キャラクターデザインコース

ゼミ通ヒーローズVol.48 俵迫かなめ と シリアスゲーム「おこしやす!百鬼旅行」 について語るの巻 Part 2

 

※「ゼミ通ヒーローズ」とは、京都芸術大学キャラクターデザイン学科ゲームゼミの学生の研究や取り組みについてピックアップし、担当教員村上との対談形式で綴る少々マニアックなブログ記事となっています。

 

俵迫かなめとのシリアスゲームのインタビューの続き

 

村上

さっきのインタビューの中で、ゼミの活動としてゲームジャムやシリアスゲームの制作があったと話していたけど、今回はシリアスゲームについて話を聞こうかな。

 

 

俵迫

シリアスゲームっていうのは、社会問題を解決するために、ゲームの形を通して遊びながら色んなことを学んでいく媒体ですね。

題材としては、環境問題、食糧問題、人種差別、戦争みたいな感じで、世界が抱える色んな問題を、ボードゲームやカードゲームを通して仕組みを理解していきます。ゲームをクリアする過程でその問題について真剣に議論をするという副産物を生むような、そんな教材のような媒体ですね。

 

村上

今はもうどの大学でも普通に授業の中に取り入れてたり、シリアスゲームジャムが開催されたり、ゲームの専門家ではなくて自治体が制作とかワークショップを展開してるよね。

 

俵迫

日常的に触れることがないような大きな問題に対して、楽しみながらいつの間にか勉強できてるような感じですね。

今回はホテルアンテルーム京都さんが主催する「アートビット展」というゲームの展示イベントの中で私たちがつくったシリアスゲームの試遊会や展示をさせていただく機会を得ました。

※「アートビット展

現代アートのゲーム性とゲームの中のアート性に注目して、新しい価値を見出すための展示会として、ホテルアンテルーム京都さんが主催してるイベント。

 

村上

企画の前提でいうと、「遊びの力で京都を面白くしよう」と考えていて、それは本学だけじゃなくて、ゲーム研究センターのある立命館大学と、京都精華大学を巻き込んで一緒に何かをしようと。

京都府はゲームの開拓に前向きで、ビットサミットがあるし、任天堂があるし、脱出ゲームのスクラップさんがあるし、各大学でのゲーム研究が盛んだし、新しいものや面白さを研究するには良い土地柄なのに、実はあまり活かせていないというか、正直まだまだ連携が弱いと感じていて、そこでビットサミットの主催者に連絡をして「なんか面白いことしましょう」と。それが発端だね。

で、具体的にはどんなゲームを作った?

 

俵迫

今回私たちのチームは『おこしやす!百鬼旅行』っていうゲームを作りました。

まず京都でどんな問題が起こっているのかをリサーチしてるときに、オーバーツーリズムの問題に注目しました。これは京都の観光客が昼だけに集中したり一か所だけに集中しすぎて分散されない問題です。京都市自体は解決しようとしてるんですけど、うまく出来てないんですね。夜になると観光客は大阪に流れていってしまうから京都に滞在してくれないとか。

 

 

俵迫

簡単にいうと、他県に移動していく観光客を京都にとどめるボードゲームです。

百鬼夜行と一条妖怪ストリートをモデルにして、客である妖怪がどんどん流れていく様子を、いかに商店街に引き留めていくかを楽しんでもらう形になります。

 

村上

問題をリアルに表現するんじゃなくて、妖怪というメタファーに置き換えてデフォルメしたのね。

 

俵迫

はい、企画の打ち合わせの中で例え話としてよく出てたんですけど、「流しそうめん」っていう言い方をしてました。ちょっと言い方が悪いんですけど、お客さんが流れていくのを、いかにこぼさないように拾って脇道のお店に入れていくか。そこで拾い損ねた客がどんどん大阪に流れて行きます。

 

村上

居酒屋があったりカフェがあったり劇場があったり、そのコマにお客さんのメタファーである妖怪たちを引き留めていくわけね。

 

俵迫

プレイし終わった後は、京都の町が潤った一方で、大阪の枠を見るとこんなにもたくさんのお客さんを拾い損ねていたっていうのを目の当たりにします。

そんな大阪に収まった妖怪たちを見ながら、どうやったらこの子たちを引き留めることができたんだろう、なんで京都ではこういうことがうまく出来ないんだろうとプレイヤーがしっかり考えられるような、そんなゲームデザインになっています。

