キャラクターデザインコース

ゼミ通ヒーローズvol.44「新保美月と藤原莉子と脱出ゲーム『おかえりなさいませ、ご主人様!』について語るの巻

 

 

※「ゼミ通ヒーローズ」とは、京都芸術大学キャラクターデザイン学科ゲームゼミの学生の研究や取り組みについてピックアップし、担当教員村上との対談形式で綴る少々マニアックなブログ記事となっています。

 

村上

ゲームゼミ2年生後期の制作物となっている「脱出ゲーム」は、今年度は「おかえりなさいませ、ご主人様!」という、凡そ脱出ゲームとは思えないようなヘンなタイトルがついており、またそのゆるいタイトルとは裏腹にかなり骨太難度のゲームに仕上がっていました。

今回は二人のキャスト(ゲームの誘導役)の目線からみたゲームデザインについて語ってもらおうと思います。

ではまず二人の自己紹介をお願いします。

 

新保美月(以下新保)

新保美月です。今回の脱出ゲーム制作プロジェクトは、ギミック班とストーリー班と運営班の3セクションに分かれて作業していて、私はその中でギミック班として、同時にメイド役のキャストを担当していました。

 

新保美月さん

 

藤原莉子(以下藤原)

ゲームゼミ副リーダーの藤原莉子です。私は制作チームの全体の取り締まりを担当しました。

 

村上

…取り締まり?

 

藤原

あ、取りまとめですね。ある意味取り締まりでしたけど(笑)。ギミックの作り込みとか、小道具類の調達だったり感染症対策だったり、プロジェクト全体を見渡して、足りないところを補う形で全般的に担当していました。

 

藤原莉子さん

 

村上

そもそも脱出ゲームとは?

 

新保

単純に言ってしまうと、部屋に閉じ込められて、謎を解いて時間内に脱出するゲームですね。

 

藤原

今回はルーム型といって、密室に閉じ込められた状態で行うスタンダードなタイプの脱出ゲームになります。

例年先輩方が作られてきた脱出ゲームもほとんどルーム型で、割とホラーテイストのものが多かったんですけど、今年は「メイドカフェ」をモチーフに、楽しくて笑いもあるような明るい感じのゲームにしました。

メイドカフェに遊びに行ったら、60分後に厄介オタク集団が攻め込んでくるっていう設定で、それまでの間メイドさんときゃふきゃふしたりおしゃべりしたり。

 

新保

全体の流れとしては、まずメイドカフェに遊びに行って、仲間のうちの一人がVIPルームに籠ってしまいます。その後で厄介オタクの集団が押し寄せるという厄介オタク警報が鳴り響くんですけど、何の目的で襲い掛かってくるのかはまだその段階では分からなくて、でも60分後に攻め込まれて何か大変なことが起こることだけは分かっているので脱出をしなきゃいけないんです。でも外に出るには仲間が全員揃って会員証を提示しないと扉が開かない仕様になっていて、でも仲間の一人がVIPルームに籠ってしまったので、まずはこの人を連れ出すためにVIPルームの鍵を開けなければなりません。VIPルームに入ると、ちょっとここで大きなどんでん返しがありまして、ストーリーがとんでもない方向へと進んでいって、さあどうする的なゲーム内容になっています。

 

村上

それだけ聞くとサスペンスものっぽく聞こえるけど、常にきゃっきゃうふふ状態だから、全体的にゆるい感じで、クライマックスで事の真相が分かってきてから緊迫感が盛り上がる、みたいな感じね。

じゃあ、ゲームとしての最大のみどころは?

 

藤原

萌え萌えキュン!」とか普段言えないようなことを大きな声で叫ぶ場面があったり、メイドカフェの疑似体験があって、メイドとの交流を通して感情移入していくところですね。

 

村上

脱出せざるを得ない状況作りとしては、殺人鬼が襲ってくるとか怪奇現象が起きるとか、ホラーテイストのものだと作りやすいよね。逃げなきゃ死ぬわけだから脱出の必然性があるし。それに対して、今回はメイドカフェという一見ゲームになりにくい要素をモチーフにしたわけで、これをゲームデザインに落とし込む上での工夫は?

 

新保

メイドカフェの案が出たとき、最初のうちは「メイド」と「冥土」を掛けたようなホラーテイストの案も出てましたね。実際にメイドさんと何をしたら面白いかと考えて、結局きゃふきゃふできたら楽しいよねってなって。

VIPルームの扉を開けるときに、それまでの謎解きから導き出された「萌えキュンドリーム」っていう合言葉を言うことで鍵が開くんですけど、一回目は開かないんです。それでキャストが「ご主人様たちの萌えキュンパワーが足りないみたいです!」って助言して、その後で別のギミックを解くと、猫耳のカチューシャが入った箱が開いて、そのカチューシャを付けた状態で改めて皆で「萌えキュンドリーム!」って叫ぶと扉が開くんです。そんなメイドカフェっぽいバカバカしい面白さが全編に漂ってるので、最初はこの雰囲気に抵抗を感じてたお客さんも段々慣れて楽しくなってきて、いつの間にか夢中になっていきました。

 

藤原

普段は言わないようなきゃふきゃふ状態で話すことで非日常を楽しめるので、そこも面白いと感じられたポイントなのかなと思います。

 

新保

男性のお客さんなんかは最初かなり戸惑ってました。でも一旦殻を脱いできゃふきゃふしながら大声を出すと他のプレイヤーたちからも賞賛の声が上がるので、勝手に盛り上がりますね。

 

村上

今回二人はキャストとして、メイドの衣装を着てプレイヤーを誘導してくれたけど、そんなキャストの目線だからこそ語れる今回のゲームの魅力は?

