食の選択で未来が変わる? フードマイレージ可視化アプリの可能性
〜日常と社会課題の「距離」をフードマイレージで引き寄せる体験〜
食文化デザインコース 藤井 由恵
手のひらのミニトマト、どのくらいの「距離」を移動してここに来たのだろう。
私たちは日々、食材の背景にある「距離」や「環境負荷」について、立ち止まって考えることはほとんどない。
フードマイレージを可視化することで、日常の食の選択と社会課題を近づけることはできるのだろうか。
東京で暮らしている私は、世界中の食材が当たり前のように並ぶ環境を、「便利だ」という一言で受け止めていました。スーパーなどで買い物する際に基準となっていたのは、価格はもちろんだが、国産であることと名産地であること。自分なりに「選んでいる」つもりではいましたが、食材がどれくらいの距離を経て手元に届いているのかを意識することは、ほとんどありませんでした。
そんな私の価値観が揺さぶられたきっかけの一つが、食文化デザインの授業で出会ったジャック・アタリ著『食の歴史』の中の一文でした。「われわれは、できる限り半径120km以内で栽培された新鮮な野菜を食べるべきだろう」。この言葉は、食を“距離”という視点から捉え直すきっかけを私に与え、これまで何気なく購入していた輸入食品など、本当に必要なのかを考えるようになったのです。
そして、これを機に今まで気にも留めていなかった近所の国産大豆100%使用の豆腐屋さんの存在価値や、東京の隣である神奈川県でキウイが生産されていることを知り、「輸入品しかない」と思い込んでいた自分の視野の狭さにも気づかされました。遠くから運ばれてくる食材だけでなく、すぐそばにも選択肢がある。その発見は、私の中で大きな転換点となりました。
それ以降、スーパーでの買い物の仕方が少しずつ変わっていきました。価格やブランドだけでなく、「より近い産地」であるかどうかを意識して商品を手に取るようになり、食材が運ばれてくる距離や環境負荷、生産者の存在を想像するようになりました。
身近な食材の価値に気づくことは、決して特別な知識や大きな努力を必要としません。しかし、その小さな気づきの積み重ねが、私たちの選択を変え、未来の環境や地域のあり方に影響を与えていくのではないでしょうか。こうした自分自身の変化を、まずは周囲の人と共有し、さらにその先へと広げていきたい。そんな思いから、この取り組みを始めました。
これまでスーパーで無意識に山積みの野菜を手に取っていたが、改めて見ると異なる産地のものが混在していることに気づく。
この気づきを周りの人にも気軽に体験してほしい、という思いから、アプリでフードマイレージを可視化する仕組みを設計した。距離を「数字」で見ることで、日常と環境問題のつながりを身近に捉える体験を目指した。
20名の参加者の多くが体験後アンケートで回答した言葉。距離が見えることで選択や意識が揺らぐことが分かった。 フードマイレージを「見る」体験は、食の選択を、少しだけ変えるきっかけになった。
フードマイレージの可視化は日常の買い物から行動変容を生み、やがて食の価値や売り場の未来を問い直すきっかけとなり得るかもしれない。
フードマイレージ可視化アプリ操作イメージ
藤井 由恵
食文化デザインコース
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