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芸術研究の世界#5 「 謎のマンガ家-戦中の人気挿絵家・北宏二と韓国マンガの父・金龍煥-」

2021年10月7日

アクティビティ

 10月6日(水)18:30より、文哲研オンラインセミナー「芸術研究の世界#5」をzoomにて開催いたしました。

 

芸術研究の世界#5

「謎のマンガ家-戦中の人気挿絵家・北宏二と韓国マンガの父・金龍煥-」

講演者:牛田あや美(文明哲学研究所 准教授)

日 時:2021年10月6日(水)18:30-20:00

参加者:60名(京都芸術大学教職員・学生)

*講演概要ほか詳細:http://www.kyoto-art.ac.jp/iphv/topics/4754/

 

 

【参加者感想(一部抜粋)】 

*資料探索の作業の大変さを感じましたが、発見の楽しさということを、先生の発表から感じ取れました。表現されたものから、その人の人間性の側面をうかがい知るということは簡単ではないでしょうが、確かに興味深いことだと感じました。漫画を描くということは、物語を考えるという思考もあった方だと思うので、構成小説を書かれたというところも気になったところです。

 

*北宏二さんの並外れた画業に圧倒されました。また、この情報量を収集された牛田先生の情熱も素晴らしく、興味津々で受講することができました。前のめりになって研究された先生の姿勢にも学ばさせていただきました。

*先生の大熱量、ビシビシ伝わって参りました。また先生の貴重な調査報告資料まで開示いただき、ありがとうございました。先生方のお話を伺うと、勇気と元気が湧いてきます。

 

*時代背景から考えると、絶妙なタイミングで行ったり来たりされているので、諜報力が優れた方であり、他者から助けていただく事も多かったのではないでしょうか。軍事物も含め、いろんなジャンルの作業をされているので、自然と情報が得られたかもしれません。牛田先生の収集力と同等の力があった事は間違いないですね。

 

*丁寧なお話しとともに多数の貴重な資料も見せていただいて、無料で見てしまっていいのだろうかと心配になるほどでした。なにより、楽しそうにお話しされる姿が印象的でした。本日は有難うございました。

 

*謎の漫画家・北宏二ということで、まったく存じ上げず実像がボンヤリとしていましたが、先生の研究を聴いていく内にとても興味深いものを感じました。しかしそれ以上に背景が凄まじさにも驚きました。それでもお弟子さんの「ずっと描いている人だった」の逸話から、きっと様々な国家間のやりとりがありながらも、描くことで癒されてもいたのではないかと想像したり、もっと知られても良いのではとも感じました。

 

*昭和一ケタ生まれの父が、子どもの頃「少年倶楽部」という雑誌が楽しみだったと話していましたが、北宏二さんの絵に心躍らされたのかもしれません。それにしても精力的なお仕事ぶりで驚きました。これだけの仕事を依頼されるということは、画家としての技量は勿論、その人柄や仕事への真摯な姿勢をお持ちだったのかな、と想像しました。北さんのご年齢から考えると徴兵される可能性もあったのか?と思いますが、どうされたのでしょうか?戦時下、国をまたぎながら画家であり続けられた北さんの信条や背景にも興味を持ちましたし、牛田先生の研究へのアプローチなども具体的に伺うことができて、とても充実した講義でした。

 

*北宏二さんは、日本のことや韓国のことをどう思っていたのか、気になりました。色々なところに描いていることや、さまざまなタッチを使用していることから、本当に一人の人なのかと不思議に思いました。

 

*牛田先生の研究に注ぐ情熱が、周りをその気にさせ、結果として多くの資料や情報が先生のもとに集まるんだなと感じました。僕も卒業研究で、どうやって情報に触れたり足を運んだりして集めようか考え、悩んだりしながら、自分の身体的なことを言い訳にハードルが高いと思い込んでいました。けれど、先生の話や北宏二の生き様を見ていると本当に好奇心を持って何かを実現したいという情熱が先にないと前には進まないということを強く教わった気がします。北宏二のことをもっと多くの人に知ってもらいたいと僕も思いました。今日は大切なことを知ることができて先生には大変感謝しています。ありがとうございました。

