キャラクターデザインコース

ゼミ通ヒーローズVol.55 浅井美空、内田響己、高田千夏、俵迫かなめと脱出ゲームについて語るの巻 Part1

 

※「ゼミ通ヒーローズ」とは、京都芸術大学キャラクターデザイン学科ゲームゼミの学生の研究や取り組みについてピックアップし、担当教員村上との対談形式で綴る少々マニアックなブログ記事となっています。

 

村上

ゲームゼミが開催した脱出ゲームが大好評で終了したので、今回はその制作チームのメイキングインタビューをお送りしたいと思います。まずは自己紹介をお願いします。

 

俵迫かなめ(以下俵迫)

ゲームゼミのリーダーの俵迫かなめです。今回は主にプロジェクトの全体統括をしていました。グループをいくつかに分けてそれぞれにリーダーを立てていたので、その人たちと連携してスケジュール管理やタスク管理をしていました。

俵迫かなめさん

 

浅井美空(以下浅井)

浅井美空です。シナリオ担当と、本編に登場する案内役として、演者チームのリーダーをしていました。

浅井美空さん

 

内田響己(以下内田)

内田響己です。シナリオ班のリーダーと、役者を担当しました。脱出ゲームの本編に入る前に、いかにプレイヤーにその世界に入ってもらうかが重要なので、演出を含めて担当しました。

 

内田響己さん

 

高田千夏(以下高田)

高田千夏です。私が担当したのはデザイン班のリーダーと広報で、ゲーム内に登場する全ての表示物に関するビジュアル全般を作成して統括する役割でした。広報としては、TwitterやInstagramでの情報拡散や参加受付などを担当していました。広報用のポスターは俵迫さんが作ってくれて、私はゲーム内でも使用した架空企業のパンフレットの制作もしてました。

高田千夏さん

 

村上

という面々で今回は脱出ゲームを振り返っていきたいと思います。

まずは、どんなゲームだったのかを説明してくれるかな?

 

内田

深海ツアーに参加して、潜水艇のトラブルを解決しながら脱出するというのが大まかな設定です。ゲーム序盤で捕獲した謎の生物との交流から、実はこれらのトラブルがすべて生物が仕組んだ罠なのではないかと不安になるんですけど、実はツアーの案内役である吉田マンマイルという人物がこの生物を使って研究をするためにこっそり持ち帰ろうとしていたというどんでん返しがあって、最終的には謎の生物の協力を得ながら潜水艇から脱出することになります。

 

俵迫

今回のゲームは、交流がテーマになっています。インターネットとか通信手段が発達した現代社会なのに、深海ではインターネットも無線も届かないという孤立した状況に着目して、言語も通じない謎の生物とどうやって意思疎通をはかるのかがゲーム内ギミックとして活用されています。翻訳書を使って未知の言語を解読したり、音楽を使ってコミュニケーションをとる場面があって、このあたりがゲームの軸になっています。

 

村上

その上で工夫したポイントは?

 

内田

案内役のキャストを担当した立場からすると、導入が命だなと思ってました。いくら脱出ゲームの中だけで盛り上げようとしても、結局脱出ゲームという前提なのでプレイヤーは制限時間内での謎解きに集中してストーリーの流れには感情が向かないだろうと思って、制限時間外でどれだけ全力で盛り上げられるかに気を遣いましたね。

 

村上

導入の解説のところね?

 

内田

そうです。恥を捨てて役になり切って頑張りました。

 

 

 

浅井

本編の中でプレイヤーが身体を動かしたり踊ったりするギミックがあるので、導入の部分で自然にこのゲームの世界観に入ってもらえるように演出に力を入れました。役者としては、物語の途中で豹変して悪役に転じるので、そのギャップを面白くするために、特に序盤ではいかにプレイヤーに信頼してもらえる関係性を築くかが重要になりました。

 

村上

どんな流れでゲームを制作した?