 

藤原

題材が題材だけに恥ずかしがるお客さんがいたり、チームによっては最初からノリノリだったり、中には終始語尾に「ござる」をつけて入り込む人もいたり(笑)。

 

村上

ゲーム開始時に「そういう世界観だよ」って提示してるから、プレイヤー同士での一体感も生まれてくるんだろうね。

 

脱出ゲームのプレイ中の様子

 

村上

あと、脱出ゲームのキャストの重要な役割として、状況に応じてゲームのヒントを出しながらリアルタイムで難易度調整をしていくっていうのがあるよね。

 

新保

そこは難しかったですね。ギミック一つ一つの難易度が高くて、一つの謎解きに集中しだすと時間がなくなるので、「ご主人様、分散して解いてください!」と促したり、「ご主人様はこの謎から解いてみてはいかがですか?」って個別に誘導したりしましたね。

 

村上

このプレイヤーはこの手の問題が得意そうだ、って見抜きながら個別に対応するの?

 

新保

導入の解説のときに全体の様子を見て「この人にこの謎を解いてもらおう」って何となく決めておくんです。そうやってゲーム進行をイメージしながら誘導していきました。

 

村上

キャストは部屋の中で実際のプレイヤーの動きを見て、同時に別室では状況を把握しながらオペレーションをしてるスタッフも大勢いて、常にLINEを使って情報共有をしながら互いに指示を出し合ってたよね。それはメイドから発信するの?それとも外からの指示に従う形?

 

藤原

基本的にはこちらから状況を共有して、それをもとに外から指示が飛んでくる感じですね。ギミックごとにゲーム全体での到達目標の時間と、それぞれにかかる謎解き単体の想定プレイ時間が設定されてるので、プレイヤーにバレないように「そろそろ次のヒント出して」とチームリーダーの方から指令が入ります。全体的に押して来たら手厚くヒントを出したり、全員で状況をみながら進めていきました。

 

激しい指示が飛び交うLINEの様子

 

新保

今回は全チームの脱出率を30%と想定していて、70%のプレイヤーにはあと一歩のところでギリギリ脱出できないように難易度を調整していました。

ゲーム内での交流を濃くすることでメイドへの感情移入度を高めて、結果没入感を高めようとしていたので、意図的にギミック自体の難易度を高く設定しています。

 

村上

企画だけをやってる他のメンバーにはその流れとか温度感って分からないと思うんだよね。

ゲーム企画をするだけではなくて、キャストとして現場に入り込んでるからこそ見えてきたゲームデザインの工夫って、他にも何かある?

 

新保

運営中はもう時間に追われるし緊張するしで必死だったので深くは考えていないんですけど、ギミック班を兼任してたこともあって、目の前で謎を解いてくれるのは単純に嬉しかったですね。

 

村上

ゲームデザインの基本として「仮説、試行、歓喜」のサイクルがあるから人はゲームに夢中になるって授業でも話したけど、まさにそのプロセスそのものを特等席で見られたのは大きいね。

 

新保

そうですね。そこに加えて、私自身が称賛演出の存在そのものになるので、「さすがです!ご主人様!」って(笑)。フィードバックひとつでプレイヤーの表情やテンションがどんどん変わっていくのが楽しかったです。

 

藤原

みんな「でゅひひ!」っていう反応でした。

 

村上

なんじゃそら。

 

藤原

プレイヤーはみんなオタクの立ち位置になるので、嬉しいけど照れ隠しをするような、そんなリアルで微妙な反応が目立ちましたね。

 

新保

みなさん解いてる途中は不安を感じてるみたいなんですよ。本当にこれでいいのかな、って。でも解いた瞬間に「すごいです!ご主人様!」って大げさに褒めると、嬉しいのと同時に、自分がやってきたことが間違いじゃなかったことに気づけて安心するみたいでした。

 

藤原

とにかく大げさに褒められるもんだから、「自分は凄いことを成し遂げたぞ!」って感じるようですね。

 

村上

そこは今回メイドカフェを題材にした大きな特徴かもしれないね。あからさまに褒めるっていう。解いたギミックの難易度に応じて褒め方が変わったり、メイドも一緒になって喜んでくれたりすると、そりゃモチベーションも上がるよね。

 

新保

鍵を開けただけでも嬉しいのに、「開けられたんですか!?ご主人様!!」って、私も一緒に喜んであげるんです。

 

