キャラクターデザインコース

ゼミ通ヒーローズvol.18 小林鈴果と「脱出ゲーム」について語るの巻 Part2

ゼミ通

 

ゼミ通ヒーローズ Vol.18

 

村上

じゃあ今度はゲームの中身の話をしていこう。

まずはこの脱出ゲームの制作時のワークフローというか、チーム編成について説明してくれる?

 

小林

はい、大きく「運営班」と「制作班」に分かれました。

私は制作班の方の進行役を務めさせていただいたんですけど、

その制作班の中にも謎や仕掛けを考える「ギミック班」と、

そこで考えられたものを印刷用のビジュアルに落とし込む「デザイン班」、

そして内装や衣装、小道具を準備する「小道具班」っていう三つの役職に分けました。

で、運営班の方は、ゼミリーダーの菊竹さんが主にゲーム全体の流れとか

開催日程や場所の調整をする仕事をやっていて、

そこに広告やTwitterの運営をする「広告班」と、

シナリオをまとめる「ストーリー班」に分かれてましたね。

 

村上

というチーム編成で作業の効率化を図ったわけだけど、

小林自身はどんな目標をもって進行管理をしてた?

 

小林

まずは自分の中には一番面白いものを作ろうっていう目標がありました。

 

村上

面白い、とは?

 

小林

面白いとは!?うーん、いざ言葉にするとなるとめっちゃ難しいですね。

 

村上

撤収後の振り返りの時にこの話をしたら良かったね。

自分たちは一体何を創ったのかって。

 

小林

私、物事を論理的に考えられないので、感覚的なものになるんですけど、

密室でしか味わえない空気感とかあるじゃないですか。

そうなるとやるしかないじゃないですか。

そこで生まれる謎の使命感を演出したかったですね。

 

村上

すごく単純な話をすると、脱出しないと全員ゲームオーバー。

てことは連帯責任であると。だから何が何でも脱出しなければならない。

取っ掛かりはそんなところなんだけど、アカの他人同士なのに徐々に仲が良くなっていくのはなぜだと思う?

ゲームをクリアするために集まっただけの人だから、仲良くなる必要はないはずなんだけど、

あれだけ皆で一緒に笑ったり悲鳴を上げたりして結束力が高まっていくっていうのはなぜなんだろう?

 

小林

そりゃもうやるしかないからじゃないですか?無人島に行ったとしたら、

自分が生き残るために周りの人を利用すると思うんですよ。つまり脱出ゲームとは無人島なんですよ。

うーん、理論的に説明するのが難しくて、こんな感覚的な話しかできないです…。

 

村上

でも実際に制作をしてるときは、ゼミ生たちから集めた感覚的なアイデアの断片を、

小林はホワイトボード上でフローチャートに変換して書き起こしていって、

5W1Hで体系的に情報を整理していったよね。その時は何を考えてた?

 

001

 

小林

ギミック班だけで14人もいたんですよ。

それをまとめるってなったらフローチャートが良いんじゃないかなって思ったんです。

時間と空間で情報を分けたら誰が見てもすぐに流れが理解できるじゃないですか。

言葉だけじゃ永遠に伝わらないと思ったので。

で、とにかくさっき言った「やるしかない」状況を作るための仕掛け作りを心掛けました。

 

村上

その「やるしかない」っていう心理について掘り下げてみようか。

これも授業の中で話したことだけど、例えば「お宝」があったとして、

これを獲得するために冒険に出る、というポジティブな状況があるとするよね。

何かが欲しいからそこへ向かうという能動的な形ね。

でも脱出ゲームってネガティブな状況からスタートするよね。

 

小林

ここから出ないと死ぬぜ、ってなりますね。

 

村上

そう。宝箱って、欲しいけど要らなければ行かなければいい。

でも脱出ゲームって逃げなきゃ死ぬ。これって強制なわけだよね。

後ろから何かが迫ってくるとか、締め切りに追い立てられるとか。

人って本来強制されることを嫌うはずなのに、なんで面白いのかな?

 

小林

ゲームだからじゃないですか(笑)

 

村上

それを言っちゃぁ…(笑)。つまりお宝を目指す場合は、取得できたら01になるわけだよね。

脱出ゲームはネガティブスタートだから-10になるだけ。

諦めたらゲームオーバーだし何も得しない。なのになぜ面白いのかってこと。

 

小林

結果が分かってるからじゃないですか?その結果に対する過程を楽しむのが脱出ゲームなんじゃないですかね。

お宝を求めるのは、それが結果なわけですけど、その過程に色んな事があるわけですよ。

蛇に噛まれたりジャングルで迷ったり。

ポジティブな目標であっても、そんな小さなネガティブサイクルの結果と過程の繰り返しが冒険の醍醐味だと思うんですよ。

だからネガティブなものがそもそも面白いって考えられるし、ゲームはそこを楽しめるかどうかじゃないですか?

 

村上

なるほどね。じゃあ、ちょっとゲームの中身の話をしてみようか。

謎や仕掛けを考える時の印象に残ったエピソードとかある?

