- 2019年12月27日
- 日常風景
ゼミ通ヒーローズvol.17「吉田未来と恐怖演出について語るの巻」part2
ゼミ通ヒーローズ Vol.17
吉田未来と「恐怖演出」について語るの巻 Part2
村上
去年「見世物小屋」プロジェクトをやったよね。これについても触れておこうかな。
吉田
これは学祭用に作ったお化け屋敷のプロジェクトですね。
村上
この見世物小屋は毎年人気があり過ぎて整理券が確保できないんだよね。
吉田
そうなんですよ。前売り券が相当売れるみたいですね。
村上
入場料500円であのクォリティだったら全然OKだね。学生が作るお化け屋敷っていうと何となく半分馬鹿にされそうな感じだけど、うちのは本当に怖いし、物凄いボリュームがあるし。
このプロジェクトの中では吉田はどういうポジションだったの?
吉田
部屋ごとにグループを作って制作していくんですけど、私はそこでのリーダーを務めました。
一番最後の脱出口からその前の部屋を担当して、そこでの演出や仕掛けを考えました。
元々大きなストーリーの流れが用意されていて、そこから部屋割りをして、各部屋でのエピソードを話し合って決めて、その後は個々で部屋の構造とか雰囲気を作っていきます。
村上
一番おいしいところだね。「ゴールが近づいてきたぞ!」と思わせておいて「まだ来るか!?」という恐怖を畳みかける演出ができるしね。
吉田
そうですね。そこには薄い膜みたいなものが貼ってあって、うっすら影が見えるんですよ。「あ、誰かいるな」て思ったら、わーっと飛び出してくるみたいな。でも私はその部屋に入ってなくて、ずっと裏で仕掛けを動かしてました。
村上
何年か前に一度行ったんだけど、うちの大学のお化け屋敷の特徴って、後ろから襲い掛かってくるパターンが多いよね。あれが嫌いでね、怖いから。前から襲い掛かってくる分には身構えることが出来るんだけど、後ろから来られるとね…。逃げたくても前がつかえてるから逃げられないし。
吉田
順路に沿って移動してもらうための仕掛けですね。後ろにお化けがいたら前に進むしかなくなるので。
村上
なるほど、強制スクロールゲームね。
テレビゲームだったら大体画面端にミニマップみたいなものが表示されるけど、一人称視点で見世物小屋に入ったら当然全体マップなんか見れないし、全体の何%進んだのかも分からない。情報がないっていう状況が怖い。
逆に全体が見渡せるから怖いっていうのもあるよね。「クロックタワー」みたいに、巨大なハサミを持った男が延々自分の後ろから追ってきて、絶対に倒すことができない。もしこれが一人称だったらあんな恐怖は味わえないと思う。扉の向こうにヤツがいて、もう少しでこの扉が破られそうだっていう恐怖感は一人称視点だと分からない。横スクロールの画面だから全体が見渡せて、敵の動きを見ながらこちらも行動を考える。
吉田
お化け屋敷だと戦略もなにもないので、ただ体感して恐怖を味わってもらうだけですね。
↑見世物小屋を制作している吉田さん(左)
村上
恐怖と笑いは紙一重っていうよね。確かに感情が動く構造はよく似てる。こう来るぞ、と思ってるときに予想と違うものが来たら少しドキっとするとか不快な気持ちになって、それが笑いになるのか恐怖になるのかどっちか。
「死霊のはらわた」が公開された時に、これをホラーではなくコメディ映画として紹介してる記事を読んだことがある。怖すぎて笑っちゃうとか、「そんなバカな」っていう突っ込みどころが満載なので、笑いと感覚が同じという解釈らしい。
吉田
なるほど、そういう意味では同じかも知れないですね。
村上
見てはいけないものを見たような感覚とか、背徳感がたまらないって感覚もあるね。
自分はホラー系だと特にゾンビものにどっぷりとハマったんだけど、吉田はどう?
吉田
私はほとんど触れてこなかったですね。「バイオハザード1」とか、韓国映画の「新感染」、あと最近だと邦画の「アイアムアヒーロー」くらいですかね。あの頭のヘコんで走ってくるゾンビ出てくるじゃないですか。あいつが怖くて…。
村上
え?怖かった?そこは笑う所じゃないの?
