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魚を活かすだけじゃない! 漁師とともに未来を照らす RE:FISH

食文化デザインコース 佐々木 久美

学科賞

私は幼少期から祖父を通じて海を身近に感じてきました。祖父は捕鯨船の船長として海に生きてきた人です。
日本は四方を海に囲まれた国です。しかし現代の暮らしの中で、海や漁師の存在を意識する機会は少しずつ減ってきています。
 
漁師は魚を獲るだけが仕事ではありません。毎日同じ海域に身を置き、海況の変化をいち早く察知し、災害時には現場へ駆けつける。海と人との境界を守る「海の見張り役」として、多面的な役割を担っています。しかし、こうした漁師の多様な役割は正当に評価されにくく、近年、漁業就労者の数は減少傾向にあります。

本作品は、そうした漁師の仕事や海との関係を、日常の食卓から捉え直し、漁師とともに未来を照らす食文化デザイン、これがRE:FISHプロジェクトです。題材としたのは、市場に流通しにくい未利用魚。その一つであるシイラを缶詰に加工し、さらに漁師の言葉を添えることで、形(商品)と言葉(背景)の二層のデザインとして実装しました。

缶詰という形態は、保存性だけでなく「味わう体験」とともに背景を届ける小さなメディアとしても機能します。本作品では、この缶詰を「UMAii?缶」と名づけ、プロダクトとして展開しました。

制作にあたり、漁港へ足を運び、漁師の声を直接聞くことから始めました。さらに、缶詰文化が成熟しているフランスを視察し、缶詰が「保存食」ではなく、「贈る・飾る・楽しむ文化的プロダクト」として愛されている姿に触れました。パッケージや世界観そのものが食体験をつくるという価値観に出会い、海の背景まで届ける缶詰という方向性に確信を得ました。

対象の中心に据えたのは未来を担うZ世代です。彼らは価格だけでなく、「意味のある選択」や「共感」を重視する世代でもあります。そこで、未利用魚への心理的な距離を縮めるため、親しみやすいキャラクターを配置した世界観をデザインに取り入れました。「知らない魚でも、ちょっと手に取ってみたい」。そんな気持ちが生まれる入口をつくることを目指しました。

一方で、実装には数多くの試作が必要でした。完成した試作品を試食会で提供したところ、多くの参加者が「海を身近に感じた」と答え、漁師の存在への視点にも変化が見られました。

忘れていたのは「海」ではなく、海とともに生きる人の存在なのかもしれません。

小さな1缶が、漁師とともに未来を照らしていく。その静かな灯りとなることを願っています。

佐々木 久美

食文化デザインコース

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