 

 

 

ご参加いただきましたみなさま、ありがとうございました。

対面での開催が難しい情勢ではありますが、今後もzoom等を活用しながらセミナーや研究会などを開催する予定です。一般公開セミナー開催の際はこのホームページにてお知らせいたしますので、ぜひ楽しみにお待ちください。

 

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【文哲研オンラインセミナー「芸術研究の世界」】

このセミナーの講師は、文部科学省科学研究費(通称:科研費)の研究代表者である、11名の本学教員です。科研費は、人文・社会科学から自然科学まで、あらゆる分野の優れた研究を発展させることを目的として国から支給される研究費で、厳正な審査を経て採択され、数年間、申請した研究計画に沿って研究に取り組み、その成果を公表します。オンラインセミナー「芸術研究の世界」では、本学の教員が現在取り組んでいる芸術研究について、その研究を発想した経緯や研究の面白さ、難しさなども含めて存分に語っていただきます。セミナーでの質疑を通して、参加者の皆さんとともに、芸術研究の奥行きと拡がりに触れる機会となることを願っています。

 

【今後の予定】 (タイトルは科研の採択課題です。講演内容は追ってご連絡します)

11月3日 天野文雄 アジアの舞台芸術創造における国際的な「ラボラトリー機能」の実践的研究

12月1日 河上眞理  〈美術建築〉の観点から見た明治期における家屋装飾の歴史的位置づけに関する研究

1月12日 町田香  『四親王家実録』を中心とした近世四親王家の生活環境に関する復元的研究

1月19日 齋藤亜矢 描画のプロセスにおける想像と創造の関わりの検証

2月2日 増渕麻里耶 希土類元素に着目した古代鉄製品の非破壊製作地推定法の開発

3月2日 森田都紀 日本の芸能「能」の演奏技法の伝承過程に関する歴史的研究‐能管を中心に‐

※日程は講師の都合等で変更の可能性があります

芸術研究の世界#5 「 謎のマンガ家-戦中の人気挿絵家・北宏二と韓国マンガの父・金龍煥-」

2021年9月2日

アクティビティ

日程終了しました

 10月6日(水)18:30より、文哲研オンラインセミナー「芸術研究の世界#5  謎のマンガ家-戦中の人気挿絵家・北宏二と韓国マンガの父・金龍煥-」 を開催します。

 

 このセミナーは、一か月に一、二回の頻度で、実施します。

セミナーの講師は、文部科学省科学研究費(通称:科研費)の研究代表者である、11名の本学教員です。

科研費は、人文・社会科学から自然科学まで、あらゆる分野の優れた研究を発展させることを目的として国から支給される研究費で、厳正な審査を経て採択され、数年間、申請した研究計画に沿って研究に取り組み、その成果を公表します。

 

 オンラインセミナー「芸術研究の世界」では、本学の教員が現在取り組んでいる芸術研究について、その研究を発想した経緯や研究の面白さ、難しさなども含めて存分に語っていただきます。セミナーでの質疑を通して、参加者の皆さんとともに、芸術研究の奥行きと拡がりに触れる機会となることを願っています。

 

 

芸術研究の世界#5

「 謎のマンガ家-戦中の人気挿絵家・北宏二と韓国マンガの父・金龍煥-」

講演者:牛田あや美(文明哲学研究所 准教授)

日時:2021年10月6日(水)18:30-20:00

対象:京都芸術大学教職員、学生

 

【講演概要】 

 北宏二というマンガ家を知っていますか。

 彼は絵画を学びに戦前の日本へと留学にきました。そして当時の大人気少年誌『日本少年』『少年倶楽部』で挿絵を描いていました。

戦後は朝鮮で初めての職業マンガ家として活躍し、多くの新聞、雑誌で連載を持っていました。

朝鮮戦争を挟みこの謎のマンガ家は韓国、北朝鮮の新聞や雑誌でも描いていました。

 1959年、アメリカ軍が発刊していた雑誌『自由の友』が日本で印刷されていたことから日本に戻ってきます。

日本に戻ってからも筆の力は衰えず、戦前に活躍していた『少年クラブ』に戻り、最終刊の最期のページを飾りました。また『週刊少年マガジン』にも描いています。

戦前戦後における国交のない時代の越境した活躍を中心に、ベールに包まれた謎のマンガ家の作品を繙きます。

 

