KYOTO EXPERIMENT(京都国際舞台芸術祭)2014 開幕!

10月 01日, 2014年
カテゴリー : プロデューサー目線 

KYOTO EXPERIMENT(京都国際舞台芸術祭)2014――初秋の京都を彩る舞台芸術の祭典として、すっかり定着したこのイベントが、先週27日から、いよいよ開幕しました。今年は、公式プログラム11本に加えて、プリンジプログラムやオープンエントリー作品、関連企画なども合わせると、実に50本に迫る演目が、10月19日(日)まで、京都市内の各所で見ることができます。まさに観劇シーズンの到来、といったところでしょうか。

もちろん、できることならすべての演目を見ていただきたいと願いつつ、ここでは、とくに
京都芸術劇場・春秋座で開催される二つのプログラムをご紹介したいと思います。

まずは、10月11日(土)、12日(日)の両日に上演される、木ノ下歌舞伎『三人吉三』です。京都造形芸術大学出身者で頑張っているのは、終わったばかりの朝ドラ女優・黒木華さんだけではありません。木ノ下裕一、杉原邦生が中心となって、「歌舞伎の現代化」をテーマに活動している「木ノ下歌舞伎」は、昨年は初の海外公演(チリ)も実現し、数か月後には国内で最も大きな国際舞台芸術祭のひとつである「フェスティバル/トーキョー」の公式プログラムとして、6時間半におよぶ「東海道四谷怪談」通し上演を披露し、注目を集めました。今回は、河竹黙阿弥の原作を、4時間半の作品に仕上げ、京都の観客に供します。流麗な七五調で名高い黙阿弥の名作が、はたしてどんな新しい姿に生まれ変わるのか、興味は尽きません。

さて、次はその翌週、10月18日(土)、19日(日)に上演される、劇団地点の『光のない。』です。一昨年の「フェスティバル/トーキョー」で世界初演された本作のテキストは、オーストリアのノーベル賞劇作家エルフリーデ・イェリネクが、2011年の福島第一原発事故の一年後に、まさにフクシマをテーマに書き下ろした型破りの戯曲です。たんなる政治的な告発ではなく、そこには原子力やエネルギーをめぐるさまざまな断片的イメージが渦を巻き、次々に観客の心身に押し寄せてきます。地点の演出家・三浦基は、現代音楽の代表的な作曲家・三輪眞弘とタッグを組み、この〈渦〉を、風変わりな「オペラ」調に仕上げました。舞台美術は、建築家の木津潤平で、おそらく今年のKYOTO EXPERIMENTの数あるプログラムのなかでも、必見の仕事のひとつであるといって過言ではないでしょう。北白川にアトリエ劇場「アンダースロー」を立ち上げ、チェーホフやブレヒトなどを、きわめて刺激的な実験劇に仕立て直して高い評価を受けているこの劇団が、今回はそうした小劇場サイズとは真逆の、文字通りの超大作にチャレンジしています!

以上、二作品は、原作を書店で手に入れることもできますから、「読書の秋」との両立も可能。京都を拠点とするこの二つのカンパニーの大胆な挑戦を、ぜひともライヴで目撃してください。みなさまのお越しを、心からお待ち申し上げています。

森山直人
京都造形芸術大学舞台芸術学科教授、同舞台芸術研究センター主任研究員
KYOTO EXPERIMENT2014実行委員長

クローデル作『繻子の靴』(抜粋)の実験的上演――京都芸術劇場春秋座10月5日15時開演

10月 01日, 2014年
カテゴリー : 公演情報 

『繻子の靴――あるいは、最悪必ずしも定かならず(四日間のスペイン芝居)』(1919~25)は、二十世紀フランス最大の劇詩人の一人で外交官でもあったポール・クローデル(1868~1951)が、大正年間に、大使として日本に駐在中に完成させた戯曲です。物語は、新旧両世界に覇権を唱えた16世紀スペインを舞台に、新世界の征服者(コンキスタドール)であるドン・ロドリッグと、スペイン貴族の若い人妻ドニャ・プルーエーズとの、「禁じられた恋」に、プルエーズに邪な恋を仕掛ける「背教者」ドン・カミーユ、彼女の老いた夫で大審問官のドン・ペラージュが絡む《主筋》と、音楽の化身のような幻想的なドニャ・ミュジーク(音楽姫)とナポリの副王との幻想的な恋という《副筋》が展開されるという、文字通りの「世界大演劇」です。

「四日間の」という指定は、スペイン黄金時代の戯曲の幕割りの用語ですが、ここではそれが、ほとんど文字通りに、上演に「四日」を要するという意味にとりたくなるほどの規模で、ワーグナーの「四部作」『ニーベルングの指輪』に匹敵しようとするものでした。と同時に、もう一つのモデルがあり、この方が重要ですが、古代ギリシアにおける「悲劇」は、「悲劇三部」に「サチュロス劇」一部がつくという構成だったので、『繻子の靴』の「四日目」は、「三日目」までの深刻な劇とはうって変わった「笑劇」仕立てで、30年後の「不条理劇」の、驚くべき「先取り」ともなっています。

こうした演劇言語の多様な冒険は、主題の壮大さと相まって、劇詩人の死後も、クローデル劇のなかで最もポピュラーな作品となっており、バロー劇団のレパートリーとしては、独参(どくじん)(とう)、つまり上演すれば必ず当たる芝居にすらなりました。しかし、「全曲版」の上演は、一九八七年のアヴィニョン演劇祭において、国立シャイヨー宮劇団の支配人になった演出家アントワーヌ・ヴィテーズによってようやく実現され、以後は、「全曲版」を上演するのが、作品理解のうえで不可欠だという考えが拡がりました。近年、SPAC-静岡県舞台芸術センターへ招かれているオリヴィエ・ピーも、今世紀になってから「全曲上演」を果たしています。

しかし、まさに「グローバル」と呼んでよいような劇詩人クローデルの余りにもスケールの大きい演劇的宇宙は、まだ未開拓の部分も多く残されており、日本に正味5年近く滞在し、日本文化に強い関心と深い理解を示したその作品は、日本では特に、まだポピュラーなものとなっているとは言いがたい状況です。学部の卒業論文も、博士論文もクローデルで書いた者としては、『繻子の靴』への特別な思い入れがあっても当然だとは思いますが、同時に、翻訳者・演出家として、この作品を日本語で、日本人の俳優で上演することの困難さもまた、誰よりも分かっている積もりです。

今回、思い切って、かつて守章クラスの学生であった若い俳優たちと、ワークショップのような形で作業を始め――夏には、演劇集団円で、私の舞台に出てくれた人々にも参加してもらい――『繻子の靴』の重要な場面の幾つかを抜き出して、半年懸かりで舞台に立ち上げてみました。この作業は、文部科学省の「共同利用・共同研究」の助成金の一環として行いましたから、本格的な上演のための、文字通り「実験的な」作業です。そのような作業として観て頂ければ幸いであり、参加者一同に成り代り、今後もご指導・ご鞭撻のほどを願いあげます。

渡邊守章(演出家、フランス演劇研究/京都造形芸術大学舞台芸術研究センター客員教授)

http://www.k-pac.org/kyoten/guide/20141005/