吉田
笑わないですよ!凄く怖くてヤだなーって思いましたもん。
村上
生きてるときは美しかったものが、朽ち果てていくさまが美しいというか。生きながらにして食われるとか、絶対こんな死に方はしたくないっていうシチュエーションにも萌えるよね。
吉田
萌えますかね…。ていうか、ゾンビって、何かゾンビになる理由とか設定ってあるんですか?
村上
タイトルによって色々あるよ。例えば超新星爆発が起こって、その光を浴びた者がゾンビになったっていう設定もあれば、この世で人が死にすぎて、地獄の釜が死者で溢れて地獄にすら行けなかった人が地上に溢れてきたっていう設定もあるけど、明確な理由は一切語られないね。最近のゾンビ映画は鳥インフルエンザの進化版で、病気の一種として人が人を噛んで感染するようなものがリアリティがあって流行ってるね。
冒頭でテレビ局内がパニックに陥っていて、キャスターもどう報道していいか分からなくて困惑してるところから始まったり。「ゾンビが出ました。皆さん気をつけましょう」なんてわざとらしいセリフはなくて、政府も対応方法が分からないから世界がどんどん不安になっていく様子を自然に描いたりとか。かと思えばヤンキーたちがゾンビ狩りをしたり写真を撮って楽しんでたり。実際にこんな事態が起きたら世界はどうなるかっていう社会の縮図としてリアルを追求した点がゾンビ映画の魅力だと思う。
吉田
「アイアムアヒーロー」でも、ゾンビがいるから銃を撃たなきゃいけないのにいちいち確認しなきゃいけないっていうまどこっろしい所が日本人っぽくてリアルで良いなって思いました。アメリカ人が見たらイライラするんでしょうけどね。「早く撃てよ」って。
村上
「シン・ゴジラ」でも、自衛隊がミサイルを一発発射するのに物凄い手順を踏む描写がリアルで好きだったんだけど、外国人にはウケなかったみたいね。「会議のシーンばかりでつまんない」って(笑)。
吉田
でも「シン・ゴジラ」で、街が壊される騒ぎが起きた次の日にはみんな何事もなかったかのように普通に出勤してたりして、怪獣もテレビの向こう側の出来事っていう風に感じるところも日本人っぽい無関心さがすごくリアルに描写されてましたよね。
村上
そういう日常がリアルに描かれると物語としての説得力がものすごく高まるよね。
吉田
私はゲームの「サイレン」が好きなんですけど、そこに登場する「屍人(しびと)」はゾンビに近い存在なんじゃないですかね。
悪い事をしたことが切っ掛けで一年に一度「異界入り」っていうのが村で起きるんですよ。海が真っ赤になるくらいの赤い雨が降り注いで、それを吸ったり飲んだりすると、どんどん屍人になっていくんですけど、屍人になっても生前自分がやってたことを繰り返してるんです。ご飯を食べてたりテレビを見てたり。それを繰り返してるけど何かがおかしいみたいな。段々海の生物みたいに藤壺がいっぱいついてきたりして変化していくのが凄く怖いんです。ビジュアルの怖さもあるんですけど、身近な人が段々変わっていくっていう様子が怖いんですね。
村上
ホラーって、「何が起きたか」は実はどうでもよくて、そんな理不尽なことが起きたときに人間はどうするのかっていう濃密なドラマを描くのが面白い。
ゾンビは分かりやすいよね。死人が動き出す理由なんか語られないし究明もされない。でも人たちは生き残るために様々なドラマを展開していくわけで。
そんな状況設定でいうと、スティーブン・キングの原作なんかが特に分かりやすい。最近映画化されたものだと「IT」とか。「ペットセメタリ―」「ミスト」「ミザリー」、極めつけは「シャイニング」とか。
「ミスト」なんて、設定だけ見たら「異次元の扉が開いて、霧と一緒にヤツらがやってきた」みたいなチープなものなんだけど。
吉田
でも、あのラストすごくないですか?もう「えーっ!!!!」って驚いちゃって、すっかりトラウマですよ。あんな最悪なラストは他に見たことないですもん。
村上
霧の中から何かがやってくるっていう設定は確かに怖いんだけど、でもあの映画ではそれはオマケでしかないんだよね。「扉を開けたら死ぬよ」っていう仕掛けに過ぎない。霧に閉ざされたスーパーマーケットの中に身をひそめる人たちの、まさに社会の縮図のような最悪な出来事がどんどん展開されていって、で、最後はあんなことになっちゃって(笑)。ネタバレになるから語らないけど。スティーブン・キングの原作はああいうのが多いね。やっぱり一番怖いのは人間だよねっていう。
