ではない。著者自身が歩んできた人生のなかで出会い、作り、食べてきた料理を、「食の記録」として残した一冊である。肉まん、小籠包、生煎饅頭、餃子、麺料理や粥など、収録されているのは中国各地の朝ごはん約50品。すべて著者が自宅で再現し、写真を撮り、レシピとエッセイを添えている。
料理の説明にとどまらず、それぞれの料理には、家族との思い出や、子ども時代の風景、時代背景が重ねられている。たとえば、上海の肉まんは、母が仕事帰りに買ってきてくれた特別な朝ごはんとして描かれ、成長した現在では、娘たちの好みに合わせて少しずつ姿を変えていく「我が家の肉まん」として語られる。そこには、味が世代とともに変化しながら受け継がれていく様子が静かに映し出されている。
また、料理を通して文化的な気づきが語られる点も本書の特徴である。生煎饅頭の食べ方から見える価値観の優先順位、餃子の餡の違いに表れる地域性、湯圓に込められた家族の記憶。食卓での何気ない選択や習慣が、その社会の考え方や生き方とつながっていることが、具体的なエピソードを通して示される。
本書では、レシピの正解を提示することよりも、「自分の好みに合わせて味を調整すること」「何度も作りながら、自分だけの味に近づいていくこと」が勧められている。料理は固定された文化ではなく、暮らしの中で少しずつ形を変えながら続いていくものだという考えが、全体を貫いている。
朝ごはんという、もっとも個人的で静かな時間。その一皿一皿を通して、異文化は特別なものではなく、日常の延長線上にあるものとして立ち現れる。本作は、食べること、作ること、思い出すことを通じて、文化と向き合うためのささやかな入口を提示している。
李 乃佳(り・のか)。中国・上海生まれ。幼少期を中国で過ごし、その後日本へ移り住み、再び中国、日本と生活の場を行き来してきた。人生の移動とともに積み重なってきたのが、家庭の食卓で出会った数々の「朝ごはん」の記憶である。
料理人ではなく、あくまで料理好きとして、自分の生活の中で作り、食べ、記録することを続けてきた。幼い頃に食べた上海の味、日本で家族が再現してくれた料理、留学先で出会った中華食材、ネット通販の発展によって広がった中国の家庭料理、そして母となった現在、自分なりに築いている「家族の味」となる。
本作では、料理を完成形として提示するのではなく、香りや音、食卓の空気、家族との会話といった周辺の記憶まで含めて書き留めることを大切にしている。日常の朝ごはんから文化や価値観をすくい上げる、その実践を通して、食と記憶のつながりを静かに問い続けている。
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