【講師略歴】

牛田あや美(うしだ・あやみ)

 トロント大学留学を経て、2006年日本大学大学院芸術学研究科芸術専攻博士後期課程修了。博士(芸術学)。

日本大学芸術学部オープン・リサーチ・センター整備事業ポスト・ドクター、日本大学芸術学部非常勤講師を経て、現職。

単著に『ATG映画+新宿 都市空間の映画たち!』(2007年D文学研究会)、共著に『横溝正史研究2-特集・ビジュアライズ横溝正史ミステリー』(2010年戎光祥出版)

『아시아 영화의 오늘 – 아시아 영화 미학과 산업 – (アジア映画の今-アジア映画美学と産業)』(2012年한울아카데미(ハヌルアカデミ))

『メディア文化論』(2013年ナカニシヤ出版)『メディア活用能力とコミュニケーション』(2016年大学図書出版)他。

 

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【今後の予定】 (タイトルは科研の採択課題です。講演内容は追ってご連絡します)

11月3日 天野文雄 アジアの舞台芸術創造における国際的な「ラボラトリー機能」の実践的研究

12月1日 河上眞理  〈美術建築〉の観点から見た明治期における家屋装飾の歴史的位置づけに関する研究

1月12日 町田香  『四親王家実録』を中心とした近世四親王家の生活環境に関する復元的研究

1月19日 齋藤亜矢 描画のプロセスにおける想像と創造の関わりの検証

2月2日 増渕麻里耶 希土類元素に着目した古代鉄製品の非破壊製作地推定法の開発

3月2日 森田都紀 日本の芸能「能」の演奏技法の伝承過程に関する歴史的研究‐能管を中心に‐

※日程は講師の都合等で変更の可能性があります

 

日程2021年10月6日
時間18:30 - 20:00
費用無料
対象京都芸術大学教職員、学生
申込方法学内掲示板・学生専用サイト(通学・通信)をご確認ください
主催文明哲学研究所

芸術研究の世界#4 「 花咲ける『地方色』」

2021年9月2日

アクティビティ

 9月1日(水)18:30より、文哲研オンラインセミナー「芸術研究の世界#4」をzoomにて開催いたしました。

 

芸術研究の世界#4「花咲ける『地方色』」

講演者:上村博(京都芸術大学芸術学部 教授) 

日時:2021年9月1日(水)18:30-20:00

参加者:73名(京都芸術大学教職員・学生)

 

【講演概要】 

今や地方芸術祭は花盛りです。各地で土地の色合いを反映した作品が創作されています。しかし実のところ、芸術に対して土地や場所の固有性が強調されるのは近代以降頻繁に見られます。

本講演では、芸術と土地を結びつける言説史をたどり、その背後にあるものは何なのかを、「1.地方色に求められているもの」「2. 地方色が期待される三つの要因」「3. 代償行為としての芸術」という話題の順に沿って考えたいと思います。

 

【講師略歴】

上村博(うえむら・ひろし)

1991年京都大学大学院文学研究科博士後期課程を中退。同大学助手、パリ第4大学研究員を経て1995年より本学。以来、主に社会人教育に携わる。

著書に『身体と芸術』(1998年)、共編著に『芸術環境を育てるために』(2011年)、共著に『日常性の環境美学』(西村清和編、2012年)、訳書に『美学への手引き』(C.タロン=ユゴン著、2015年)など。

 

 

【参加者感想(一部抜粋)】 

*改めて歴史を学ぶことがいかに重要か、そしてその歴史もまた作られたものであるかもしれないと疑い、自分自身の心身で確かめようとすることが大切であるということを学ぶことができたように感じます。

