キャラクターデザインコース

ゼミ通ヒーローズ Vol.05

 

01

 

中井涼と「学びという名のゲーム」について語るの巻

 

今回のゼミ通ヒーローズは、村上ゼミ3年生の中井涼さん(金沢辰巳丘高等学校出身)をピックアップ。

ゲーム開発会社Happy Elementsの合同授業やゼミ内プロジェクトの記事でもたびたび紹介されているゲームゼミの名物キャラですが、

今回は彼女の「学び」によってモチベーションを高める秘訣やあそびの力で日々を楽しくする方法についてお伺いしようと思います。

 

nakai1

ハッカソンにて、グループでアナログゲームを制作する中井さん。

 

nakai2

脱出ゲームで石鍋先生を壁に拘束する中井さん。

nakai3

台湾漫画博覧会にてステージ上でイラスト制作を実演する中井さん

 

 

村上 中井は色々な活動をしていて、とにかくアグレッシブなイメージがあるけど、具体的にはどんなことをやってる?

 

中井 ゲームゼミ以外の活動でいうと、LIMITSのオマージュとなるMINUTEっていうペイントバトルの監督をやらせてもらってます。

1年生の時は「見世物小屋プロジェクト(学祭で開催しているお化け屋敷の制作)」「京造イルミネーションプロジェクト」をやってきて、

2年生の時は「見世物小屋プロジェクト」のLA(ラーニング・アシスタント)もやらせていただきました。

あと、台湾研修とかオープンキャンパスのスタッフとかハッカソンとか、先日はイラストのグループ展とか色々やってましたね。

 

村上 それだけの活動をしていながら一切モチベーションが下がらないのが不思議なので、今回はその秘訣を教えてもらおうかと。

 

中井 はい、高校時代まではとにかくグループワークが苦手で、それを克服するためにプロジェクトの参加を決めました。

ここは学費が高いので(笑)、やれることは全部やってしまおうと思って。やっぱり1年生だったので最初は何でも楽しいじゃないですか。

学科で習うことも全部楽しくて、楽しいという気持ちがあるからやってこれたし、私は新しい環境というのが好きで、

ていうかずっとその場にいられない人なんで、新しい場所に行って新しいものを得てるという感覚があるから色々やっていけるんだと思います。

 

村上 楽しい=モチベーション、てことね。じゃあ「楽しい」とはどういうこと?

 

中井 やってる内容というよりは人との関りが楽しいんだと思うんですよ。結局授業だって先生とか周りの学生と関わっていきますよね。

プロジェクトに関しても、仲間がいなきゃ絶対にやれないものなので、

その仲間と連絡をとりあって協力して何かを作るというのが私的には楽しかったのかなと思います。

 

村上 寂しいんじゃないのか?(笑)

 

中井 そうかも知れないです(笑)。一人の時間も大切で、一人にもなりたいんですけど、…やっぱり寂しいんですかね。

でも、私の性格的に誰かとの関りを長く続けることもできないんですよ。すぐ自分から断ち切っちゃうんで。

今一緒にいて楽しければそれでいいかなと。

 

村上 ドライな関係やな…。お前は用済みだ、的な?

 

中井 いや、そんなんじゃないですよ(笑)。自分から連絡を取るっていうのが凄く苦手で、

特に仲が良くて好きな相手ほど連絡がとりにくいんですよ。自分が「どうせ私なんて」って思ってるから、

相手も同じように考えてるのかなと思うと別に連絡とらなくてもいいかなって。

 

村上 新しいものを求めるからそうなるのかな。同じ人と同じ事をするよりも他の人と違う事をする方が有意義とか。

自分もそうだけど、貧乏性なのかも。生きてる時間が限られてるのに同じ人とだけ関わると時間が勿体ないみたいな。

 

中井 そう、その感覚です。

 

村上 その時は楽しいけど、40歳過ぎて友達が少ないのはなかなか寂しいぞ(笑)。

いざ立ち止まって振り返った時に「これで良かったのかな」って思うし。

 

中井 でも私がそういう考えだから相手も同じように考えてるだろうって思っちゃうんですよね。

だったら相手にとっても私は要らんくね?って思うんです。

 

村上 親友は?

