- 2022年3月11日
- 日常風景
ゼミ通ヒーローズvol.45「奥田菜陽と菊竹茉由と卒制作品『i』について語るの巻」 Part2
※「ゼミ通ヒーローズ」とは、京都芸術大学キャラクターデザイン学科ゲームゼミの学生の研究や取り組みについてピックアップし、担当教員村上との対談形式で綴る少々マニアックなブログ記事となっています。
ゼミ通ヒーローズV ol.45
「奥田菜陽と菊竹茉由と卒制作品『 i 』について語るの巻」Part 1 の 続き
村上
じゃ今度は、今回の主役でもある音楽の制作プロセスについて聞こうかな。
奥田菜陽(以下、奥田)
リズムゲームを作る以上、音楽はフリー素材を拾うんじゃなくて、ちゃんと仕様に合わせた形でプロに頼まないとね、って話になってましたね。音楽を依頼したのは「ムシぴ」さんという、私が昔からすごく好きなアーティストさんでした。幻想的で可愛いのにどこか不穏な影がある作風で、企画書を送ってみたら快諾していただけました。
「ムシぴ」さん
Twitterリンク https://twitter.com/muship_64
菊竹茉由(以下、菊竹)
中間合評前だったから、発注したのは7月くらいかな。
奥田
キャラクターの感情によって三段階くらい曲調を変えたいのと、アリスの世界観をベースにクリエーターさんの持ち味を最大限生かしていただければとお願いしたら、9月頭くらいに最初のデモが届いて、ゲームに実装していきました。
でも先生にチェックしてもらったら、ゲームとしての楽曲として結構ダメ出しがあったので、修正を含めて10月頭に完成しましたね。
村上
最初のバージョンを聞かせてもらったときに、プレイ時間とかテンションの持続とかゲームデザインとしての起伏の演出とか、クライマックスの盛り上がりをもっと強調した方が良いとか、色々言ったような気がする。
最終的には、聞いてるだけでも楽しくてゲームのテンションにもマッチした良い曲に仕上がったと思う。耳に残るキャッチーなフレーズがあり、ちゃんとゲーム用の音楽として成立してたところが素晴らしい。キャラクターとプレイヤーのテンションも合致してる。
奥田
来場者の方からも音楽を褒められましたね。
村上
ゲームに合わせて曲を作ったのか、曲に合わせてゲームを作ったのかが分からないくらい綺麗にハマってたね。
奥田
発注するとき、アリスという共通認識があるから話がスムーズだったのと、結構ムシぴさんの方からも、ここでこういうメロディを入れた方が譜面が拾いやすいとか面白く組めるんじゃないか、とかゲームデザインも考えた上で音を提案してくれたので、一緒に仕事をしていて凄く楽しかったですね。
菊竹
発注した通りに作業をするんじゃなくて、本当に共同制作という形で刺激し合った感じになりました。
村上
企画とプログラミングと音楽の話が出たので、次はビジュアルの話を聞こうかな。
菊竹は元々絵もうまいのに、今回は絵を描かずに完全に企画とプログラミングに徹してたの?
菊竹
そうですね。奥田さんからもらった絵の素材を使ってキャラクターのアニメーションをつけたり背景を動かしたりしましたね。絵は描かずに演出を担当した形になります。
今回は自分で描くより、奥田さんの絵をもっと良く見せたいっていう感じでやってました。
村上
確かに、両方やってしまうとどちらかが中途半端になるって話が出てたよね。ゲームデザインをしてジャイロセンサーの研究もしなければいけないから、そこをちゃんとしようと思ったら絵は完全に離れないといけないよね。
菊竹
3年生のときにゲームを一人で一本作ってみて、その時にどうしても自分的に物足りないなって思ってたので、今回はゲームを作る方に専念しようと思ってました。
村上
二人が描く絵の方向性って、強調された線画とか、デフォルメの頭身バランスとか、ビビットな色使いなんかが似てるなと思ってたので、だから二人でチームを組んだのかなって思ったんだけど、どうよ。
奥田
確かに好きなデフォルメのタッチとか色遣いとか不穏な空気とかは似てますね。今回はありがたく私の絵を全面的に使ってくれて、菊竹さんには頭が上がりませんね(笑)。
私の絵の特徴として、強い色彩というか、毒々しい感じがあるので、その色を活かせる世界が良いなと思って、私の方からアリスの世界を創りたいって提案したんですよ。
そもそも「不思議の国のアリス」ってものすごく有名な作品じゃないですか。さっきの音楽の話でも出ましたけど、誰もがアリスに対する共通認識を持ってますよね。水色のワンピースにバニーのリボンつけて、みたいな。まずは「あ、アリスだ」って言ってもらえる状態にしておきながらも私のデザインとして落とし込まれてるように心掛けました。
村上
ウサギがいたりトランプがあったり、確かに見ただけで誰でもすぐに認識できるよね。
奥田
それに加えて、シルエットにも拘りました。アリスの髪型が、4本の触角が生えてるみたいになってるんですけど、これがめっちゃ気持ち悪くていいなって思ってます。
村上
かわいい、じゃなくて?
