ふるさとの文化を食べようプロジェクト
郷土料理を再構築するレシピリーフレットと動画制作
食文化デザインコース 伊藤 未穂
郷土料理を再構築して生まれた『富山新川定食』
本作品は、富山新川地区の郷土料理をいまの暮らしに合うかたちに再構築したレシピリーフレットと動画です。
幼いころから大好きな富山新川地区の郷土料理「おせずし」。しかし、次第に見かける機会が減り、地域の食卓から消えてしまうのではないかと思うようになりました。それが、この制作の出発点です。
「おせずし」の状況を知るために、新川地区に暮らす三世代を対象としたアンケート調査を行い、食文化の現状や世代ごとの意識を明らかにしました。
なかでも、高校生の56%が「おせずし」を作ってみたいと回答し、郷土料理への関心が高いにも関わらず行動に結びついていないことがわかり、高校生の意欲を実際の体験につなげたいと考えました。
地元の蒲鉾店への聞き取りでは、郷土料理は昔のまま守るものではなく、時代に合わせて受け継いでいくものだという考えを学びました。そこで、「おせずし」の歴史を冷蔵庫や電子レンジなど家電製品の普及と重ねてみると、生活様式が大きく変化しても「おせずし」の作り方は変わっていないことに気づきました。この暮らしとのずれに「おせずし」衰退の理由があるのではないかと考え、新しい作り方を探りました。
また、未来に残したいと思う郷土料理を尋ねたところ、三世代に共通して挙げられた料理が複数ありました。地域で受け継がれてきた味が世代をつないでいることに感動し、「おせずし」と郷土料理を組み合わせた富山新川定食として表現しました。
30年以上前の文献を参考にしながら、母からも教わり、工程や材料を見直す試作を行いました。「おせずし」の場合は、重たい木枠を家庭にあるタッパーに替え、焼きサバの代わりにサバ水煮缶を用いることで工程を簡略化しました。こうしてできた郷土料理の新しい作り方をA3二つ折りのリーフレットにまとめ、動画に興味を持ちやすい高校生を想定し、1分5秒の「おせずしの作り方」動画を制作しました。
リーフレットと動画を見た高校生からは、「おせずしって、こんなふうに作れるんだ。自分にもできそう」、「べっこうや、すり身のすまし汁を食べてみたい。今度、おばあちゃんと一緒に作ってみようかな」という声が聞かれました。
富山新川定食を提案したことで、郷土料理が特別で難しいものではなく、日常の身近な食事としてイメージしやすくなり、興味や関心が広がったと感じています。
郷土料理の歴史に思いを馳せつつ、いまの暮らしに合うかたちに再構築することも、食文化を次の世代へつなぐための方法のひとつだと考えています。
高校生は「家庭」や「衣食住」について専門的に学んでいます。現役世代は友人、知人や高校の教職員の方々、シニア世代は近所の方やデイサービス利用者の方々に依頼しました。
高校生の素直な回答が、「無知の知」として新鮮に感じられました。
蒲鉾店の若き4代目が時代の動きに対応しながら試行錯誤する姿と、細工蒲鉾の伝統技術が20代の職人へ受け継がれている様子を知ることができました。
家電製品の普及と「おせずし」の変遷を重ねてみることで、シニア世代と現役世代の間で継承が途絶えつつある現状がより明らかになりました。
このアンケートの結果から、「おせずし」だけではない地域の郷土料理の豊かさに気づくことができました。
富山新川定食を、いまの暮らしに合う新しい作り方に再構築するため、工程や材料を見直しながら試作を重ね、ブックレットにまとめました。
高校生には短時間で読めるかたちが適しているのではないかという教員の助言をもとに、A3二つ折りのリーフレットに再構成しました。
さらに、教員から高校生は動画への関心が高いとの情報を得たことから、「おせずしの作り方」動画を制作しました。
これは、「おせずし」や郷土料理が未来を担う世代とつながるきっかけが生まれた瞬間です。
富山新川定食「おせずしの作り方」 全編:1分5秒
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伊藤 未穂
食文化デザインコース
富山県生まれ。
大学進学を機に上京し、その後、札幌・横浜・名古屋などで暮らすなかで地域文化への関心を深める。
東京日本橋にある富山県のアンテナショップ勤務を通して、故郷の伝統文化の魅力を再認識。現在は、地域の食文化を未来へつなぐため、いまの暮らしに合う新しいデザインを探究し、わかりやすく伝える活動に取り組んでいる。
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