ゲームで遊んでる最中は、高得点を狙うためにゲームに集中してるんですけど、終わってから色んな問題に気づくような感じです。

 

 

俵迫

最初は京都府全体がモデルになっていて、ホテルとかバスの経営だったり行政が絡んできたり、っていう壮大なゲームになってたんです。でも話が大きくなってどんどんリアリティを増していってキリがなかったので、妖怪ストリートに絞り込んでゲームとして面白くなるようにコンパクトで遊びやすくしました。もちろん、観光客を分散するっていう軸の遊び方は変わってません。

 

村上

最初の構想でもシミュレーションゲームとしては面白かったけど、リアリティが増した分、逆に面白さはなかったよね。企画も散漫になって全然まとまらなかったし(笑)

 

俵迫

シリアス要素とゲーム要素のバランスがすごく難しくて、本当はシリアス6に対してゲーム4くらいの割合が理想だったんですけど、事実に基づく問題を取り上げようとしたらそこがどんどん難しくなっていって、かといってゲームとして面白いだけでもダメだし事実を捻じ曲げてもダメだし。

企画を詰めれば詰めるほどシリアス9、ゲーム1くらいの割合になっていって、遊んでも全然面白くないからちょっと考え直そうってなったんですね。

 

村上

最終形としては、シリアス4、ゲーム6くらいの割合になったんじゃないかな。

 

俵迫

そうですね。私たちならではのシリアスゲームになってて良かったんじゃないですかね。

 

村上

ガチのシリアスゲームは他大学でも作られていて、かなり多くの地域でもシリアスゲームジャムとか行われてるからね。ここは我々ならではのメタファーと発想の面白さが表現できたから良かったなと。妖怪ストリートと流しそうめんを組み合わせたら京都の現状を置き換えたゲームができました、っていうね。

 

俵迫

でも、普通のゲームだったらマニュアルと一緒に置いておけばそれ読んで遊んでもらえるんでしょうけど、このシリアスゲームって、なかなか手に取って遊んでもらいにくいのが難点ですね。

デジタルゲームはチュートリアルとか親切なUIがあって迷うことなく誘導してくれるし、コンピューターが自動計算もしてくれるけど、アナログゲームってただでさえ説明が難しいのに、ことシリアスゲームとなるとファシリテーターがいないと伝わらないし、更にはそのゲームの問題提起の部分を面白く伝えることができないので、そこが今後の課題になると思います。

 

村上

実際、『スーパーマリオブラザーズ』の面白さを説明して下さいって言っても、大抵の人は説明ができないんだわ。「クッパをやっつけてピーチ姫を助けるゲームです」っていう言い方になるのがほとんどで、でもそれってストーリーの説明でしかなくてゲームとして何が面白いのかが全く伝わってこないよね。「アスレチックでのジャンプの面白さから派生する様々なアクションを楽しむゲームデザインです」と言えれば良いんだけど、デジタルゲームですら説明が難しいものを、アナログゲームになると遊んだ感覚を的確に伝えない限りはほぼ伝わらないと思うんだよね。一回の説明だけじゃ絶対理解できないから、実際に教えてもらいながら遊んで二回目あたりでやっと理解できるっていう。

 

俵迫

説明書を細かく書いても誰も読まないから、伝え方は試行錯誤しましたね。

 

村上

3行以上の文章は読もうって思わないしね。

 

俵迫

その分ビジュアルに力を入れたので、まずは興味を持って手に取っていただくことが重要かなって思いましたね。

 

村上

実際にアートビット展での試遊会はかなり盛り上がったね。

でもなんで盛り上がったかって言うと、作り手がそこにいて説明しながら遊べたから。手放しだったら誰も遊ぼうとは思わないのが問題点。

 

俵迫

今回はシリアスゲーム自体を作るのも初めてで、ていうかシリアスゲームって何?ってところから話が始まったので、とにかく大変でした。

 

村上

ゲームの仕組み作りとか面白さを考えるスキルは上がったけど、今後の課題はスケジューリングかなぁ(笑)。あとは突発的なことが起きたときに臨機応変に対応できるようなタフな精神力とか。

 

俵迫

常にプランBを考えてすぐに動けるようにしておく計画性は大事ですよね。

 

村上

というわけで、後期のプロジェクトでも頑張って応用していってくださいね。

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