 

*ノスタルジーのお話を聞いていた時に、過去に想いを馳せることは、今この瞬間も遠い未来でノスタルジーになるのかとふと思いました。今を必死で生きれば感じられるような気がしました。

 

*ローカルカラー、オリエンタリズム、ナショナリズム、ノスタルジーとそれぞれの意味するものを知ることができました。特にノスタルジーはもとはスイスの風土病のことであったとは興味深かったです。

 

*先生のお話は頭に様々な風景が浮かんでくるような語り方でしたので、あっという間に時間が過ぎました。実体験やその土地に触れた経験が作品に力を宿すという事例を先生から知り得たことが一番の収穫でした。やはり書物など文字のみで知るのと話者の熱弁を通して聞くのとでは受け取る情報がこうも違うのかと改めて思い知らされました。この経験も旅の経験と重なるのかもしれません。

 

*「作品がオリジナルのところにあるべき(見るべき)という事」は、たびたび考える事です。しかし、全体を通して先生がおっしゃっていたように、それが、「本来の意図でない」としても、つまり、この場合作品が作られた場所になくても、個人の作品に対峙する経験としては嘘では無いというか、それはそれで本当の美的体験だと考えた次第です。一方で、美術館で作品を見ることに慣れている現代の私たちとしては、やはり、オリジナルの状況に思いを馳せることもまた違った作品との体験をもたらすものだとも思いました。

 

*私自身は都会から見ればいわゆる「地方」出身者ですので、最近流行りの日本の芸術祭がなぜあんなローカルな場所で多くおこなわれているのかあまり深く考えたことはなかったのですが、本日の講義を拝聴し、現代の日本に求められている地方色への期待という点でなるほどと感じました。今後は単なる観光地としての芸術祭ではなく、自分があたかもその地方の一員であるかのような、体験型の(ストーリーや文脈のある)芸術祭や地方での芸術活動というものがSNSと連動しつつ主流になっていくのかなと想像したりしました。

 

*興味深いお話しありがとうございました。「同じ場所に置かれ続けると作品に根が生える」。新しいことも続けば伝統になるということにつながるのかなと思いました。

 

 

【質問と回答】(セミナー後のアンケートで寄せられた質問に 回答していただきました)

*地方色は、とくに打ち出そうとしなくても滲み出てしまうものだと思いますか
 
―はい、そう思います。たとば、その土地で手に入る建材が自然と個性的な景観を作るようなこと(たとえば石州瓦の家並み)はよくあります。よくある、という以上に、かつてはそれが普通だったと思います。世界的な物流や人流が可能になってから、かえって地方色を意図的に作り出すことが盛んになったのだと思います。
 
 
*昨今の状況で地方に行くことが難しくなっているかと思います。また、今の若い世代(10代、20代)は産まれたときからインターネットが当たり前の世界です。今後、ネット上にも「場所性」が見出される可能性はあるでしょうか?たとえば、毎年◯月◯日を△△芸術の日、などとして作品をアップする、など。本日の講義では、草間彌生のかぼちゃのように、必ずしも土地の背景がなくてもそこに作品を置き続ければ場所性が根づく、というお話がありました。なので、例えばアイコンやシンボルとなる作品を一年のうち一定期間だけネット上にアップし続ける、アクセスした人で一斉に同じ行動をする、などのことで、場所性が産まれないでしょうか。しかし、質疑応答でもあったように、やはり場所性は身体性を伴うとお考えでしょうか。
 
-ネット上の「サイト」がまさに「場所」という意味であるように、ネット上にある種の場所性が成立することはそのとおりだと思います。場所は何も地面がないと生まれないわけではなく、むしろ複数の人間が共通の話題(「トピック」という言葉はギリシャ語の「トポス=場所」に由来します)に関わり続けることによって生み出されます。したがって、ネット上の場所も、ただ足を運ぶという意味での身体性というよりも、他者と関心を共にするものに対して眼差しを向ける、耳を傾ける、発話する、といった身振りとして、身体性を伴うと思います。
 
