総合造形コース

誰かと一緒に、ものを作ってみる授業 1か月の挑戦は、ぶつかり合いも勉強で 【文芸表現学科学生によるレポート】

違うジャンルを学んでいても、芸術大学でものづくりを楽しむ気持ちは同じ。このシリーズでは、美術工芸学科の取り組みの現場に文芸表現学科の学生たちが潜入し、その魅力や「つくることのおもしろさ」に触れていきます。

 

文芸表現学科3年生の井関こころです。

山が赤や黄に色づいている秋ですが、今回のレポートは、秋を待ち遠しく感じていたものの、鮮やかな緑の木々をもう少し見ていたかった夏の日の授業について。

裏返ったセミの横を通るとき、ちょっとドキドキしてしまうような暑い時期に、総合造形コース2年生の授業に1か月間密着しました。

 


 

 

毎週水曜日から金曜日の3~4限に行われる、5週、計15日間の授業。

普段は個人制作が多い総合造形コースの授業ですが、今回は各7~8名の3つのグループに分かれての共同制作です。

 

テーマは『クロスジャンル×ミクストメディア』、与えられたキーワードは『Border』。

ここから構想し、個人ではできない表現に挑戦していました。

 

テーマの解釈を深めるところから制作は始まる

 

学内で飼われている猫の横を通り過ぎ、コンクリートの階段を下りた先にある不思議な教室。真ん中が大きな木の板で仕切られ、どちらが前なのか分かりません。

 

個人制作のために、各自のスペースが取れるこの形が採用されているのでしょうか。木の香りがする教室をうろうろするだけでも、新鮮で面白いです。

 

 

さっそくグループごとにディスカッションをしていきます。

まずは『Border』とは何なのか、テーマの解釈を深めるところからです。ディスカッションを進行する人、意見をまとめる人、疑問点を調べる人。

 

共同制作には慣れていないとのことですが、それぞれができる仕事をこなしていく姿が印象的です。ディスカッションの間にも手を動かしているので、スケッチが増えていきます。

 

和気あいあいと話が進み、表現したいものも少しずつ見えてきたようでした。この先、さらに構想が練られていくのか期待が膨らみます。

 

 

共に制作をする仲間と、敵対しても構わない

 

4日目には、ゲスト講師の谷竜一先生をお迎えしてのレクチャーが行われました。

前半は「集団でものをつくること」についてのお話です。

中でも印象的だったのは、「共同制作をする仲間とは、必ずしも仲良くなる必要はない」というお話でした。

 

チームがばらばらなのは、ある意味当たり前。多少すれ違いが生まれる方が、人と人が一緒に活動する意味が生まれる、とのことです。

今後制作を進めていく中で、重要な考え方になりそうですね。

 

 

そして後半には、実際にグループごとに分かれてのワークを実施。

「できるだけ大きなものを教室に運び込む」というお題が出されました。

 

これは発想力の勝負。体積が小さくても、「大きい」と思わせることができれば勝ちなのです。

さっそく大きなものをつくり始めるグループがあれば、教室の外に大きなものを探しに行くグループもあります。

 

最終的に教室に集まったのは「地球」「高く積み上げた段ボール」「大地、エベレスト、インターネット」でした。

確かにどれも大きいですね。

谷先生からは、何を運び入れるかということだけでなく、どう魅せるかという部分についても評価がありました。

評価を受け入れる人もいれば、納得がいかない人もいる様子。

 

「それはおかしい」「さっきはそんなこと言ってなかった」と、教室では激しい討論が繰り広げられました。

 

↑エベレストが描かれた紙を手に取る谷竜一先生

 

 

 

納得できるまで、とことん話し合う

 

授業期間の3分の1ほどが過ぎると、ディスカッションの雰囲気も徐々に変化していきます。

初めのころは全員が積極的に意見を出し合い、とにかく楽しそうな印象でした。しかし、話し合いが深まっていくにつれて、お互いの考えがぶつかり合います。

 

「変えたほうがいいのは分かってるけど、ここだけは譲りたくない」

共同制作とはいえ、それぞれに表現したいものがあります。

どの程度なら歩み寄れるか、いっそ全然違うものを作るか。全員が納得できる表現を模索していました。

 

↑ホワイトボードも使用しつつ、イメージを膨らませていく

 

授業終了のチャイムが鳴ったあとも、すぐに解散するわけではありません。

各グループで話がまとまるまでは、じっくりとディスカッションを続けます。

もちろん先生もその様子を見守っています。より良い作品を生み出すためにリサーチを繰り返し、自分たちの表現に落とし込んでいくのです。

 

制作予定の期間に入ってからも、3グループともディスカッションをしていました。

しかし、先生は学生を急かすことはしません。

とにかく考えを深め、コンセプトを固めていきます。そこで妥協をしないからこそ、作品は意味を持つのでしょう。

 

 

最も驚いたのは、作品完成予定1週間前の変化でした。

これまではぼんやりとしていたアイデアが、しっかりと形になっていたのです。

グループ内でも意見が共有され、積み重ねたディスカッションの成果が出たのだろうなと感じます。

作りたいものが大きく変わっていく中、常に鑑賞者の存在を意識していたところが印象的でした。

 

雨の中行われる合評前日の作業

 

予定よりもかなり遅れて始まった制作。合評の前日になっても、各グループ熱心に手を動かしていました。見ているこちらも、無事に完成するのかハラハラしてしまいます。

さらに運が悪く、この日は大雨。買い出しや搬入にも一苦労です。

 

