- 2022年9月8日
- 日常風景
ゼミ通ヒーローズVol.50 村上と村上がゲームゼミについて妄想するの巻
※「ゼミ通ヒーローズ」とは、京都芸術大学キャラクターデザイン学科ゲームゼミの学生の研究や取り組みについてピックアップし、担当教員村上との対談形式で綴る少々マニアックなブログ記事となっています。
今回はブログの連載50回記念ということで、発起人自らが胸の内を明かす回となっているので読み飛ばしていただいて結構です(苦笑)
村上
ぶっちゃけどうよ。
村上
何が?
村上
ゲーム教育とか。実際のところ大学で何教えてんの?他の大学でもゲームの授業はあるみたいだけど、何が違うの?この少子化で受験者数がめっちゃ増えてるって言うけど秘訣は何なの?
村上
一度に聞かんといて。俺の脳内メモリ16MBくらいしかないから処理に時間かかるんだわ。
大学ではゲーム…というか遊び全般についてのメカニズムとか、色々やってるよ。
村上
企画書とか仕様書の書き方教えるの?ゲームエンジンとかグラフィックツールのオペレーションとか?やっぱ今主流はUNITY?それともUNREAL ENGINE?バージョンは5?
村上
だから、一度に聞かんといて。脳の容量32MBくらいしかないから記憶できないんだわ。
村上
じゃ授業内容から聞かせて。
村上
授業は、うちの学科の場合、一年で基礎を学んで二年で応用、で、二年からゼミが始まるっていう特殊なパターンになってる。
基礎授業は「そもそもゲームって何?」て話で、実際にゲームのコンセプトを練り込んだりアナログゲーム作ったり。応用授業は「面白いって何?」みたいな展開で、理論をガッツリ。
村上
普通、理論を学んでから実習するんじゃないの?
村上
それでもいいけど、うちは逆。最初に作ってみる。ライオンと同じで、先に谷底に突き落として、這い上がってきたところで「ね?痛かったでしょ?じゃ失敗しないためにはどうすればいいのかなー?」の後から理論を教えた方が腹に落ちやすいっていうか。
村上
過酷だね。自分がそんな目に遭ったら嫌じゃない?
村上
痛い目に遭いたくないから先に理論を教えてほしいね(笑)
村上
あはは(笑)
村上
あはは(笑)
村上
で?ゲームの作り方は教えるの?
村上
教えない。
村上
は?どういうこと?大学なのに教えないの?
村上
大学なのにじゃなくて、大学だから教えないの。絵を描きたい人は勝手にYouTubeでクリスタの使い方覚えるでしょ?じゃそれと同じでいいじゃない。ゲームを教えるというよりはゲームで学ぶ、て感じかな。
村上
なんかカッコいいこと言ってるのは分かるけど意味がよく分かんない。
村上
ところでさ、
村上
なに?
村上
あなた誰?
村上
それ今聞く?
村上と言います。49歳です。
村上
本当に?同い年だね。右肩とか痛くなるよね。四十肩か五十肩か分からないから正式名称教えてほしいよね。右肩上がりにならないって、なんか営業成績悪い人みたいでイヤだよね。
で、なんだっけ?
村上
今度はゲームゼミのこと聞かせてよ。
村上
ゼミは2年生の前期は他大学とチームを組んでゲームジャムに参加したりシリアスゲームの研究制作をしたり。
2年の後期は脱出ゲームの制作。京都だとスクラップさんが有名だけど、60分以内に謎解いて脱出しないとブッ〇すっていうアレ。
ゲームシナリオからレベルデザイン全般までを学べるし、全員で一つのものを作るからワークフローの組み立てとか報連相を修得できて色々おいしい。
村上
3年は?
村上
3年の前期は学科展っていう学内展示会に向けての制作がメイン。デジタルゲームを作る人もいればアナログゲームの人もいて、最近では電子工作的な感じでデジタルとアナログを融合するものが徐々に増えてきてる。
後期は産学連携プロジェクト。プロジェクトの内容はその年によって全然違ってて、医療機関と組んだゲーミフィケーションだったり、各々新しい表現を模索するための実験に割り当てたり。
村上
ゲームって響きがどうしてもマイナスのイメージになりがちだけど、ゲーミフィケーションの研究をしてるなら色んな学問との領域横断もできそうだね。
村上
出た。「ゲームってマイナス」発言。そんなこともあろうかと思って、うちのゲームゼミはゲームの社会的有用性を立証して世に知らしめていきたいわけよ。
村上
世って誰?