 
*悪い方向に比較されがちな首都東京ですが、(逆にと言うべきかわかりませんが)逆に、東京の地方色とは、何であると考えられますか。政治と移住者によって作られた江戸時代の文化が起源であるのでしょうか。
 
-「地方」という語は「天円地方」に由来しますので、本来は天子様のいらっしゃるところは地方ではないのですが、京都人の一部からすると、天皇陛下は東京に仮住まいされているだけで、まだ首都ではないようですし、また実際、お書きのように江戸時代以来の都市として、独特の色を持っていますね。また地方色は都市全体を括るものでもありませんので、広い東京の各地に地方色があると思います。日本でおそらく初めて地方色という語が使われたのは、森鴎外による樋口一葉評だと思いますが、そこでは一葉の小説が吉原界隈の地方色(ロカアル・コロリット)をよく描いている、というように褒めてあります。もちろん、吉原にかぎらず、江戸の近隣だった新宿や品川なども含め、東京は色とりどりですね。

 

ご参加いただきましたみなさま、ありがとうございました。

対面での開催が難しい情勢ではありますが、今後もzoom等を活用しながらセミナーや研究会などを開催する予定です。一般公開セミナー開催の際はこのホームページにてお知らせいたしますので、ぜひ楽しみにお待ちください。

 

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【文哲研オンラインセミナー「芸術研究の世界」】

このセミナーの講師は、文部科学省科学研究費(通称:科研費)の研究代表者である、11名の本学教員です。科研費は、人文・社会科学から自然科学まで、あらゆる分野の優れた研究を発展させることを目的として国から支給される研究費で、厳正な審査を経て採択され、数年間、申請した研究計画に沿って研究に取り組み、その成果を公表します。オンラインセミナー「芸術研究の世界」では、本学の教員が現在取り組んでいる芸術研究について、その研究を発想した経緯や研究の面白さ、難しさなども含めて存分に語っていただきます。セミナーでの質疑を通して、参加者の皆さんとともに、芸術研究の奥行きと拡がりに触れる機会となることを願っています。

 

【今後の予定】 (タイトルは科研の採択課題です。講演内容は追ってご連絡します)

10月6日 牛田あや美 日本統治下の漫画家・北宏二/金龍煥の懸隔

11月3日 天野文雄 アジアの舞台芸術創造における国際的な「ラボラトリー機能」の実践的研究

12月1日 河上眞理  〈美術建築〉の観点から見た明治期における家屋装飾の歴史的位置づけに関する研究

1月12日 町田香  『四親王家実録』を中心とした近世四親王家の生活環境に関する復元的研究

1月19日 齋藤亜矢 描画のプロセスにおける想像と創造の関わりの検証

2月2日 増渕麻里耶 希土類元素に着目した古代鉄製品の非破壊製作地推定法の開発

3月2日 森田都紀 日本の芸能「能」の演奏技法の伝承過程に関する歴史的研究‐能管を中心に‐

※日程は講師の都合等で変更の可能性があります

芸術研究の世界#3 「Open design studies」

2021年8月19日

アクティビティ

 8月18日(水)18:30より、文哲研オンラインセミナー「芸術研究の世界#3」をzoomにて開催いたしました。

 

芸術研究の世界#3「 Open design studies」

講演者:白石晃一(京都芸術大学芸術学部 准教授)

日時:2021年8月18日(水)18:30-20:00

参加者:46名(京都芸術大学教職員・学生)

 

【講演概要】 

近年デザインの分野において「オープンネス」という言葉を頻繁に聞くようになりました。講演者は、開かれた市民工房「ファブラボ」での実践や、科研採択研究「デジタルファブリケーション初学者に向けた設計支援マテリアルライブラリの構築」を通じ、デザインを開くことの意味と、その先にある可能性と不可能性を、Research Through Designの手法で研究を進めています。本講演では、これらの研究進捗と展望を共有いたします。

 

【講師略歴】

白石晃一 美術家(現代美術), 研究者(ヒューマンコンピュータインタラクション)