 

中井 いないです。

 

村上 即答(笑)。

 

中井 私は「聞く専」なので、人それぞれが持ってる色んなアイデアとか考え方を聞いて、

それを自分のものとして吸収したいっていう欲求があります。

 

村上 知識欲?ゲーム要素でもある「欠落を埋めたがる欲求」が強いのかな。やり込み要素満載の人生やな。

 

中井 何でも知っておけば損はないじゃないですか。自分がどれだけ考えても出てこないアイデアをもらうみたいな感じなんで、

それが私はすごく楽しいんですよ。自分から話すと、アイデアを他人に渡すことになっちゃうんでそれはヤだなと。

 

村上 わがままな奴やな(笑)。でもグループディスカッションの時は結構発言するよね。

 

中井 それはグループを良い方向に導かなきゃいけないから、そういう時はどんどん発言しますよ。

自分がいるチームに対してアイデアを出さないと自分にもペナルティが架せられるから。

 

村上 知識欲と独占欲が強いのはよく分かったけど、知識をコンプリートしたらどうする?生きてる上でコンプリートなんてあり得ないことだけど…。

 

中井 コンプリートすればするほど大きな作品が作れるんじゃないですかね。

 

村上 最終アウトプットのイメージはある?

 

中井 ゲームとは全然違うんですけど、60代とか70代になって、お母さんと妹と一緒にお店を開きたいんですよ。

そこで自分のブランド…というか自分を表現する何かの媒体として作品や商品を売りたいんです。その時に、

それまで蓄えた知識とか技術を一気に使って吐き出したいという想いはあります。何でもやりたいんで一つの枠に収まりたくないんです。

枠に入ると一年もたたずに飽きて辞めちゃいそうです。

見世物小屋のプロジェクトをやったからお化け屋敷を運営する会社に就職するとか、そんな風には考えたくないですね。

 

村上 継続力があるというわけではないんだね。継続せず毎回新しいことをするからモチベーションを維持するというパターンか。

自分から何か新しいことを発信することが楽しいんだと思うけど、逆に「新しいこと」を義務付けられたり強制されたらどう感じる?

 

中井 義務の定義を説明してもらって、それで納得できればやると思いますけど、相手が求めるものが自分の価値観と合わなければお断りします。

やらされてるって感じたら続かないんで…。

 

村上 強制ではなくて誘導ならどう?やれと言われるんじゃなくて、やりたくなるような状況を作られて、

いつの間にか相手の掌で転がされてるとか。所謂ゲーミフィケーションなんだけど。

 

中井 掌で転がされようと、一度は「やりたい」って気持ちになるわけだから、それは良いと思います。

 

村上 じゃあ、子供は宿題をやれと言ってもなかなかやらないけど、ゲームは隠れてでもしようとするよね。その違いは何だと思う?

 

中井 宿題の場合は「やれ」って言われるから嫌になるんじゃないですかね。

ていうか「宿題」っていう名前とかその出し方に問題があるんじゃないですか?

私は答えのある問題を解くんじゃなくて、まだ誰も得てない「知識」が欲しいんですよ。

だから人と話をして、その人にしかない考え方を吸収して自分なりの見方を養っていくっていうのが好きなんです。

学校で「教わること」は他の皆も持ってるってことなので、私は違うことを「学びたい」って思います。

 

村上 ちなみに我々は第二次ベビーブームと言われる世代で、同級生の人数が多すぎるから何をするにも全て競争だったのね。

勝たないと得られないから「ベスト1」が美徳とされてた時代。その後の世代では「オンリー1」っていう言い方が流行ったよね。

たまに自己中的な代名詞として揶揄されたけど…。

で、これからのソサエティ5.0の時代に向けて必要なのはベスト1でもオンリー1でもなく、「ファースト1」だと思うのね。所謂イノベーションってやつ。

 

中井 その考え方すごく好きです。競争じゃなくて新しいことしたいです。学ぶのは好きなんですけど勉強めっちゃ嫌いなんで(笑)。

 

村上 教員の教え方次第かな。「教える」のではなくて「学ばせる」が重要なわけで。

「教える」だと学生からしたら全然面白くないしモチベーションが維持できない。

学生が自分で発見するか、自分で発見したかのように感じさせて驚きを与える演出が大事だと思うんだよね。

 

中井 ほんとそうですよね。中学生の頃とか教え込むタイプの先生ばかりで勉強がめっちゃ嫌いになって、

結局先生のことを「知識をくれる道具」としか見なくなりました。

 

村上 Googleかよ(笑)。

 

中井 そうなんですよ(笑)。「教え込まれた」と感じた授業の内容はほとんど頭に入ってないです。

 

村上 テストに向けて丸暗記しただけだもんね。知ったことを発信して、それを受けた人からリアクションがあって、

それを見て初めて記憶というか心に定着する。やっぱりボールを投げたら打ってほしいもんね。

 

中井 ゲーム特有の「即時フィードバック」の要素が重要ですね。

 

村上 以前、学びとゲームの研究の過程で、ゲーミフィケーションを使って図書館利用者を増やすことができるかっていう実験をしたよね。

活字離れが懸念されるからって「本を読め」って言っても誰も本を読まない。よほど読みたい本があれば別なんだろうけど。

 

中井 空間から入ったらいいと思いますね。そもそも図書館っていう空間がしんどいんだと思うんですよ。静かにしなきゃいけないとか飲食禁止とか。

「ハリーポッター」に出てくるホグワーツの図書館って、皆と話しながら本を読む場面が多くないですか?

