クロステックデザインコース

2022年8月「クロスの熊本県天草市プロジェクト通信」No.3(8月7日分)

「先生が目指す究極プレゼンって何ですか?」

と学生に尋ねられ、即答で、

「マイケルジャクソンの『ライブ・イン・ブカレスト』の冒頭」と答えるクロステックデザインコース教員の吉田です。

ぜひ、ご覧になられたことがない方は見てください。

1992年に世界で350万人を動員したマイケルの”Dangerous Tour”のブカレスト公演。

その冒頭で、ステージに飛び出したマイケルは、全く微動だにせず。

2分間で行うのは、サングラスを外す行為のみ。

その2分間で、絶叫の果てに、次々と失神者が続出。その誰もが「神様を見た」というような恍惚とした表情で運ばれていくのです。

「いつか、あんな風に、登場しただけでみんなが絶叫し、気絶するような存在になりたい」と熱く語って、違う答えを期待していた学生を困惑させる天草の出来事です。

 

さて、前回の記事の続き。

 

今回、8月6日(土)から14日(日)まで熊本県天草市を訪れ、同時並行で3つのプロジェクトを推進しています。

昨日8月7日(土)は、天草市で小学生とワークショップでした。

「企画をするときは、会場に早めに着かなきゃだめだ。何があるかわからないからね」

と、30分前に会場に到着し、開始前にいろいろ学生に語っていると、集合の9時に。

「あれ?市役所の人、誰も来ないね?どうしたんだろう?渋滞しちゃっているかな?」

と言いながら、「ハッ!」とする吉田。

(あれ……?今日の会場、10日と11日の会場と別だったっけ?)

と慌てて、市役所の方に電話すると、

「先生、今日は『ここらす』ではなく、市民センターです!」と言われ、

慌てて、市民センターに向かう京都芸術大学一行。

 

「ねっ!?こういうことが企画の時にはあるのよ。だから、早めに会場に行っておくことが大切なのよ。わかる?」

と、自分が会場を間違えたのに、もっともらしい「学び」に変えようとする教員。

 

そんなこんなで、どうにか会場に到着し、準備をしてワークショップを開始。

 

今回のテーマは、「天草市の100年後に残したい場所をみんなで調べて、マッピングしよう!」というワークでした。

このテーマにしたのは意味がありまして。

 

ご多聞にもれず、天草市には大学や専門学校がないため(看護の専門学校はあります)、

「全国平均約85%」と言われる「高等教育進学率」を考えると、高校卒業後18歳で、子どもたちの8割近くは天草を離れることになります。

大学への進学意欲や教育熱心なご家庭では、中学を卒業の段階(15歳)で、熊本市内の高校へ進学することもめずらしくありません。

 

これは、天草に限らず、全国の地方都市に存在する課題です。

 

15歳や18歳で約8割の子どもたちがふるさとを離れて行きます。

同じ悩みを抱える地方都市では、「都会で学んで、地元に帰ってきてくれたらいいよ」と願いますが、大学や専門学校を卒業した就職先を考えると、ふるさとに帰るのは簡単なことではありません(就職先の選択肢の数が違うため)

 

というのも、私も、山口県出身であることの自身の体験からも来ています。
京都の大学を卒業して、ふるさとに帰って就職を検討すると、

・役場(市役所など)に勤めるか

・学校の先生になるか

・家業を継ぐか

・自分で起業する

かに選択肢が限られます。

(もちろん、魅力的な民間企業も選択肢としてありますが、それほど多い選択肢があるわけではありません)

 

そういう現状を考えると、「地方の子どもだちが自分のふるさとのことを大切に想い、考え続けてもらうには、15歳や18歳までの体験が重要なのでは?」と考えています。

 

そうした仮説で、3年前から、天草の小中学校で、さまざまなワークショップを開催しています。

 

そんな時、ある学校で授業をしていて気がついたことがあるんです。

それは、「子どもたちのほとんどが、自分の町のことをほとんど知らない」ということ。

 

ただし、それは地方に限らず、全国どこの町でも、意外と自分の町のこと(歴史や風土、そこから生まれる魅力や可能性)を、子どもも大人も知らないことがほとんどです。

私だって、そうでしたし、現在もそうかもしれません。

それでも、自分もふるさとの山口のために何かできないか?とずっと考えているのは、幼少期からふるさとを離れる18歳までの原体験や原風景が、強く心に残っているからでもあります。

 

天草の小中学校でそうした課題に気がついたことから、

「どうにかして、天草の子どもたちが、自分のふるさとのことをもっと知って、そこに家族や自分で訪れて、彼らの中に原風景を作ることができないか?」

というのをずっと考えています。

それは、天草に限らず、他の市町村にも展開できるモデルにもなると考えているからです。

というわけで、昨日は、天草の小中学生に、初めて天草を訪れた(事前に下調べはしてきたけど)大学生のお兄さん、お姉さんに、自分達が感じる天草の魅力を体験を通して語ってもらい、それを大学生が質問して、さらに引き出すというワークを実施しました。

 

終わった後、子どもたちと保護者の方に気づきを伺うと、

「こうやってマッピングしてみたら、本当に子どもたちを連れて行ってないんだなぁと感じました。どうしても家族で出かけるとなると、熊本市内の方に意識が向いちゃうけど、それが子どもたちにも植え付けられるんでしょうね」(保護者)

「人の話を聞いて、自分も行ってみたいと思った場所がたくさんあった。今度お父さんに連れて行ってもらいたいです」(小学生)

 

この「仕込み」を終えて、これからそのマッピングした情報を落とし込んで、企画とデザインの力でアウトプットを生み出します。そして、ワークショップに参加できなかった子どもたちにも「体験」を設計する取り組みをさらに進めて行きます。

 

「二次情報・基礎情報」は京都で調べてきたので、これから天草滞在中に、自分達の足で「一次情報」を手にするために走り回ります!

 

ワークショップを終えて、明日(8日)のためにホテルに帰って作業が深夜まで学生も私もあるのですが、

朝から夕方までずっと気が張って作業をしていたので、「ちょっと、インプットもしないと、学生も疲弊しちゃうな」と思い、「せっかくだから、映画観ようよ」と学生を誘い、映画『のさりの島』にも出てくる、天草に唯一残る映画館『本渡第一映劇』へ。

インプットとアウトプットのバランスって、すごく大切に考えています。

アウトプットが続くと、どうしても枯渇していくので、そういう時にインプットしたことが、後々刺激となって効いてくることもあるので。

 

学生と一緒に観た映画は、『アプローズアプローズ』

不条理劇で有名なサミュエル・ベケットの『ゴドーを待ちながら』をモチーフにしたフランス映画です。

 

劇場前のポスターに、「圧巻のラストにあなたは言葉を失う」とあったのですが、

文字通り、ラストに言葉を失って、「(あぁ……)」と立ち上がって振り返ると、

終わった後に一番「どうだった?」と感想を聴きたかった、映画学科の2年生の学生が、

まさかの思いっきり爆睡。

「最初の20分以降の記憶がありません。1,200円払って、2時間睡眠しちゃいました」

という圧巻のラストに、言葉を失った教員でした。

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