金属造形やデジタルファブリケーションの技術を使い機械やコンピューターを組み込んだ彫刻を制作、 自身でパフォーマンスを行ったり、観客参加型のイベントを仕掛け、公共空間を中心に発表を行う。

様々なフィールドにいる人たちと共にプロジェクトを展開・実践するため、デジタルファブリケーションを中心とした様々なツール・技術を使い、誰もが共創できる市民工房「ファブラボ北加賀屋」を共同設立。

 

近年の研究課題

・インターネットを利用した知識・技術伝承システムの開発

・共創活動の持続的組織構造の構築と実践

・公共空間における芸術表現を実現する方法論とその影響

 

【参加者感想(一部抜粋)】 (白石先生よりいただいたコメントも、併せて掲載しております)

*自分の研究分野が芸術(ものづくり)とこども、幼児教育への接続にあるので、「失敗」の記録に着目されている点にとても共感しました。こどもが育つプロセスで失敗が許されないような、または失敗しないような大人からの働きかけを感じます。素材を触りながら、たくさんの失敗の中から大人もこどもも学べると楽しいだろうなと想像が膨らみました。

―子供の学習というのも面白いテーマですよね。今わたしも幼児と一緒に生活しているので、重要性を強く感じるのですが、なかなか手を出しずらい部分でもあるのかなと思っています。先生が行われている取り組みも聞いてみたく、ぜひ事例共有などしていただけますと幸いです。

 

*大変ワクワクするお話をありがとうございました。同時に、少し心配にもなりました。身体性が、作る側と使う側に伴ったうえで、困難な状況にある人々にこのオープンデザインが届くと良いなと感じました。

―インクルーシブデザイン(包摂的デザイン手法)も広義のオープンデザインの一分野と思います。包摂性を考える場合、構造としてのシステム(法律やメソッドなど)を設計するということも重要なのですが、体感としては身体性や精神性をないがしろにするとうまくいかないという印象です。寄り添いすぎも、疲弊の原因になるので難しいのですが。

 

*本職がマテリアル・プロセスの研究開発ですので、大変興味深く聞かせていただきました。私は、いっけん失敗が許されないようにみえるエンジニアの中心にいて、「失敗を通じた創造」の存在を感じます。
私たちは失敗を恐れたり生産プロセスの効率化を求めるあまり、規格や前例を参照してモノをつくっています。それがまるでお互いを数値やルールによる監視をしているようで、魅力的な製品の製造を妨げているように思うのです。デザインの現場がものづくりのシステムやマインドを取り入れるのと同じように、私たちが「間違った道具の使い方はエラー」ではなく「活動的だ」と思えるマインドを取り入れ、オープンに創発するにはどうしたらよいのだろう考えてしまいます。

―同じような問題意識を持った現場の方からこのようなご意見を頂けて大変光栄です。また、現場で面白い事例などありましたらぜひ共有いただければ幸いです。

 

*クロステックデザインという学問を、今回初めて知りました。工学的なモノは無機質で冷たいイメージがありますが、芸術学の視点から介入することで、美しいモノが造られていくのではないかと想像しました。
難しそうな分野ではありますが、未来を創造している分野を知ることができ、ワクワクしました。

―クロステックはまだ学問分野としてしっかりと定義できていないのですが、引き続き考えていけたらと思っています。越境的な学際融合は徐々にではありますが実際に起きています。私自身の活動もそうなのですが、旧来の分野単体で閉じられない研究活動がどうしてもでてしまっており、結果として未分類なものになってきているのかなと。旧来の学問分野としての定義は境界を作るということと同義なので、この辺アンビバレントな気持ちでいます。何かいいアイデアあったら教えてほしいです。

 

*デジタルではないですけど伝統工芸の作家のものづくりをオープンに見られるようになれば興味が増えて後継者も増えるように思いました。

―技術継承などの問題に京都工芸繊維大が積極的に取り組んでいらっしゃいます。また技術の数値化などの研究も進めていらしたような?気がします(確からしい情報でなくすみません)。
https://repository.lib.kit.ac.jp/repo/repository/10212/2249/

 

*失敗するケースを見られるのはものすごく面白かったです。大体料理の作り方は失敗すると作る気がなくなるので、失敗例を見てそのポイントの方が成功よりも大切ですし楽しいような気がします。

―成功体験とやる気の問題は重要ですよね。しかし、レシピとは違ったけどうまい!という体験もある種の成功なのではと考えています。

 

 

【質問と回答】

*オープンデザインでは素材を営利目的には使えないということですが、グレーなもの二次利用など、そういった部分で苦労されていること、もめている事例などはあるのでしょうか?

