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(大学院)文芸領域 鈴木 祐未 【領域長賞】

緑の神秘にはいつも心を奪われます。


言語以前の感覚が言語と結びつくまでの過程について考察するための作品
―コミュニケーションの加速化が抱える問題点をめぐって―

<作品名>
「迦陵頻伽の夢」

私は本研究の制作物・研究成果物として小説「迦陵頻伽の夢」を執筆した。作品の梗概は以下の通りである。
典子の友人・博子は「典子の声が聞きたくなった」と言って典子によく電話をかけてくる。しかし博子は典子の話の内容に耳を傾けている様子はない。典子は、博子が典子の声の音声だけを必要として電話をしてくるのではないかと感じる。だが、博子が典子の声だけを欲する理由までは分からない。典子はシズカという小鳥を飼育し、溺愛している。ある時、シズカは雛の孵るあてのない卵を産み、それを抱いたまま冷たく硬直してしまう。その心臓は止まっているのだが、典子にはシズカが死んだようには思えない。それを博子に話すと、彼女は急に態度を変えて自分の作ったハーブチンキを薬に用いることを進め始める。それは薬酒に文字の霊を溶かし込んだ不思議なものだった。その薬効でシズカは健康を取り戻すが、典子が夢の中で逢瀬を重ねた想念の世界のシズカは文字の霊に取り憑かれ、雛を抱いたまま消えてしまう。典子は「知恵の姉妹」という霊感商法的な団体に所属し、顧客のために祈ったり夢解きをしたりする仕事をしていた。メアリは典子の熱心な顧客だった。典子はシズカを取り戻すため、彼女を慕うメアリと関係し、再び文字の霊を使ってメアリにシズカの魂を宿らせる。やがてメアリは典子とシズカの雛を懐妊する。ある日、典子は自分の勤める団体の代表であるマフユに雛の処遇を問われる。雛は禁忌の薬を使わなければ人の姿を保てない、迦陵嚬伽だった。典子は雛を想念の世界へ還すのか、人間として育てることにするのか選択を迫られる。そして彼女は、博子もまた人と鳥の間に生まれた雛であることを知る。薬の効果が切れて迦陵嚬伽の姿となった博子は典子と再会し、言葉によらない対話を通じて心を通わせた後に消滅する。その後メアリは迦陵嚬伽の雛を産む。典子にはその雛が虚空を見つめ、見えない何かと交信しているように見えるのだった。

鈴木 祐未 【領域長賞】

(大学院)文芸領域

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