村上
ゲームがコンピュータ上で動作するという理由だけで頭が悪くなるとか言ってるような時代遅れの種族よ。ジャスコで買い物中にゲームコーナー見るだけで「あんな所で遊んじゃいけませんよ」って子供に注意するような連中よ。
村上
節子、それジャスコやない、イオンや。
村上
ハッキリ言ってやりたいね。将棋だってゲームでしょ?でももし将棋がアナログ媒体じゃなくてデジタル媒体だったら、今みたいにテレビで対局の放送するんですかと。藤井聡太がピスタチオのスイーツ喰いました的な放送しておばちゃん連中がキャッキャ言ってる現状ってどうよと。
村上
なるほど。で、具体的に何をやってるのか、もうちょっと深く教えてよ。
村上
ゼミを立ち上げて今年で何年目になるのかな…。立ち上げ当初はプログラミングの授業がなかったから、企画書を作ったりデモムービーを作ったり、動くゲームを作る場合は「ティラノビルダー」とか「RPGツクール」を使って、とりあえずゲームに関連することから始めたね。留学生なんかは積極的に他大学のゲームジャムに参加して経験値を上げたり。その後でUNITYの授業を導入して、実際に動くゲームを作れるようになって、ようやく今の形になった感じ。
村上
ゲームって時代と共に表現の幅が増えていくし、何なら定義すらも変わってくる厄介なメディアだから、5年後には全く違うことをやってる可能性もあるね。
村上
そう。だから、基礎的な技術の話は少しはするけど、それ以上に細かい話をしたところで、卒業する頃には全く新しい概念が生まれてる可能性も高くて、だからゲームデザインの基本とか、報連相とかワークフローを徹底する教育をしてるってわけ。
村上
コンピューターゲームをガッツリ作るのかと思ったら、案外そうでもないのね。
村上
ゲームの授業以外にも「ゲームプログラミング」って授業があってUNITYの基本を学べるし、イラストやCGを学ぶ授業もあるから、そこで技術習得をしてもらって、その知識とか技術を持ち寄ってゼミの中で何か面白いことをする、みたいな。
村上
へえー、キャラクターデザイン学科って名前なのにプログラミングもやるの?
村上
出た、出たよ。お前もか。キャラクターデザイン学科なのにってか。学科の名前がコレだから、他学科の教職員もうちでゲーム研究してる話知らなくてさ。「ド〇えもんとかキ〇ィちゃんみたいな絵を描く学科でしょ」とか言われてさ。いやゲームもやってますって言ったら「〇リオとかピ〇チュウの絵を練習するんですか」的な。おいおい一体どんだけこのブログ連載してんだって話ですよ。これ、50回目ですよ50回目。『ガラスの仮面』だってまだ49巻ですよ。50回記念だから好き放題言わせていただきますよってなモンですよ。
村上
まあ、落ち着こうよ…。じゃキャラクターの研究はしないの?
村上
たまにするよ。キャラクターの記号論の話とか。
ゲームキャラクターの概念を掘り下げようと思って、「今あなたが動かしてるソレは一体何ですか?キャラクターですか?それともコントローラーですか?」的な話を投げかけたら結構盛り上がった。
村上
案外深い話してんじゃん。
学生たちはゲームキャラクターって言ったらやっぱり今どきは「推しキャラ」とかの話になるんじゃない?
村上
「推し」の話もよく出てくるけど、どうしてもビジュアルの話になりがちだから、ちょっと待てと。プレイヤーは、本当はその「推しキャラ」が所詮RGBカラーのピクセルの集合体だということを認識した上で、課金したことでより良い運営サービスに還元されて、関連グッズも充実して、それを購入することが自分の幸せになるっていうメタ的なゲームを楽しんでるんだ、と話したら、記号論ともまた違う話に展開して、結構アツい議論になった。
村上
なるほど。この辺は知りたがる高校生もたくさんいるんじゃないの?もうちょい詳しく。
村上
じゃまずは入学して。授業の中で話すよ。
村上
わざわざブログで情報を寸止めにするの残酷じゃね?
まぁいいや、でも実態はそういうことだもんね。ゲームキャラクターって何なんだろうね。
アバターみたいな仮想身体でありながら物語の中で勝手に話を始めたりするから、「おいおい、俺は今そんなこと思ってないよ」ってなってどこに感情移入すればいいのか分からない、
なんてことはないのかな。
村上
誰の視点でゲームを楽しむかが重要なんだよね。一人称視点のゲームは自ずとプレイヤーが主人公になるから話は簡単なんだけど、画面の中に主人公キャラが映ってて、それを操作するときに話がややこしくなる。操作してるキャラクターはプレイヤーの顔とは異なるし、時にプレイヤーとは違うことを考えて勝手に話しだしたりする。虚構の二重性っていうか、仮想身体でありながらシーンによっては映像鑑賞の対象物にもなり得る特殊な役割を担うわけですよ。
一人称と三人称はあるけど二人称のゲームってあまりなかったり、ゲームデザインをする人は、常に誰の目から見た何なのかを想定して、どこに感情移入できるかを考えないといけないわけ。
村上
なるほど。ただ上手にキャラクターの絵を描けばいいってわけじゃないんだ。
村上
はい、お手紙いただきました。
村上
何、急に…?
村上
京都府在住の村上さんからです。
村上
お手紙?そういうオプションもあるのね。ていうかまた村上さん?
村上
「友達が出来ません。どうしたらいいですか」
村上
見た目の問題じゃない?