―著作権の部分的選択(クリエイティブコモンズ)によって、商業利用可とすることもできます。これに関しては現行法ではグレーになりがちな部分を、可能な限り白黒に分けようとする取り組みだと考えています。係争の例ですが、オープンハードウェアとして開発され、世界中で使われているArduino というマイコンも商標の利用などのオープン化されなかった部分でもめて、分裂しその後和解しました。二次利用については、そこに「ちょっと待った!」を言う権利を開いているので顕在化しづらいです。もやもやする事例は聞いたことありますが、ここでの公開は控えておきます。(どこかで会った時にでも!)

 

*デジタルの人はオープンにすることに抵抗感がないようですが、アナログな工芸の分野からすると驚きです。先生も最初は抵抗感ありましたか?権利ビジネスなどで、誰が原案者か、など揉めることは少ないんでしょうか?

―権利をビジネス化しないというのがオープンデザインにおいての戦略なので、公開前に厳密な調整が必要です。アイデアだけでは、権利として主張することができないので、物質化されたものだけになりますが、現行法において共同著作なども認められており、権利保持者全員での話し合いがなされなければ、開くことは不可能です。(無理に開いてもその後クレームがつくかもしれない)また、共同研究に特化したものですが、情報共有と公開に関する事前契約に関してもフォーマットが公開されており、だれでもアクセスできるようになっています。
https://www.ycam.jp/archive/others/grpcontractform.html
個人的には、先行研究を調査していると過去の人々の発展の上に自身の研究・制作が成り立っているのをひしひしと実感します。自分のアイデアというものがどこまでがオリジナルなのかあいまいになっていく感覚があり、狭い範囲で権利を主張することに少し虚しさを感じるので、オーサーシップを一人に集中するような主張はしないことが多いです。

 

*オープンデザインを公開するときの審査機関などはあるのでしょうか?

―審査機関はありませんが、公開にあたっての権利の在り方に対しての取り組みはあり、それがクリエイティブコモンズです。

https://creativecommons.jp/licenses/

 

 

ご参加いただきましたみなさま、ありがとうございました。

対面での開催が難しい情勢ではありますが、今後もzoom等を活用しながらセミナーや研究会などを開催する予定です。一般公開セミナー開催の際はこのホームページにてお知らせいたしますので、ぜひ楽しみにお待ちください。

 

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【文哲研オンラインセミナー「芸術研究の世界」】

このセミナーの講師は、文部科学省科学研究費(通称:科研費)の研究代表者である、11名の本学教員です。科研費は、人文・社会科学から自然科学まで、あらゆる分野の優れた研究を発展させることを目的として国から支給される研究費で、厳正な審査を経て採択され、数年間、申請した研究計画に沿って研究に取り組み、その成果を公表します。オンラインセミナー「芸術研究の世界」では、本学の教員が現在取り組んでいる芸術研究について、その研究を発想した経緯や研究の面白さ、難しさなども含めて存分に語っていただきます。セミナーでの質疑を通して、参加者の皆さんとともに、芸術研究の奥行きと拡がりに触れる機会となることを願っています。

 

【今後の予定】 (タイトルは科研の採択課題です。講演内容は追ってご連絡します)

