伝統工芸の継承と革新
黒谷和紙における中村元の功績に関する一考察
歴史遺産コース 久後裕子
黒谷和紙の戦後再建と中村元の実践
― 制度・技術・思想の視点から ―
本研究は、京都府綾部市黒谷における手漉き和紙産業の戦後再建を、中村元(1920~2015)の実践を手がかりに検討し、伝統工芸の継承の在り方を考察したものである。
黒谷和紙は約800年の歴史をもち、純国産楮を用い、天日乾燥による板干しを行う強靭な紙質を特徴としてきた。しかし戦後、生活様式の変化と産業構造の転換により需要は縮小し、担い手不足と経営難に直面した。
その中で中村は、農協和紙事業部長および黒谷和紙組合長として再建を担った。本研究では、その活動を制度・技術・思想の三側面から整理した。制度面では農協の枠組みを活用して資金基盤を整えつつ、和紙組合としての主体性を維持した。技術面では純国産楮と天日乾燥という伝統製法を堅持し、品質を守りながら多品種生産や加工品開発にも取り組んだ。思想面では紙すきを「暮らし」として捉え、先人への敬意と郷土への思いを基盤に継承を考えていた点に特徴がある。
調査と聞き取りを重ねるなかで、再建は特別な改革によるものではなく、地域に根ざした判断と実践の積み重ねによって支えられてきたことが見えてきた。黒谷の事例は、伝統工芸を産業としてのみ捉えるのではなく、暮らしとともに継承されてきた文化として考え直す契機を示している。
久後裕子
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