- 2019年2月28日
- 日常風景
ゼミ通ヒーローズ Vol.01
粟田恭一郎+吉田光希 Part1
ゲームゼミのブログ企画として、これから不定期にゼミ生の活躍を後輩たちに、
そして受験を考えている高校生に向けて学生の活躍を伝えるために「ゼミ通ヒーローズ」と題してインタビュー記事を連載していこうと思います。
第一回目となる今回は、今年度卒業制作にて学長賞を受賞した粟田恭一朗さん(大阪府立交野高等学校出身)と
吉田光希さん(クラーク記念国際高等学校出身)の二人をピックアップし、
制作の舞台裏や発想の仕方など、これからゲーム作りを学ぶ上で参考になりそうな話をたくさん引き出していこうと思います。
↑卒業制作展会場での粟田恭一朗さん。
↑2018年度優秀学生賞授賞式での吉田光希さん。
村上
というわけで始まりました、ゼミ通ヒーローズです。まずは卒業制作での学長賞授賞おめでとうございます。
月並みではありますが、受賞の感想を一言。
粟田
素直に嬉しいんですけど、受賞のために頑張ったんじゃなくて、面白いものを作ろうとしたら賞がとれたという感じなので、未だに実感がないんですよね…。
というか制作中に受賞のことは考えるなと何度も村上先生から言われてきたし、
どのみち作業ボリュームがありすぎて賞の事なんか考える余裕が全くなかったですよ。
吉田
ゲーム作りってワークフローが複雑だしボリュームはあるし就活もあるし、とにかく完成させなきゃヤバい!という感覚でした。
そもそも芸術大学でありながらゲーム作品で受賞ということが想像できなかったので最初から賞レースに参加している意識もなかったかな。
でも、だからこそ自由に作れたって感じはあります。
村上
なるほど。では作品の話を聞きたいんだけど、そもそも今回の作品「カナンの塔」とは?
吉田
遊び方としては、単純に歯車を動かして主人公を迷路のゴールへ導くというパズルゲームです。
主人公は歩く事しかできない頼りない子なので、
ついつい手を差し伸べたくなる、という点を意識しました。
粟田
「万能感」というコンセプトを大事にしたゲームになってます。大きな歯車も小さなルーン君(主人公)も指一つで全て制御できる感覚を楽しんでもらいたくて。
二人の卒業制作作品「カナンの塔」の一場面。歯車を回転させながら道を作り、主人公のルーンをゴールへ導くというパズルゲームになっている。
↑
ゲーム画面の様子
吉田
あと、意志を持たないキャラクターという点も大事にしました。最近のゲームのキャラクターは皆意思を持っていて、
プレイヤーの思惑とは違う方向に独り歩きするものが多く、雑誌の紹介でもゲームシステムより
CV(声優)の名前の方が大きく宣伝されることが多いんですよね。
でもここではあえてキャラクターを無個性にすることで「あなたが主人公になるんですよ」という意識を植え付けたかったんです。
村上
そんな中で、プリミティブな遊びを追及するという意味ではファミコン時代のゲームの在り方に戻った感じかな。
本質を追及すると記号だけでも面白くなり得るっていう。それで、今回ゲームを作ってみて大変だったことって何?
