- 2022年3月10日
- 日常風景
ゼミ通ヒーローズvol.45「奥田菜陽と菊竹茉由と卒制作品『i』について語るの巻」 Part1
※「ゼミ通ヒーローズ」とは、京都芸術大学キャラクターデザイン学科ゲームゼミの学生の研究や取り組みについてピックアップし、担当教員村上との対談形式で綴る少々マニアックなブログ記事となっています。
村上
今年度卒業研究で奨励賞を受賞した作品『i』を制作した、菊竹茉由さんと奥田菜陽さんから、制作の舞台裏を聞かせていただきたいと思います。
菊竹茉由(以下、菊竹)
ゲームゼミのリーダー兼ゲームプランナーの菊竹茉由です。宜しくお願いします。
奥田菜陽(以下、奥田)
ゲームゼミの代議員という役職で卒展のとりまとめなどを担当してました、デザイナーの奥田菜陽です。
村上
ではどんなゲームなのか説明してくれるかな?
菊竹
この作品は、「あなたの選択がこの世界を作り上げる」をテーマにしたリズムゲームとなっています。「不思議の国のアリス」をモチーフにした新感覚エモーショナル・リズムゲーム(笑)と呼んでいて、既存のリズムゲームとの違いとしては、自分の操作によって譜面と難易度がどんどん変わったり、これに伴ってビジュアルも変化していくので、これまでの能動的なリズムゲームとは違って、自分から進んでゲームに入り込んでいくような感覚が得られるゲームになっています。
もう一つの特徴としては、腕を振って遊ぶというところです。Nintendo SwitchのJoy-Conを二つ使って、ジャイロセンサーと加速度センターを介して指揮者のように直感的な操作ができる仕組みを作りました。
村上
二人の役割分担は?
菊竹
企画自体は二人でやって、プログラミングとアニメーションとレベルデザインは私が担当しました。
奥田
キャラクターや背景、UI等のデザイン全般は私がやってます。
村上
Joy-Conを使う案は企画当初から出てたの?
菊竹
通常のコントローラーではなくて、体を動かしたいねって話から、Joy-Conが良いのでは、という流れになったんですけど、最初はUNITYでJoy-Conを認識させる方法が分からなかったので、色々実験しながら実装していきました。
ゲーム中で認識される動きとしては、Joy-Conを縦に振った動きと横に振った動きを検知して、そこにZRボタン入力を併用することで強弱をつけるというものです。
村上
技術検証はスムーズに進んだ?
菊竹
いえ全く(笑)。ボタン入力自体の取得は簡単に出来たんですけど、ジャイロセンサーと加速度センサーの反映がややこしくて、元々想定してた動きを実装するのに膨大な時間を費やしましたね。
奥田
元々は、縦振りでも小さく振るのと大きく振るので処理が変わって、縦の大小と横の大小の四つの動作を使って遊べるように企画してたんですよ。そのときの距離と速さの検出が難航したので、結局ZR併用での処理に切り替えました。
村上
ゲームデザインとしてパッと見た印象だと、ノーツが流れてきてタイミング良くボタンを押すことで得点になる形になっているよね。これだけだと従来のリズムゲームと同じなんだけども、Joy-Conを振る向きまでを実装したかった意図は?
奥田
従来のリズムゲームだとアクションが決められてるのが常だと思うんですよね。ボタンを押すだけっていう。2~3種類のノーツの処理方法があったとしても、結局は言われた通りにするだけです。でもこのゲームの場合は、遊び方が決まってなくて、どの結果に進むのかもある程度プレイヤーに委ねてしまうのが新しいところかなと思います。
村上
振り方によってアリスの表情や感情が変わっていって、エンディングにも違いが出てくるわけね。何をしたらどの感情になる?