各グループ、普段の教室と展示を行う教室を行き来しながら作業を進めます。

そんな中、作業をせずに机を囲んで話し合いをしているグループがありました。机の上には茶碗がひとつ。

いったいどんな作品になるのか、期待が膨らみます。

 

 

2つ目のグループは、布に映像を映しています。流れている音声も相まって、教室が幻想的な空間に早変わり。

この作業が行われていたのは普段使用している教室なので、明日にはもっと不思議な感覚が味わえるかもしれません。

 

 

そして最後のグループは、なんと教室を真っ暗にしていました。なにやら怪しげな雰囲気が漂っています。一体何が待っているのでしょうか……。

 

 

ディスカッションでは意見がぶつかり合っていましたが、実際に手を動かすようになってからは一体感が生まれていたように感じます。

表現するものが決まってからの伸びはすさまじいです。

 

授業終了を告げるチャイムが鳴ってからも、作業は続いていました。

 

 

1か月間の成果を見せるとき

 

そしてやってきた合評当日。担当教員の川上幸子先生と熊谷卓哉先生のほか、ゲストの谷竜一先生と専任教員のヤノベケンジ先生も見ている中での発表です。

グループごとにコンセプトを説明したあと、全員で実際にインスタレーションを体験します。

先生方がそろった姿を見て、「緊張する」と話す学生も。

 

さて、最初のグループは、前日に茶碗を囲んでいたみなさんです。

日本で最も深刻なごみ問題は、食品廃棄だと言われています。

これを問題視し、ドキュメンタリー風の映像を制作しました。そして、教室の真ん中には机の上に置かれたごはんが。

 

日本では、1日にひとりあたり150gの食料を無駄にしているそうです。リアリティを出すため、実際に150gのご飯を食べるというパフォーマンスが行われました。

食品廃棄のBorder(基準)を下げようという願いが込められた作品です。

 

 

続いては、布と映像を用いたインスタレーションのグループです。

このグループは「バウンダリー」、自他の境界を表現しました。

 

他者の知らない一面を知ったとき、私たちは今までと同じように接することができるでしょうか。

音と光、そして人の声が空間を包みます。落ち着くような、それでいて少し不安になるような不思議な時間です。

少しの刺激で揺らぐ曖昧な境界が、風に揺れる布で可視化されていました。

教室のどの位置から鑑賞するかで見え方が変わってくるというのも興味深いです。

 

 

最後は教室を真っ暗にしていたグループです。

表現したものは、現実と夢の境界。確実に存在しているけれど認識はできない境界を、「暗闇」ととらえた空間です。

鑑賞者は暗闇に足を踏み入れる前に、アイマスクを装着します。誘導されたのは手作りのウォーターベッド。

そこに座り、不思議な音を聞きます。どこで何が起こっているのか想像することしかできません。

 

その後アイマスクを外して教室のさらに奥に進むと、いくつもの作品が飾られていました。これらは、グループのメンバーそれぞれが思う「現実と夢の境界」です。

これを見た鑑賞者が自分にとっての境界を思いうかべたとき、作品が完成するのでしょう。

 

 

大切なのは、作り手が何を得たか

 

3グループが1か月間議論を重ねて作り上げた作品ですが、先生方からは厳しい質問や指摘の声もありました。

 

中でも興味深かったのは、「伝えたいことが本当に届いているか」という指摘でした。

 

1か月かけて話し合ったのですから、グループ内では伝えたいことがはっきりしています。

では、作品を一度しか鑑賞しない相手に、それらを本当に伝えられたでしょうか。

 

誰に、何を、どう伝えるのか。当然これらはディスカッションで何度も深めてきた部分です。

しかし「表現したいものを、どうアウトプットするのか」という点で、まだ課題が残ったようです。

 

伝えたいことをすべて伝えることと、伝えたいことを正しく伝えることは、似ているようで別物だというお話がありました。

伝えたいことを伝えるためには、情報を取捨選択したうえで作品に反映させる必要があります。

あえて「語らない」ことも一種の表現なのだと先生方は教えてくださいました。

 

 

慣れないグループ制作で苦労することも多かったと思いますが、新たな視点で制作をする良い機会だったのではないでしょうか。

 

今回何を作ったかということはもちろん大切ですが、それ以上に「作り手が何を得たか」ということが重要だというフィードバックがありました。

 

1か月間で気づいた反省点は人によって少しずつ異なると思います。

スケジューリングや役割分担の方法、作品自体の完成度。それぞれの反省点を今後の個人制作に生かしてこそ、グループワークにさらなる意味が宿るのかもしれません。

 

総合造形コースの授業でありながら、音楽や映像など、個人が授業外で培ったスキルも生かした作品ができあがっていく過程は本当に面白かったです。

 

意見がぶつかり合う様子は見ていてドキドキしましたが、それすら糧にしてより良い案を探す姿には勇気をもらえた気がします。

 

この1か月で得たものを生かして、今後も素敵な作品を生み出していくのだろうなと思いました。

 

 

 

取材記事の執筆者

文芸表現学科3年生

井関こころ(いせき・こころ)

京都府立嵯峨野高校出身

 

書道、ゲーム、楽器演奏(エレクトリックベース)などを、そこに没入する時間そのものを楽しんで続けてきている。書くことやプレイすることは、うまくできた結果のためでなく、回り道を味わうプロセスのため。そんな風に捉えたうえで、「何者かであることから解放される時間」について考えるノンフィクションを記している。友だちとの散歩が好き。
この1年ほどの間で好きになった漫画・アニメーションのひとつは、『ジョジョの奇妙な冒険』シリーズ。その中で好きなキャラクターは、花京院典明とナルシソ・アナスイ。

 

 

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