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「ペットボトルの水滴」における表現について

食卓と食事の暖かさについて

(大学院)文芸領域 川本理緒

領域長賞

ペットボトルの水滴

高校一年生の佐々木亜希は、雨が続く六月中旬の日曜日の夕方、目が覚めた。母、静子が部屋の外から声を掛けてくる。夕食の時間だ。仕事帰りに、お弁当を買ってきてくれていた。
カツカレーだ。亜希は家族で過ごす食事の時間が好きだ。無自覚だが、自分自身の根幹になっている。食事をして、会話をする。カツカレーの今日だって、数えきれないほど食べた夕食の一つだ。食事の会話の中で、静子に恋人がいないのか尋ねられる。亜希は体力がない。
自分の行動一つ一つに気を遣う。恋人がいないのも、人付き合いの中で生まれる引け目から、行動できていないからだ。七月上旬、雨が降る日も少なくなってきた日曜日、涼みに行こうと図書館へ向かう。あまりにも暑く、途中でコンビニに寄ることにした。途中で買ったペットボトルがぬるくなっている。コンビニに行くと、クラスメイトの桜田唯人に声を掛けられる。
唯人は、父、敦史とマンションで二人暮らしをしている。母、瑞枝と父は二年前に離婚し
ており、瑞枝は東京で一人暮らしだ。瑞枝は料理が上手だ。どんな料理だって作る。別々に暮らしていても、東京に行けば作ってくれる。母は自分の好きな料理を作る。そこに唯人や、離婚する前の父の好みは反映されていない。美味しいが、美味しくなかった。日曜日、コンビニまで出かける。クラスメイトの佐々木亜希がコンビニに入るところを見つける。亜希に声を掛ける。
亜希は桜田君が苦手だ。クラスの中心にいて、堂々としている。イケメンでもある。休日に声を掛けてくるところも苦手だ。少し強引なところもある。それなのに、人のことをよく見ている。唯人に声を掛けられて、いつの間にか、唐揚げをおごってもらい、一緒にコンビニで食べることになっていた。
一緒に唐揚げを食べる。美味しさを共有する。今日何をしていたのか、学校での話を二人でする。唐揚げを食べながら、唯人が自分の家族のことについて話す。母親の料理が苦手だったこと、それでも一緒に暮らして、母親のご飯を食べたかったこと。亜希も、自分は体調を崩しがちだと告げる。亜希は、唯人の母親にご飯を作ることを提案する。唯人は驚くが、笑う。次の日の月曜日の朝、学校の教室で亜希が座っていると唯人に声を掛けられる。唯人に、瑞枝のことが嫌いで、好きで、どちらの気持ちもあると言われる。亜希は笑って頷く。 唯人にコンビニで唐揚げをまた食べようと言われる。亜希は喜んで、頷いた。

川本理緒

(大学院)文芸領域

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