奥田
普通の縦振りだと「幸せ」で、ZR入力を併用した縦振りだと「怒り」、普通の横降りだと「悲しみ」で、ZR入力の横降りだと「狂気」ですね。
村上
動きのイメージも実際の感情にリンクしてて面白いね。怒るときは子供が駄々をこねるみたいに大きく手を上下に動かす感じとか。
奥田
そうですね。普段手を縦に振ることはあっても、横に大きく動かすことってないじゃないですか。連続で飛んでくるノーツに対して横に手を振り続けるって、今までのリズムゲームで見たことがないので、そこは狂気を感じる動作として演出してますね。
村上
実際に遊んでみたときに、横ってかなり振りにくくて、ちゃんと意識しないとなかなか身体がそのように動かないっていうか、体力も使うし、普通にしてたら大体縦振りになってしまうよね。
奥田
でもゲームゼミに一人だけ横振りしかしない人がおりまして(笑)、なぜか「横にしか振れない」って言ってましたね。「私は狂気願望なんだ」って(笑)。
菊竹
みたいな感じで人によっても遊び方が変わってくるし、自由な振り方とゲーム内キャラクターとのシンクロ感がうまく表現できたと思います。
村上
実際に展示をしてみて、来場者の反応はどんな感じだった?見たところ、常に途切れることなく遊んでもらえてる印象だったけど。
奥田
毎回振り方を変えようとする人がいたり一辺倒の人がいたりで、プレイスタイルが人それぞれっていう感じでしたね。元々指揮者のUXを目指したところもあったんですけど、本当に指揮者みたいに振る人もいて、見てて楽しかったです。
菊竹
テンションが上がってくると縦に振ってるのか横に振ってるのか分からない状態になってきて、それに伴ってアリスも滅茶苦茶に変化していくような場面もありましたね。
普段リズムゲームで遊ばない人からすると、大きな動きが目新しくて、エクササイズみたいだったっていう声も多かったです。
村上
リズムゲームが好きな学生って結構多いし、その上あまりマニアックな印象がなくて「音に合わせてボタンを押すだけ」っていう単純なイメージを持ってるから、取っつきやすいよね。それに短時間で終わる安心感もあって、とりあえず一回遊んでみようって気になる。
しかもゲームゼミの展示会場に入って正面の一番奥にこの大きな展示物があって、見た目にもキャッチーだしボスキャラ感もあってインパクト絶大だし、結果多くの人に遊んでもらえたんだと思う。
村上
当初の予定になかった裏モードまで用意されてて、かなり来場者を驚かせてたね。
菊竹
本編モードをフルコンボでクリアしたときに、そのご褒美として出現する隠しステージですね。「これだけじゃ物足りないあなたに」って感じで、隠しコマンドを入力することで高難度のステージに挑戦することができるようになっています。
村上
ものすごく難しいステージになってたね。ちなみにこのステージはいつ実装したの?
菊竹
卒展の展示期間中ですね(笑)。当初の予定にはなかった仕様なので。
奥田
展示が始まってから、菊竹さんが「ちょっと作ってみた」って(笑)。
村上
実際にゲーム会社で働いてるとそういうのは結構あるよ。仕様書にはないけどプログラマーが気を利かせて「急に面白いネタ思いついたんで実装しちゃいました」とか。仕様のミスなのに動かしてみたら物凄く面白くて、そのまま裏技として実装したり。
菊竹
まあ、そんなノリですね。企画当初は難易度選択とか入れようかなと思ってたんですよ。それよりも、隠してあった方が驚きもあってワクワクできるかなと思って。
村上
例えばNORMALモードとHARDモードみたいな感じで2つの難易度別のステージを選べると、逆に物足りないって感じるんだと思う。「2つしか選べないの?」って。
ゲームの授業でいつも言ってるように、キーワードは「3」で、3種類の中から選ぶというのが能動性を掻き立てる。EASY、NORMAL、HARDみたいな感じで。
でも今回の場合は元々1つしかないように見せかけておいて、ある条件を満たしたらご褒美でもう1ステージ出現するのはかなりお得感があって嬉しいと思う。ていうかそれ以前に「学生作品なのにここまでやるの?」っていうメタ的な驚きにもなるしね。
菊竹
ステージの見た目にもかなり変化があるし、インパクトはあったと思いますね。
最終合評のときに本編を仕上げるだけで大変だったんですけど、実際に展示をしてみて、お客さんの反応を見ながら「もっと喜ばせてあげたい」って思って急に思い立ちました。
奥田
二人で話し合って色々アップデートしていきましたね。
卒展会場で来場者が少ない時間があると、結構ゲームゼミの学生がずっと遊んでくれてて、その様子を見たらまたテンション上がって欲が出てきて(笑)。
村上
そういうエンターティナーとしてのサービス精神を習得してくれたのは嬉しいな(笑)。
じゃ今度は、今回の主役でもある音楽の制作プロセスについて聞こうかな。
Part2に続く