吉田
確かにそうですね。
村上
で、話をゲームに戻そう。今は設定とかストーリーとか、ゲーム部分ではないところでの恐怖について話をしてたけど、やっぱりゲームの場合はコントローラーを握っている以上「鑑賞」ではなく「体験」という形で恐怖を感じさせてほしい。
吉田
Flashの脱出系ゲームとか。恐怖というよりはビックリ系ですけど。
村上
ビックリも一つの体験だね。で、映画だったらスクリーンを見てるわけだよね。そこに映し出されてる人と人の関係性を外から見て怖いと感じるメディア。でもゲームって自分が主人公となって物語の中に入るわけだから、自分自身が何かをされるっていう感覚がないとホラーにならない。
そこで思ったんだけど、「スーパーマリオ」って、カメが襲ってきて、触れられたら死んだり、キノコのお化けが迫ってきたり。異形のものが自分に迫ってきて殺しにかかってくる。
吉田
異形のもの(笑)
村上
でもこれってホラーじゃないのかな。て考えるとゲームでのホラーの定義って曖昧だよね。血が出たらホラーなんですか?っていう疑問もわいてくる。
吉田
それにホラーじゃなくても血は出ますもんね。
そういえば「ダックシーズン」っていうPC用のホラーゲームがあるんです。目の前にテレビが置いてあって、そのテレビの中で「ダックシーズン」っていうゲームをプレイしてるんです。ダックを撃っていって、途中で犬が出てきて応援してくれる、みたいな。
村上
ん?…それ、ホラーなのか?(笑)
吉田
で、それをずーっと繰り返していると、現実に戻ってきたときに部屋に異変が起きてるんです。
村上
え?なにそれ?(笑)
吉田
ゲーム画面の中のゲーム画面ではダックハントの様子が映し出されてるんですけど、それ自体は全く怖くないんです。たまに現実に戻るとお母さんが死んでたり、ゲーム中に登場する犬が写真の中に映り込んでたりとか、そういうことがどんどん起きていって、現実世界が侵食されていくんです。
村上
えぇー………こわー………。
吉田
一見ホラーゲームとは分からないんです。全く怖い雰囲気ないし。
村上
ホラーってもうアイデアが出尽くしたというか、どんなシチュエーションにしたら怖いと感じるかっていう大喜利みたいなもので、「ここでコレが出たら驚くよね」っていうアイデアって枯渇してきてると思うんだけど、あとはもういかに枠を越えるか、だね。「ダックシーズン」でいうと、モニターの外で何かが起こるとか。
試みとして面白いなと思ったもので、小島秀夫監督が作った「P.T」っていうゲームがあるんだけど。
吉田
あー、やりました!あれ凄く怖いですよね。私は脱出できなかったですけど(笑)
村上
結果的にあれは「プレイアブル・ティザー」、つまり遊ぶことのできる予告編っていう意味で、エンディングに行くとそれが明らかにされるんだけど、そもそも始める時は「P.T」という言葉が何を意味するのかも分からないし、誰が作ったゲームなのかも分からない。ストーリー設定はあるんだろうけど、そこで起きている状況も全部意味不明で…でもなんか謎のゲームでとてつもなく恐ろしいものが無料でダウンロードできると聞いてどんどんネットで拡散していったんだよね。存在自体が謎だらけでワケが分からないし。
吉田
プレイヤーによって展開も変わるし、攻略法も人によって違うし、全てが正体不明だから不気味でゲームの存在そのものがなんか怖いんですよね。
洗面所にいる謎の赤ちゃんがとにかく怖かったです。
村上
赤ちゃんよりも、洗面台周辺で動き回ってるゴキブリが物凄くリアルで、そっちに注目しちゃった。
吉田
でも、あのゲームは生きてるものが少なすぎて、ゴキブリにすら愛着がわくんですよね。他のものが全部怖すぎて。だって自分以外で生きてるものってゴキブリだけじゃないですか。
あれはぜひ製品化してほしかったんですけど、もう出ないんですよね…。大人の事情で…。
村上
吉田自身は今後どんなゲームを作りたい?
吉田
やっぱり卒業制作あたりでキャラデ初のホラーゲームを作ってみたいですね。
村上
見世物小屋で培った技術や知識をそのまま生かせると思うよ。
ではこれからも面白いゲームが作れるように頑張っていって下さい。
吉田
はい、ありがとうございました。