村上

それで思い出した。今、某オンラインの英会話を少しずつやってるんだけど、相手は当然外国人で、こちらから相手を指名する形になるのね。そのとき男性教師の場合はとにかくハイテンションでめちゃくちゃ褒めてくれる。

君は最高だ!GREAT!!Excellent!!!Fantastic!!!!」って(笑)。で、女性教師の場合、もちろん褒めてくれるんだけど、その人も我が事のように喜んでくれるわけ。「あなたが解けて私も嬉しい!」っていうニュアンスで。そうなるとこっちももっとモチベーションが上がるから、もっと頑張ろうって気になる。「褒めてあげる」じゃなくて「共感してくれる」って感じなのかな。

 

藤原

共感は確かに大きいですね。あと、キャストは私たちナビゲーション役のメイドだけじゃなくて、実は地下のVIPルームにもう一人の男性オタクキャラがいたんですよ。さっき話したもう一人の友人キャラですね。VIPルームに入る際、ここでメイドとしばし別れて、オタクキャラとのやりとりという次の展開に進みます。でもこいつは監禁されてる設定なので「助けて!」って言ってるんです。メイドとは真逆の存在ですね。しかも助けてやったら裏切って悪役になるんです。

 

村上

キャストはキャストでも、この男は悪役としてストーリーを止める目的で存在するんだね。

 

新保

おい、早く鍵開けろよ、みたいな横柄な感じで来るので、メイドとの温度差もあってプレイヤーは少しイラっと来ると思います。

 

村上

VIPルームでのやりとりの後でメイドカフェに戻ると、メイドと再会できて安心感が得られると。そういうメリハリを演出したんだね。

 

VIPルームのイメージ

 

藤原

ゲームって、プレイヤーに寄りそうように作らなきゃいけないじゃないですか。今回は実際にプレイヤーの様子を間近で見れたことで、今後ゲームを作っていく上で注意しないといけないこととか、お客様目線でのものの見方が出来たのは大きかったですね。

謎を解いてるときの心の声が全部口に出てしまう人もいて、この人は今ここで詰まってるとか、どういうヒントを期待してるとか、そういう状況がより伝わってきました。

 

新保

今回コロナの関係で外部からの来場者を全員お断りすることになってしまって、そんな状況でもやる意味ある?って考えてたんですけど、開催ギリギリまで作業が手一杯で不安になって、「中止か延期にした方が良いんじゃないか」って話したこともあります。でも凄く大変だったけど完成させることって大切なんだなって思いました。

 

村上

それは感染症対策の関係で、ってこと?そこは包み隠さず本音で語っていいよ(笑)。

 

新保

テストプレイを始めるあたりでオミクロンが急拡大して、ただでさえ大変だった感染症対策を更に強化したり、それ以前にテストプレイでの情報共有が不十分だったり、台本が所々曖昧な表記になったままだったり…。これがギリギリ解決したかと思ったら、設営のタイミングで急に大雪が降ってきて、搬入すべきものが搬入できなくなったから急遽構成を変えたり…。前に進もうとすると何かと阻害されまくって本当に辛かったですね…。

 

村上

確かに状況的には厳しかったね。普通なら中止にするところなんだろうけど、もしここで中止にしたら、ゼミ生が何も成長しないまま進級することになってしまうしね。もし本番で大失敗したとしても、ゼミ生が大勢の前でトラウマクラスの大恥をかくのも一つの教育なので、失敗したら失敗したでそこから何かを学んでもらえればそれでいいかなと思って、みんなには「もう泣き言なんか聞かないよ。予定通りやるよー」って(笑)。

 

藤原新保

…(苦笑)

 

村上

リハーサルのときのゼミ生の空気感がユルかったから全員集めてお説教したけど、ラストスパートでみんな必死になってアイデアを出し合って、ギリギリ何とか形にはなって、しかもプレイヤーのアンケート結果もまずまずだったので、まあ、成功と言えるのではないかと。こちらはそう捉えてるけど、どうよ。

 

藤原新保

そう…ですね(苦笑)。

 

村上

グループワークで半年かけて作るものだから、表面上はうまくいってるように見えても、先輩たちだって毎年同じように大変な思いをしてるよ。毎年泣きそうになって「ヤヴァイ!無理!」って言いながらもちゃんと仕上げてるから。

これもベタな話だけど、やらずに後悔するよりやって反省する方が建設的だから、結果オーライってことで良いんじゃないかな。

 

藤原

最期は全員が火事場の馬鹿力で頑張ったので、どうにかなりましたね。

お客さんの反応をみて初めて理解できることもあるので、無理やりでもやってみて良かったです。

 

村上

というわけで、恐らくこの企画は来年も続く…のかな。

君らは次は学科展(9月に開催されるゼミの成果物展)に向けて作品を作ることになるので、今回得たことを活かして面白いものを作っていってください。

ではでは、今日はありがとうございました。

 

藤原新保

はい、ありがとうございました。

 

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