9月1日 上村博 芸術活動における「地方色」の受容と創出

10月6日 牛田あや美 日本統治下の漫画家・北宏二/金龍煥の懸隔

11月3日 天野文雄 アジアの舞台芸術創造における国際的な「ラボラトリー機能」の実践的研究

12月1日 河上眞理  〈美術建築〉の観点から見た明治期における家屋装飾の歴史的位置づけに関する研究

1月12日 町田香  『四親王家実録』を中心とした近世四親王家の生活環境に関する復元的研究

1月19日 齋藤亜矢 描画のプロセスにおける想像と創造の関わりの検証

2月2日 増渕麻里耶 希土類元素に着目した古代鉄製品の非破壊製作地推定法の開発

3月2日 森田都紀 日本の芸能「能」の演奏技法の伝承過程に関する歴史的研究‐能管を中心に‐

※日程は講師の都合等で変更の可能性があります

芸術研究の世界#4 「花咲ける『地方色』」

2021年8月16日

アクティビティ

日程終了しました

9月1日(水)18:30より、文哲研オンラインセミナー「芸術研究の世界#4  花咲ける『地方色』」を開催します。

 

 このセミナーは、一か月に一、二回の頻度で、実施します。

セミナーの講師は、文部科学省科学研究費(通称:科研費)の研究代表者である、11名の本学教員です。

科研費は、人文・社会科学から自然科学まで、あらゆる分野の優れた研究を発展させることを目的として国から支給される研究費で、厳正な審査を経て採択され、数年間、申請した研究計画に沿って研究に取り組み、その成果を公表します。

 

 オンラインセミナー「芸術研究の世界」では、本学の教員が現在取り組んでいる芸術研究について、その研究を発想した経緯や研究の面白さ、難しさなども含めて存分に語っていただきます。セミナーでの質疑を通して、参加者の皆さんとともに、芸術研究の奥行きと拡がりに触れる機会となることを願っています。

 

 

芸術研究の世界#4  「花咲ける『地方色』」

講演者:上村博(京都芸術大学芸術学部 教授) 

日時:2021年9月1日(水)18:30-20:00

対象:京都芸術大学教職員、学生

 

【講演概要】 

今や地方芸術祭は花盛りです。各地で土地の色合いを反映した作品が創作されています。しかし実のところ、芸術に対して土地や場所の固有性が強調されるのは近代以降頻繁に見られます。

本講演では、芸術と土地を結びつける言説史をたどり、その背後にあるものは何なのかを、「1.地方色に求められているもの」「2. 地方色が期待される三つの要因」「3. 代償行為としての芸術」という話題の順に沿って考えたいと思います。

 

【講師略歴】

上村博(うえむら・ひろし)

1991年京都大学大学院文学研究科博士後期課程を中退。同大学助手、パリ第4大学研究員を経て1995年より本学。以来、主に社会人教育に携わる。

著書に『身体と芸術』(1998年)、共編著に『芸術環境を育てるために』(2011年)、共著に『日常性の環境美学』(西村清和編、2012年)、訳書に『美学への手引き』(C.タロン=ユゴン著、2015年)など。

 

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【今後の予定】 (タイトルは科研の採択課題です。講演内容は追ってご連絡します)

10月6日 牛田あや美 日本統治下の漫画家・北宏二/金龍煥の懸隔

11月3日 天野文雄 アジアの舞台芸術創造における国際的な「ラボラトリー機能」の実践的研究

12月1日 河上眞理  〈美術建築〉の観点から見た明治期における家屋装飾の歴史的位置づけに関する研究

1月12日 町田香  『四親王家実録』を中心とした近世四親王家の生活環境に関する復元的研究

1月19日 齋藤亜矢 描画のプロセスにおける想像と創造の関わりの検証

2月2日 増渕麻里耶 希土類元素に着目した古代鉄製品の非破壊製作地推定法の開発

3月2日 森田都紀 日本の芸能「能」の演奏技法の伝承過程に関する歴史的研究‐能管を中心に‐

※日程は講師の都合等で変更の可能性があります

日程2021年9月1日
時間18:30 - 20:00
費用無料
対象京都芸術大学教職員、学生
申込方法学内掲示板・学生専用サイト(通学・通信)をご確認ください
主催文明哲学研究所
文明哲学研究所

2015年度以前