奥田
いや、キモいですね(笑)。何パターンか描いたところ、菊竹さんもあれが一番良いって言ってくれて。ゲームの主役だし、シルエットだけで伝わるようにしておきたいと思って。
敵キャラのシルエットも、ステージを進むごとに芋虫からどんどん敵が大きくなっていく感じを演出できればと思ってデザインしました。
村上
UNITYでのアメーションも想定してデータを作成した?
奥田
後から菊竹さんが自由に動かしやすいように身体のパーツを細かくレイヤーで分けておきました。結局アリスの髪型を触角っぽくしたのも、リボンを大きくしたのも、動かしたときのイメージを想定して、揺れた動きの面白さを表現しようと思ってました。
村上
キャラクターだけじゃなくて、良く見ると背景でも色んな所が細かく動いてて、世界が生き生きして見えるよね。特に世界が切り替わる瞬間の演出とか。
奥田
あれはアリスの感情によって切り替わる演出ですね。ボスキャラごとと、感情ごとに色が変わっていきます。
村上
飛び出す絵本みたいな感じで、書き割りの背景が動きながら変形していくのが、躍動感とスピード感もあって単純に見てて楽しかった。単に表示を切り替えるだけじゃなくて、手間をかけて一つ一つのパーツが変形していくところが、個人的には『トランスフォーマー』っぽくて好きだったな。こういう演出のひと手間って凄く大事だよね。
菊竹
この演出については奥田さんと一緒に色々資料を集めて、面白そうな動きを作っていきました。
奥田
個人的に気に入ってるのはエンディングですね。アリスがどの感情でエンディングを迎えるかによってスチルが変化するんです。このゲームってチュートリアルを除くとエンディングの一言くらいしか言葉が出てこないシンプルな構成なんですけど、なんか意味を含ませた絵が最後に登場することによって、よりその絵に引き込まれるようになってます。
村上
実際のところ、リズムゲームの宿命として、プレイヤーはノーツの動きを目で追うだけで精一杯だから多分誰も背景には注目しないよね。ところが展示会場でもゲーセンでもリズムゲームがあるとギャラリーが集まりやすいから、プレイヤーはノーツに注目して、ギャラリーたちは背景を含めて画面全体を見るという点で、注目する部分が違うのは面白いね。
菊竹
そうですね。見てるところはもう全然違います。プレイする側はコンボを繋げることで必至だからノーツ以外はまず見ないです。ギャラリーは演出全体を楽しんでくれて、「次、遊びたい」って思ってくれるっていう。遊ぶ側と見る側での視点の違いを表現できて良かったなって思いますね。
奥田
来場者はだいたい友達とか身内と一緒に来て交代で遊ぶので、両方の視点で楽しめるようになってますね。手を振って遊ぶゲームを企画してた時点で大きなスペースが必要だよねって話になって、そのサイズ感もあるし、そこで手を振って遊んでる人の姿も面白いから目を引く形になったかなって思います。
菊竹
とにかくデカい展示にしたいって気持ちが強かったですね。パーテーションも6枚使ったし。奥田さんの絵がキャッチーっていうか、遠目に見てもインパクトが強いし、動きも大きいし、何でもかんでも主張の強い作品にはなったけど、それがまた良い味を出したんじゃないですかね。
村上
初期段階のバージョンだと、ノーツが背景に馴染んでしまってて、何をすればいいか分からないゲームになってたね。
奥田
初期段階の出来は酷かったですねー(笑)。かなり修正を加えて、何とかしましたけど。
村上
ゲーム業界では、画面に表示されるものは3DCGだろうがイラストレーションだろうが全部グラフィックっていう呼び方をするように、ゲームってグラフィックデザインの集合体だから、キャラクターも背景画も文字情報も全て遊びという機能を表現するためのUIデザインであって、だからこそノーツの表現は浮かせるようにデザインして視認性を高める必要があった。最終的にはそこのバランスを保てたから良かったと思うよ。
奥田
うーん、そうなんですかね。
村上
だって、プレイしてて混乱する人っていなかったでしょ?説明をしなくても遊べている時点でゲームとしては成功。ゲームの評価ポイントって、「これどうしたら良いんですか?」って質問が出ないこと、とも言えるんじゃないかな。遊び方が分からないっていうのは作品としても商品としても問題だと思う。
菊竹
でも、ノーツを叩くときにJoy-ConのAボタンを押すのだと勘違いする人がたまにいて、「あれ、反応しないじゃん」って指摘されたことがありました。でも振って遊ぶことを伝えたら「え、すごい!」って驚いてくれました。
村上
ていうかチュートリアルでわざわざアニメーションつきで分かりやすく説明してるんだけどね…見てくれてないん…だね…。
奥田
それもあると思いますけど「リズムゲームだしボタン押すだけでしょ」っていう先入観もあって、説明を見ずに既存のリズムゲームと同じように遊んでしまったんじゃないですかね。
村上
ボタン押すだけだったらわざわざJoy-Conを実装しようなんて面倒臭いことするわけないのに…なんて一般の来場者には分からないか…。
菊竹
卒展期間の後半になると、説明しなくてもわかってくれて、私もその遊んでる姿を見て楽しむみたいな感じになってました。
Part3に続く