油画コース

時間が縫いとめられている工房 油画コース・版画制作現場を訪れて 【文芸表現 学科学生によるレポート】

違うジャンルを学んでいても、芸術大学でものづくりを楽しむ気持ちは同じ。このシリーズでは、美術工芸学科の授業に文芸表現学科の学生たちが潜入し、その魅力や「つくることのおもしろさ」に触れていきます。

 

文芸表現学科・2年生の出射優希です。
今回は美術工芸学科油画コースの学生が利用する、版画の工房に伺いました!
ものがみちみちの工房は、ずっとここにいたいと思うような落ち着く場所です。
ものの数だけ、工房で過ごした人たちの時間が縫いとめられているような、静かな存在感を感じていただければ嬉しいです。

 

 

●技術スタッフは、現役の銅版画作家

 

案内してくださったのは、技官(技術スタッフ)の吉浦眞琴さんです。

本学の卒業生でもあり、大学で技官として学生の制作をサポートしつつ、自身も銅版画をはじめとする作品の制作に取り組んでいます。

先日開かれた個展「しちひきでもはち」では、吉浦さんが版画というものに角度を変えながらも向き合い続けている様子を、作品を通して見せていただきました。

 

↑街中のギャラリーで。あえて額装しない展示だったため、版によって刻まれた凹凸まで楽しめる。

 

↑銅版画の他に、プラスチックの版の作品も。版を彫る際に、彫った部分の周囲が押しのけられ、盛り上がることで凸部分ができ、刷ると凸部分が紙に刻まれる。

 

 

●版画は、自分と作品の距離を保って制作できる

 

「線を引く仕事」が好きな人たちが集まるのだという版画。

吉浦さんも、元は日本画コースだったものの、版画を学ぶために油画に転コースしたそう。

日本画とは違い、自分と作品の距離を保ちながら制作できるところに惹かれたのだと語ります。

 

油画コースから、3年生で選択することで専門的に版画を学ぶことができるため、工房に出入りするみなさんには、新入生とは違った落ち着いた雰囲気が漂っていました。

 

そんな版画の工房に一歩足を踏み入れると、ありとあらゆるものが肩を寄せ合う様子に胸が躍ります。

 

↑インクをのせるためのローラー。棚は先生の自作なのだとか。

 

●「プレス機」「銅版」を見せてもらう

 

工房内でひときわ存在感を放っているのはプレス機。

版を刷る工程で使われるプレス機は、一番大きなもので幅が1mあり、大きな作品を作るためには欠かせないもの。

院生のチン・オクセイさんが実際に刷っている場面に運よく遭遇しました!

慎重で正確な動きに、見ているだけの私まで息を止めてしまいます。

 

↑作業台とフェルトの間に版と用紙を挟み、ハンドルを回す。これで1t程の圧がかかる。

↑拡大してみると線の細かさに驚く吉浦さんの銅版。

↑こちらも吉浦さんの作品。木版画とはまた異なる線の佇まいが、銅版画ならではの作品を作る。

 

●工程のひとつずつに託して、作品ができていく

 

常に緊張感はあるものの、細かい作業だけではなく、工程によってやることが異なることで気分を変えられるのは、版画制作の魅力ですね。

 

3年生では、ひとつの版から全く同じ出来の作品を部数を決めて何枚も刷る練習を行うのだそうです。

刷り上がりが違っても気に入った作品が生まれた場合は、作品の端に「AP」(アーティストプルーフ)と記し、作家自身が保存するために置いておきます。

工房にも卒業生の残していったAPが数多くありました。

作品の出来を成り行きに任せるのではなく、コントロールできるようにするというのが、プロ意識への第一歩なのかもしれません。

 

●腐蝕液・醤油・「少年ジャンプ」・古新聞……

 

版画の工房には、版画にしか使われない道具が多く、まとめて工房で管理。銅版画の際に使われる腐食液は専用の小部屋に置かれています。

 

↑最初に版全面に防腐用の薬剤を塗る。削った箇所にだけ腐食液が触れることで版になる。台の下にはマイ醤油が置かれており、中和させることで腐食を止める。醤油のチョイスにもこだわりが光っていた。

 

工房には、他にも楽しげなものがたくさんあります。

 

↑大量に積まれた「週刊少年ジャンプ」は、版に詰めたインクを拭うのに使う。「ジャンプ」の紙質が丁度よく、紙は場面によって使い分けるそう。

↑学外から引き取った版の間に挟まれていた昭和28年の新聞。お宝がしれっと紛れ込んでいる。

●芸大の勉強は、「生き方」も形作るのかもしれない

 

工房巡りも終わりにさしかかり、お話をしているなかで「学生の頃、早く結果を残さなければと焦っていた時期があった」と吉浦さん。

その頃版画の恩師から、「手間を惜しまないことが大切」「お米や果物のようにゆっくり実になっていく」「だから毎日やり続けるしかない」と、学んだそう。

 

これを聞いて、芸大で芸術を学ぶ理由は、生き方を手に入れることにあるのかもしれないな、と考えたり……。

自分の持っている畑を、どれだけ愛情を持って世話をし続け向き合えるか。

4年間きっと何度も問われ続けることで蓄積されていく考えが、自分の生き方そのものを形作っていく。

現在進行形で言葉について学んでいる私にも、そんな感覚があるのです。

 

卒業生の残していった作品も、床に飛んだインクのあとも、この工房で学んだ人たちが過ごした時間の痕跡が、在学生の版画制作を励まし続けていくのかもしれません。

 

取材記事の執筆者

文芸表現学科2年生

出射優希(いでい・ゆうき)

兵庫県立西宮北高校出身

 

1年生のとき、友人たちと共に、詩を立体的に触れることができる制作物にして展示した展覧会「ぼくのからだの中にはまだあのころの川が流れている」を開いた(バックス画材にて)。

自分のいる場所の外にいる人とつながるものづくりに、興味がある。また、「生きること」と直結したものとして「食べること」を捉え、それを言葉で表現している。

 

 

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