油画コース

紙さえも「作品」として扱う奥の深さ 版画工房の先生と卒業生たちが活躍中! 【文芸表現 学科学生によるレポート】

違うジャンルを学んでいても、芸術大学でものづくりを楽しむ気持ちは同じ。このシリーズでは、美術工芸学科の授業に文芸表現学科の学生たちが潜入し、その魅力や「つくることのおもしろさ」に触れていきます。

 

文芸表現学科・2年生の出射優希です。
滋賀県立美術館につづき、再び大学の外で行われていた展覧会を観に行ってきました!
一度見ただけでは感じきれないほど「密」な展示に、終始心臓がばくばくしていました。すでに会期は終了していますが、ギャラリーを満たしていた濃い空気を、少しでもお届けできればと思います。

 

 

●異なる世代の作品群から浮かび上がる版画史

 

秋の風を感じるなか、ギャラリー恵風で行われていた「中林忠良–版画の系譜と展開–」へ。

中林忠良さんは日本を代表する銅版画家であり、2019年まで京都芸術大学で客員教授として版画の指導に尽力されていました。

本学での指導を終えられた節目として開催されたのが、今回の展覧会。

 

中林さんの作品を中心に、かつて中林さんの指導を受けた美術工芸学科の清水博文先生や森本玄先生、さらに、前回取材させていただいた技官の吉浦眞琴さんを含む、その下世代にあたる若手の版画作家の作品が集められました。

 

中林さんの師である駒井哲郎さんや長谷川潔さんの作品も、中林さんのコレクションから陳列されるなど、複数の世代の作品から、京都で展開されてきた版画史が浮かび上がります。

 

●作品を、自分の目で体験するということ

 

一度にこんなにたくさん見る機会はもうないかも……? と思うほど豪華なのです。少し緊張しつつ、まずはギャラリーの1階に。

 

1階では主に若手作家の皆さんの作品が並びます。

一口に版画と言っても、どの作品もアプローチの仕方が違い、線を彫る行為で表現することの幅広さを感じる作品群でした。

 

 

丁度一人で訪れていた高校生が、版画についての話を熱心に聞く姿が。

生の作品を自分の目で観て、感じて、例え版画を専攻せずとも、体験することや可能性を知ることそのものが大切だなぁと思います。

 

●圧倒的な黒の中で、色のある版画は窓みたいに

 

一度では見切れないぞ……と、一階の作品を一周したところで2階に。2階には、中林先生を中心とした作品が並んでいました。

 

↑左側五作は森本先生の作品、次に長谷川潔さん、中林忠良さん

 

↑左から中林忠良さん、駒井哲郎さん、清水先生

●黒が紙を光に変え、光が黒を深めてゆく

 

清水先生の作品はオリジナルの技法が用いられているのだそうです。

在廊されていた吉浦さんにお話を聞いたところ、他の大学とは違い、本学では清水先生が一人で版表現を指導されているため、木版画や銅版画などの垣根があまりないのだとか。

それによって、木版の技法を銅版に持ち込んだりとアイデアが生まれ、新しい技法に繋がっていくのだそうです。

この技法、以前オープンキャンパスの体験授業でワークショップになっていましたね。

とっても贅沢。在学生の私も体験したいくらいです。

 

オープンキャンパスワークショップ・関連記事はこちら

 

↑額装されてない作品、額の中に作品との間に敷くマットが入っていない作品、それぞれに意味がある

 

写真では伝えきれませんが、一歩足を踏み入れるとこんなふうに、作品に囲まれるのです。

黒の存在が、インクの乗っていない紙の部分を光に変え、そして光が黒をさらに深めます。

作品の一部には、中林さんが手漉き和紙業者の方と共同で開発された紙が使われているのだそうです。

 

——「紙の存在感ていうのは、紙の縁を見せないと見えてこない。マットで周囲を抑えてしまうと、絵しか見えてなくて紙が見えないんだ。だから、ぼくの作品は、紙の縁まで全部が作品になるように作ってそれを見せる。」
茅野市美術館(2019)『中林忠良展 銅版画——腐食と光』茅野市美術館発行、p109より

 

作品を成り立たせるのに欠かせない支持体を、ただの道具ではなく、それさえも作品として扱っておられるからこそ、インクの黒と紙の白がしっかりと結ばれているのかもしれません。

 

●道具は、作品と自分の間にいる他者のようで

 

前回の工房見学や、今回の展覧会で吉浦さんのお話を聞く中で、版表現をされる方は道具との関わり方が本当に誠実だなと思うのです。

 

工房で綺麗に整頓された数多くの道具たちを見ても感じますが、道具を自分の体の一部にするというよりも、作品と自分の間にいる他者として、真摯に接しておられるような印象を受けます。

 

「つくる」ための大切なことを学んだ展覧会でした。

 

ものすごい密度の空間から一歩外に出ると、街路樹の枝先にもただの信号機にも、不意に気持ちが入り込んでしまうような気がしますね。

自分と他者の間に距離を置かなければいけない今、自分ではないものを想う時間の尊さに、気がつけるよう過ごしたいものです。

 

 

取材記事の執筆者

文芸表現学科2年生

出射優希(いでい・ゆうき)

兵庫県立西宮北高校出身

 

1年生のとき、友人たちと共に、詩を立体的に触れることができる制作物にして展示した展覧会「ぼくのからだの中にはまだあのころの川が流れている」を開いた(バックス画材にて)。

自分のいる場所の外にいる人とつながるものづくりに、興味がある。また、「生きること」と直結したものとして「食べること」を捉え、それを言葉で表現している。

 

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