 

小林

まず、そもそもどんなギミックを作っていくかとか、

何を使うかっていうのを、どこからどうやって決めていけばいいのかが分からなくて、

とりあえずこういうシチュエーションのときにこういうのがあったら楽しいよね、ていうのを漠然と決めていったんですよ。

そこが決まったら、デザイン班、ギミック班、小道具班とで分かれて、

謎解きの内容とビジュアル面っていうそれぞれの立場からアイデアを出し合っていきましたね。

で、二つの部屋を使うってなったときに、じゃあどうやって二つの部屋を使い分ければ盛り上がるかなって考えていて、

そこがゲームの軸であって同時に最大の見せ場になるように設定しました。

ストーリー班の人にもアイデアを出してもらって、

他の小さなギミックが軸を盛り上げるための伏線になるように考えて散りばめていきましたね。

仕掛け人っていうかゲームの進行役の人が分断されたらプレイヤーは焦るんじゃないか、とか。

下の階に降りた時に急に空気感が変わったらドキドキするよね、とか。

そういうところを決めていって、これに合わせてギミックの雰囲気も変えたら二段階でゲームを楽しめるんじゃないかって考えました。

 

村上

密室型の脱出ゲームで一番盛り上がるのって場面転換の瞬間だと思うのね。

小部屋だけでゲームを進行させるんだと思っていたら、途中でカーテンが開いてそこで新たな展開が発生したり、

壁だと思ってたところに隠し部屋が出現したり。

狭いと思ってたものが広がっていく感覚ってかなりインパクトあるよね。

 

小林

今回でいうと、サーバールームにプレイヤーが一人だけ閉じ込められて、

ガラス張りで防音の密室の中と外でモールス信号を頼りに謎を解かないといけないとか。

 

村上

確かに、空間の使い方はすごく良かったね。全く無駄なく使えるものは全部使うって感じで。

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小林

そうですね。この部屋だけで終わると思わせておきながら、

地下室に降りる真っ暗な螺旋階段が出現したら、それだけでテンション上がりますもんね。

しかも降りたその先には不気味な実験室と、台の上には死体が置いてあったり。

 

村上

作り込みも照明効果もちゃんと演出されていて、あれは素晴らしかったね。

普通ならこれがクライマックスだと思いきや、更にもう一段階。

しかもここからは恐怖演出の畳みかけになるし。

 

小林

そこから元の部屋に戻ってクライマックスを迎えるわけですけど、

その時ゲームの残り時間はだいたい2分くらいになるようにうまく誘導していきます。

本当に一秒たりとも休まる隙を与えない設計になっていて、

常に全部の謎解きがギリギリの状態で進行するから絶対に飽きないと思います。

 

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村上

企画の立ち上げ当初、学生たちの間でホラーストーリーをやりたいって言った時に、

「怖がらせたいのか謎解きをさせたいのかどっちなの?」て話したことがあったよね。

怖すぎるとストーリーの進行に集中してしまって謎解きの面白さが半減するんじゃないかと思って。

でもそこをうまくバランスをとってプレイヤーのテンションを制御してた点が素晴らしい。

 

小林

最初の部屋で謎解きをしてるときってあまりホラーテイストはないんですよ。

スタンダードな謎解きゲームになってるっていうか、

まずは謎を解きながらそこで起きていた出来事とか世界観を探っていくって感じで。

どちらかというと謎解きそのものに集中してる状態ですね。

で、地下に行った時って、ホラー風ではあるんですけど、

プレイヤーとしてはワクワク感の方が大きかったんだと思うんです。

「わ!新しいところ来た!」って。そこでテンションが上がり切った時に急にホラーテイストになっていくんですよ。

悪霊登場で恐怖感を盛り上げる演出があるわ、

YouTuberは置き去りにされるわで、畳みかけるような恐怖演出の展開があって。

 

村上

でもここで凄かったのは、ストーリーや演出が入る事によってゲームが分断されることなく

ちゃんと両立して進行していくってところ。

ここが今回のゲームの最大の見どころであり評価ポイントかなって思ってる。

 

小林

そう言っていただけると嬉しいもんですね。

 

村上

ものすごく盛沢山の内容になってたね。

最初にテストプレイしたときに、プレイヤーの人たちから「謎の数が多すぎる」っていうフィードバックがあって、

その時にみんなは「じゃあ問題数を減らそう」って話が出てたしね。で、そのときに俺が言ったの覚えてるかな。

「絶対に数を減らすな」って。学生が作るものにあまりああしろこうしろって言いたくないんだけど、

ゲームを作る時にこれって大事なポイントになるから、あえて言わせてもらった。

あの密度感が今回のゲームの面白さの根幹になるから、

そこは死守して、今度は難易度を下げたりヒントを出すタイミングを再設計してとにかくゲームのテンポ感を守りなさいと。

そこの考えなしに単純に謎の数を減らすと、密度が薄まってなんとなくダラダラ進む展開になってしまう。

これについては皆かなり頭抱えてたね。「無茶な事言いやがって」て思っただろうけど。

YouTuber役もヒントを出すタイミングとか必死で考えながら、

矢継ぎ早に起こる色んな出来事を制御しつつ進行しなきゃいけないもんだから相当大変だと思うけどね。

本人は問題が減ったら少し負担が減って集中しやすくなると考えてただろうけど、

でもそこは絶対に譲っちゃいけないところだから、絶対に変えさせなかった。

 

小林

でもそのお陰であれだけ密度の高い恐怖体験につながったわけだし、結果的には良かったと思います。

 

村上

小林も今後ゲームを作っていくときに、揺らいではダメっていう部分をまずしっかり作り込むところを持っておかないとね。

とりあえず動くゲームっぽいものを作るのは簡単だけど、

面白いものを作ろうとすると本当に心を鬼にしないとダメな時もあるから。

それで工数が圧迫してスケジュールが押すようなら装飾の部分を捨てればいい。そこは遊びの本質ではないし。

 

小林

でもテストプレイしないと分からないことがたくさんあったんで、

しんどかったですけど回数重ねて良かったなって思いました。

一週間の間に10回以上はテストをやってましたね。

 

村上

人の動きや感情を計算してレベルデザインをすることの重要性が理解できたし、

ゲーム作りの基本を身に付けられた意味ではすごく良かったと思うよ。

というわけで、まずは半期に及ぶ脱出ゲーム制作大変お疲れ様でした。

 

小林

はい、ありがとうございました。

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脱出ゲームを制作したゲームゼミ2年生

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