鑑賞実践の先の新しい形
―田丸メソッドを用いた「三行感想詩」の試み―
(大学院)文芸領域 菊池泰子 (鯛やき)
鑑賞実践の新しい形──田丸メソッドを用いた「三行感想詩」の試み
【研究の背景と目的】 近年、美術館や教育現場では「対話型鑑賞」が普及し、「見る・考える・話す」を通じた鑑賞能力の育成が進められている。しかし、対話を中心とした鑑賞は一過性の体験に留まりやすく、個人の内面に生まれた感動や感想を具体的な「成果」として残すことや、鑑賞体験をその後の創作活動へと昇華させるには、技術的・時間的ハードルが高いという課題があった。そこで本研究では、ショートショート作家・田丸雅智氏が考案した発想法「田丸メソッド」に着目した。本来は物語創作のために用いられるこの手法を、アート鑑賞の言語化に応用することで、誰もが直感的に、かつ短時間で感想を構造化できる「三行感想詩」のワークショップを開発した。本研究の狙いは、鑑賞者を単なる「作品の受け手」から、自らの感性を言葉で表現する「創作者」へと変容させ、自己肯定感と深い学びを同時に促すことにある。
【実践と検証】 本手法の有効性を検証するため、筆者は2024年から2025年にかけて、異なる属性を持つ対象者にワークショップを実践した。具体的には、「医療系専門学校生」、地域アートイベント(AKIULUMINART)を訪れた「一般来場者」、そして公立中学校の美術授業における「中学生」である。特に、専門学校の学生を対象とした3回連続実践において、田丸メソッドの特徴である「言葉の組み合わせ」を用いた鑑賞後のアウトプットを行った結果、参加者は「正解のないアート」への心理的障壁を乗り越え、個性豊かな詩を次々と生み出した。事後調査からは、鑑賞体験を「三行感想詩」という作品に定着させるプロセスが、参加者にとって「自分にもできた」という強い達成感を与え、アートへの関心を深める要因となったことが明らかになった。
【制作物の特長】 最終成果物である本論文は、これら一連の実践データと理論的考察を体系化したものである。本研究の最大の特長は、学術的な論証に加え、他の教育者やファシリテーターが現場で活用できる「実践的有用性」を重視した点にある。論文内では、田丸氏の許諾を得て改変した「三行感想詩ワークシート」や、具体的な指導手順を詳細に公開した。これにより、教育現場で実施可能な新たな鑑賞教育モデルを提示している。本研究は、対話型鑑賞の「その先」のアウトプットとして、言葉にならない感想に「三行感想詩」という形を与え、アートと鑑賞者の間に新たな回路を開く試みである。
仙台市在住。東北大学文学部哲学科卒。情報誌編集を経てフリーのライターへ。1990年代、河北新報と三陸河北新報で連載コラムを執筆。現在は大学や高校で日本語・国語の講師を務める傍ら、小論文の添削指導にも携わる。「言葉がアートになるとき」を研究。対話型鑑賞の先の感想を詩とする三行感想詩を提案。東北芸術文化学会会員。
アートイベント「AKIULUMINART2024」にて「言葉とアートのワークショップ」を開催。次回AKIULUMINART2026(2026.5.30〜7.12 開催)で、「言葉とアートのワークショップ」実施予定。月1回のオンライン無料読書会「鯛やき読書会」主宰。連歌や短歌など多方面から言葉の可能性を探求している。
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