「オペラは総合芸術の原点です」

5月 01日, 2012年
カテゴリー : プロデューサー目線 

 学生時代、私はオペラにはまっていました。大学を卒業したらイタリアに行って、オペラ演出家になる修行をしたいというのが夢でした。しかし、いろいろな事情があって夢が叶わず、東宝の演劇部に入ることになりました。でも、今考えてみると、私の武器はやはりオペラに詳しいことだったと思っています。演出助手をしていた時は、譜面を追えることから、帝劇の大作ミュージカル「スカーレット」や「歌麿」に就くことが出来ました。
 日劇がミュージカル路線に踏出した際には、オペラ「ミニヨン」を下敷きにしたミュージカル「君よ知るや南の国」の企画が採用され、制作を任されました。また、フリーのプロデューサーになってからも、オペラ「ラ・ボエーム」を元にミュージカル「原宿物語」を、オペラ「イドメネオ」を元に、ミュージカル「イダマンテ」を企画制作しました。
このように、オペラは、私にとって命綱とも言うべき存在だったように思います。
春秋座の企画運営に携わるようになったのも、市川猿之助芸術監督が「歌舞伎とオペラがきちんと上演できる劇場です」と言ってくださったのが決め手でした。

 オペラは何と言っても総合芸術の原点です。そのオペラをないがしろにしてはいけないと思っています。ただし、「一口にオペラといっても広ろうござんす」なので、春秋座で上演されるべきオペラというものをじっくり考えることが必要でしょう。
春秋座の舞台機構を十分に生かした、春秋座だからこそはまったと言われる作品を上演していきたいものです。また、オペラは入場料金が高いというイメージを払拭する為に、1万円未満の入場料金を死守したいと思います。高々キャパシティ700名の劇場で、大歌劇場だからこそ成立するようなオペラを、そのまま上演することはないでしょう。
 「春秋座のオペラは、歌手の表情も言葉もはっきり分かって、ミュージカルを見ているようだった」と感動していただけるオペラを上演したいものです。

 5月26日、27日に行われるオペラ「月の影」-源氏物語-は、歌舞伎劇場特有の花道やスッポンを使用し、和歌をアリアとして聴かせるなど、春秋座ならではのオペラです。
 「仏陀」や「藤戸」の作品で知られる尾上和彦氏の作品を、狂言師である茂山あきら氏がどのように演出されるのか、また、春秋座の空間を知り尽くしている大野木啓人氏がどのような美術で支えてくれるのか、私自身の興味も尽きません。

橘市郎
(舞台芸術研究センター プロデューサー)