粟田
最初みっちゃん(吉田)から二本指でタッチして歯車を回転させる企画をやりたいと言われた時は「死ぬな」と思いました(笑)。
どう作ればいいのかさっぱり分からなくて。でも大学最後の作品だし、せっかくなので今までやったことのない
インターフェース(操作性)に挑戦してみたかった、ということで腹をくくりました。
去年の二月の段階では画面全体が回転して、重力を考慮しながら道を開拓していく仕様だったんですけど、実際に動かしてみたら
ゲームの進行上致命的な設計ミスがあることに気付いて、四月に入ってから大きくインターフェースを変えました。
村上
部屋全体じゃなくて歯車を回すアイデアに変えたね。その後も形になるたびに散々ダメ出しがあって、何とかここに落ち着いた感じだったね。
粟田
(苦笑)
吉田
私は企画とビジュアルを担当したんですけど、作業量や自分たちの求めるクォリティの設定値を考えると、
一つ一つ絵で描いていくのは現実的ではないと考えて、フォトバッシュ(イラストと写真を融合させる加工テクニック)を使う事にしました。
キャラデの先生って全員がゲームの専門家というわけではないので、プログラミングや仕様の面よりも、
ビジュアルとかストーリーが評価対象になってしまうんじゃないかと思ったので、とにかくパッと見た感じのビジュアルの水準を上げておいて、
一旦目を引き付けてから「面白い」と言ってもらえるような戦略を立てました。
まずは見て「綺麗」と言っていただかないと触ってもらえないと思って。
村上
それって展示にも反映されてるよね。
展示の大きさもビジュアルも含めて、まずは近くに寄ってもらわないと遊んでいただけないという感じで。
吉田
あと、お客様からすると、ゲームというだけで敷居が高く感じられがちなんですよね。
「やったことがない。だからやらない」「難しそう」みたいな。
中には「人が殴り合うだけでダメ」という人もいたり。
去年は「パコニカ!」というゲームを展示したんですけど、その時遊んでくれたお子さんのお母さんが「この子は普段ゲームをまったくしない。
キャラ同士が戦うところを見るのも嫌だ。でもこれは安心して遊べますね」と言ってくれたのを思い出して、
今回も傷つけあうような要素のないものを作ってみようと思いました。
キャラは前作に比べると不気味なんですけど、造形に尖った部分がないようにしてお花の柄を入れたりと、
土偶的な感じで不格好だけどどこか愛されるキャラクターとしてデザインしました。
世界観が好きとかキャラクターがかわいいとか、設定資料集があったらほしいとお客様に言われて、初めて作品が自分の手を離れたというか、
お客様に受け入れていただけたと実感して、作品が自己満足のものじゃなかったと安心しました。
村上
作ってる時は当然遊んでいただくことを想定してインターフェースを工夫するけど、実際に遊んでる人を見て感じるものってあった?
吉田
ダイヤルを捻るような直感的なインターフェースを重視したつもりだったんですけど、とにかく誰も説明書を見ないんですよ(笑)。
言葉の少ないチュートリアルすらもスキップして「遊ばれへーん」と言ってたりするんですよね。
粟田
そういうところを見て初めて「まだやり残した所があったんじゃないか」とか「もっと親切で丁寧なUIが考えられたんじゃないか」とか、たくさん発見と反省点が出てきました。
村上
チュートリアルのアニメーションを作って見せるくらいのことをしなきゃダメなのかも知れないね。「遊ぶぞ!」っていう気持ちで遊ぶ人は良いんだけど、
こういう展示会ってほとんどの人が通りすがりで少し触るだけだから。特にスマホ用のゲームだと「ながらプレイ」をするので、
ぱっと見ただけで何をすればいいのかが分かるデザインにしないと受け入れられないんだよね。
粟田
はい、とにかく皆さんこちらが想定していないような触り方をしてくれるので(笑)、見ててヒヤヒヤしました。
村上
あらゆることを想定して設計しても予想外のことが起きるというのがゲームの世界だから、クリエーターには先読みの力がめちゃくちゃ求められるよね。
パズルゲームでこれだけ苦労するんだから、アクションゲームを作ったらどんなに大変なことになるか(笑)
吉田
それは次に活かそ(笑)
粟田
あと、すごく恥ずかしい話なんですけど、みっちゃんの考えてることを実現してあげたくて頑張りました。
吉田
何それマジで!?
粟田
言葉だったりアイデアだったり表現力だったり、みっちゃんは本当に尊敬できる人なので、できるだけ「無理」と言わないようにしてました。実は裏で結構頑張ってたんですよ。
吉田
はいはい分かってますよ。あなたがいないと卒業できませんでしたよ(笑)。
山吉(なぜか突然割り込んできたCGゼミの学生。いつも食事をねだってくる)
ええ話やなー。
村上
普通、大学の四年生って、卒業制作と就職活動だけになるから、基本的には自宅で作業をして、ゼミのときだけ大学に来るってパターンが多いんだけど、
君らは月~金で朝から晩までずーっと大学にこもって作業してたよね。
ネットさえ繋がっていればどこでも作業ができるにも関わらず毎日大学にいるっていうのが珍しい。
粟田
一人で作業をするとドキッとなる瞬間があるんですよ。本当にこれでいいのかなって。それで「また今度聞こう。今日はこれまで!」
とかいって自分で妥協点を探して怠けてしまいそうだったんです。
でも今回は二人の共同制作なので、いつでも質問し合える状況を作った方が良いんじゃないかということで、毎日来てました。
吉田
首を握り合ってるくらいが丁度いい(笑)。
粟田
だから我々のチーム名は「フレンドリィ・ファイアー・ファクトリィ」っていう、お互いに銃を向け合ってるような名前にしたんです。
(Part2に続く)