村上
見た目の問題といえば、キャラクターのビジュアルは所謂記号としての表現、ていうか、UIデザインそのものと言えるわけだよね。マリオだったら、帽子のつばが右を向いてるから右へ向かうゲームであることが理解できる、とか。そんな感じで、キャラクターのビジュアルがゲーム性に影響を与えるものもあるよね。
あ、そうだ…
村上
なに?
村上
ちょっと真面目な話していい?
村上
真面目な話?
村上
『エルデンリング』のラスボスが倒せなくてさ。
村上
な、何の話してんの?
村上
AB型だから話があちこち飛ぶんだわ。
村上
春に発売されたのにまだエンディングいってないの?
村上
とにかく厳しいんだって、あのゲーム。連撃のあとで爆発とか梨汁ぶしゃーとか、ガードもできないからローリング回避するしかないんだけどタイミングが全然覚えられなくてさ…。
村上
文句ばっかり言ってるけど、結局ハマってるんでしょ?
村上
大好きなの♡
「死にゲー」なんて一体どこが面白いんだよ!て疑心暗鬼になって始めたら、面白過ぎてもう生活に支障が出るレベルでどっぷりハマったね。
村上
で、何が面白いの?
村上
敵が強すぎて、出会ってすぐ死んで、やり直してすぐ死んで、またやり直してすぐ死ぬの。
村上
…全っ然面白そうに聞こえないんだけど。
村上
結局あれって観察力が重要なゲームなわけよ。敵の行動パターンを観察して記憶さえできれば攻略法は必ず見つかる。
村上
でも死にまくってんじゃん。
村上
そこがポイント。冷静にヒット&アウェイを維持して隙を見計らうことができれば勝てるんだけど、そうはならないところがこのゲームの素晴らしいところ。
敵の攻撃が激しすぎて逃げ回るしかない状況で、隙が生まれる瞬間を見極めて「今だ!」てタイミングで攻撃を加えるんだけど、一撃を入れたらすぐに離れて次の隙を狙わなきゃいけないのに、一撃がヒットした瞬間に気持ちが高ぶりすぎて、つい他のゲームみたいに連打ゴリ押しプレイをしちゃうわけ。で、調子に乗って反撃を喰らって、一瞬でゲームオーバーになる。
村上
敵の行動パターンは決まっていて、それを理解するために何度も観察してきたのに、それを忘れて冷静さを失わせるようなゲームデザインになってるわけね。
村上
そう。どいつもこいつも敵の容姿がおっかないから、猛スピードで迫ってきたりしたら慌ててボタン連打しちゃう。で、死んだときに「こうなると分かってたのにまた失敗した…」ってなるから、敵が強いとか理不尽とかじゃなくて、とにかく自分の記憶力の低さと理性を抑えられない自分自身の弱さが悔しさに変って、死んでも死んでも繰り返し挑戦してしまう。
良いゲームの条件って、ゲームオーバーになった時に「自分の責任」って思えることだと思うんだよね。
ゲームのせいだと思った瞬間に理不尽さしか感じなくなって、誰もゲームを買わなくなって、それこそメーカーの経営が死にゲーになる(苦笑)
村上
それが分かっていながら未だにラスボスが倒せない君は学習能力無し男か。
でもよく考えたら、昔のファミコンゲームってあんなのばっかりじゃなかった?こんなもんクリアできるわけないだろ、みたいな。でもあの当時は時間に余裕があったし情報も少なかったから必死で攻略法を探して、学校で友達と攻略法の情報交換して、クリアできたらクラスのヒーローになってたよね。
今はどうなんだろう?
村上
昨今の傾向としては…「ゲームで遊んでる」っていうよりは「ただボタンを押してる」印象の方が強いかな。時代の流れ的に、腰を据えてじっくりと考えて挑戦するより、日常の中での情報が多すぎて「ながら」で遊ぶスタイルが主流になってるからね。
村上
ゲーム実況を見て遊んだ気になってるとか?
村上
それもあるね。昔はそれを否定的に受け取ってたんだけど、最近はゲーム実況を見て、視聴者がリアルタイムでコメントを書き込んで、それを実況者がみてリアクションをする。
これって、実況者という名のゲームプレイヤーを外から操作するという新しいゲームの在り方なんじゃないかと思うわけ。
村上
なるほど、さっき言ってた推しキャラと同じ、メタ的なゲームってわけか。
村上
そう。そんな感じで、ゲームって時代と共に概念そのものが変わっていく定義不能なメディアだから、さっき言ったみたいに、5年後がどうなるか全然分からないよね。
村上
大学では技術の細かいことを教えない、の意味が少しわかった気がする。
村上
そんな研究ばかりやってるから、仕事は面白いけど友達はできないね。『エルデンリング』の中の登場人物はみんな口数少ないから友達になれそうもないし。誰かに友達作る方法教えてもらおうかな。
村上
じゃ手紙でも書いて投稿してみたら?
村上
じゃ、この話の続きは、次は100回記念の時にでもしようかな。
村上
100回目っていつ?
村上
4年後くらいかな。
村上
あはは。
村上
あはは。