 

俵迫

まず世界観や物語のテーマ、ゲームとしてのコンセプトといった大きな枠組みをゼミ生全員で話し合って、その後は実作業になるのでチームを分けました。ゼミ生は全員で15人いて、それぞれがギミック(謎解き)班、シナリオ班、役者班、デザイン班、小道具班、映像班、音響班、広報班に分かれて、それぞれのタスクを細分化してスケジュールを決めて、リーダー同士で連携を取りながら進めていきました。もの凄い数のタスクだったので、私が全体統括として一つ一つ途中経過を確認しながら処理していきました。

 

村上

今年はゼミの人数が多いから状況把握が大変だったね。

 

俵迫

そうですね。最初の通しリハを年末に設定していたので、この日までに雑でもいいから一通りの仕様を全て実装させることが大きな目標でした。年明けからはひたすら通しリハを繰り返して問題点を炙り出しながらブラッシュアップしていきましたね。

 

内田

リハを繰り返すうちにどんどん細部の演出やギミックが修正されたり変更されたりするので、ストーリーを作るだけで半年かかったような感覚があります。さっき演出に拘ったって言いましたけど、実はそれが反省点でもあり学んだ部分でもあります。

 

村上

ゲームストーリーとゲームシナリオの違いについて口うるさく言ってきたけど、やっぱり実制作に入るとどうしてもストーリーの作り込みの方に意識がいってしまうから、ストーリーとゲーム性の整合性をとるのに苦労してたね。

 

浅井

そうですね、まずゲームシナリオを起承転結の4段階に分けて、それぞれに目標到達時間を設定しました。そこは進行役の立場として、進みが遅いプレイヤーにはヒントを出して誘導したり、速いプレイヤーにはノーヒントで進めたりして、どの段階でゲームオーバーになったら悔しいと感じてもらえるかとか、残り何秒でクリアしたら満足してもらえるかという時間配分を考えながら進めていきました。最初はそれが難しかったんですけど、自分の掌でプレイヤーが踊ってる感覚が楽しかったですね。

 

村上

時間配分やヒントの出し方によってリアルタイムで難易度をコントロールしてたわけね。

 

内田

このゲームの面白さは難易度だけじゃなくて、部屋の構成でも演出されてました。まず、プレイヤーが閉じ込められる部屋が潜水艇のメインルームになっていて、そこでシステムを復旧させる謎解きゲームが展開されます。終盤には第二ステージとなる船倉に降りて脱出ポッドを起動するという二つの部屋で構成されてるんです。メインの第一ステージは割と落ち着いた雰囲気で進行するんですけど、下の部屋に移動した時には緊迫感のある音楽も流れて、制限時間もギリギリなのでかなりアツい展開が楽しめます。

 

俵迫

脱出ゲームって、プレイヤーが得るUXデザインが一番大事なんですよね。最初は密室劇だと思っていたのに、実はクライマックスでもう一つの部屋が出現するっていう驚きが最大の見せ場だったので、全プレイヤーを少なくともその段階までは導きたくて時間配分と難易度の調整をしていきました。

そのために舞台裏ではスタッフ全員で声を掛け合いながらヒントの出し方を指示したり音響効果や照明効果を調整しながら盛り上げていきました。

 

村上

案内役が裏切る物語としての転の部分と、密室劇だと思っていたら実は第二ステージが出現したというゲームとしての転がうまく嚙み合って、プレイヤーの高揚感と緊張感はかなり盛り上がってたよね。

 

浅井

小道具班が照明効果を工夫してくれたりスモーク効果を演出してくれたお陰で、第二ステージに進んだ時のインパクトも大きくて、プレイヤーのワクワク感が伝わってきました。

ゲームバランスとしては、全プレイヤーの2割が脱出成功するくらいのゲームデザインを想定していました。でも序盤で詰まってゲームオーバーになってしまうと面白いとは感じていただけないので、全チーム必ず起承転結の結までは誘導して、ゴールまで残り僅かのところでゲームオーバーにするというバランスに拘りました。

 

俵迫

さっき、ゲームストーリーとゲームシナリオの違いに気付けたっていう話が出てましたけど、最初のリハの段階ではここがまだブレていて、プレイヤーに提供するUXデザインが不明瞭だったのが原因で制作が難航していました。でもリハを繰り返すうちに徐々にみんな理解出来て、こうして最後に気付いて改善できたのが良かったなって思います。

 

村上

最初のリハではただ仕様を詰め込んだだけで正直ゲームの形になってなかったけど、色々調整していくうちに本番の10日前くらいから急にゲームになり始めたよね。この頃は全員睡眠もとらずにひたすらブラッシュアップをするという超ブラック状態のゼミになっていったけど、「出来の良いものを作る」じゃなくて「面白いものを作る」のがゲーム屋としての最大の使命だから、この感覚を掴んで全員が一つになれたっていうのがゼミとしての最大の成果だったかなって思うね。

 

内田

みんな極限状態でボロボロでしたけど、その状況を全員が楽しんでましたね。

 

俵迫

ゼミ生がみんなアツい人ばかりで、議論が白熱して衝突が起こることもあったり、これがみんなの競争心を高めたように感じますね。

 

Part2に続く

<7172737475>