 

村上 分かるけど、気が散らない?

 

中井 でも本棚で仕切られてたりするじゃないですか。学校の図書館みたいに本棚と机の領域を分けて固めるんじゃなくて、

色んなところに机があれば個人のスペースが確立できるし、その一個一個の中なら多少話をしても構わないってなりません?

図書館って「知識を得る場所」なのだとしたら、それを吐き出すことも同時に出来た方が良いと思うんですよ。

ゲームの理屈から言うと、吐き出すことによって知識が深まりますよね。だから図書館でミーティングをした方が良いと思うんですよ。

 

村上 確かに、さっきまでの文脈でいくと、本を読んで頭の空白を埋めて、情報が満たされたらそれを吐き出して第三者に伝えて、

リアクションを得て初めて自分の記憶に定着するっていう即時フィードバックの反復ね。それは効果的かも知れない。

 

中井 本って、知識を蓄えるだけの道具じゃなくて対話の道具であるべきだと思うんですよ。

友達同士でページめくって「わー、これすごーい!」とか言い合ったら絶対記憶に残りますよね。

蓄えるだけの道具だったら図書館じゃなくてGoogleで良いと思います。

 

村上 昔ながらの考え方かもしれないけど、図書館でのアウトプットって、静かにレポートを書くとか、そういうことなんだと思うのね。

提出されたレポートに対する先生のリアクションが来るのは数週間後。それは即時フィードバックとは言えない。

中井の理屈はコミュニケーションというゲームがあることによって学びが効果的になるってことね。

 

中井 単に私がコミュニケーション好きなんで(笑)。あ…、これもしかして図書館の悪口みたいになっちゃってます?(笑)

 

村上 いや、愚痴ならスルーするけど、前向きな問題提起だから全然良いよ。コトを荒立てた方が前に進むから。ところで、中井ってゲームはやらないの?

 

中井 子供の頃にポケモンやってましたね。そこでハマりましたけど、最近は全然やってないです。ポケモンGOくらい。

 

村上 やっぱりポケモンかよ(笑)。なんで好きなの?

 

中井 人間とモンスターっていう異種間のコミュニケーションに惹かれるんだと思います。

自分とは違う者と共存して一緒に戦うとか。人と人とのつながりというよりは、異種である事が好きです。

アナログゲームの場合だと、面と向かって人同士の関わりで遊ぶことになりますけど、対面でゲームをするくらいなら「会話しましょう」ってなりますね。

 

村上 去年中井のリクエストで屋外で「缶蹴り」をやりながらゲーム分析をしたけど、あれもゲームというよりもコミュニケーションを渇望してたから?

 

中井 完全にそうですね。皆ともっと仲良くなりたかったし、「体育館使って走り回ってるけどあの人たちは一体何をやってるんだ?」って周りの友達に思われたかったです(笑)。

 

村上 ゲームゼミって、パソコンを使ってプログラミングしたり美少女キャラの絵を描いたりっていうイメージがあるのかな。

 

中井 そうだと思いますよ。せっかくあそびというものを研究するなら、幅広くやって、「うちのゼミこんなことやったよ」ってみんなに自慢したいです。

 

村上 ガイダンスでも「ゲームの作り方を教えます」とは一言も言ってないんだけど、ゲームって名前がついてるからどうしても誤解されるね。

で、さっき好きなゲームについて聞いたけど、今度は好きな授業ってある?その授業の中のゲーム性について分析してみようか。

 

中井 太木先生(グラフィックデザインの先生)の授業は全部好きですよ。実践的な技術や知識も得られてフィードバックも速くて、

頑張れば頑張るほどリアクションも変わってくるので。頑張らないと容赦なくボコられますけど。もし頑張ったのにリアクションが薄いと、

なんでダメだったのかを必死で考えますね。自分だけ褒めてほしいから頑張るっていう部分もあります。

 

村上 太木先生を独り占めしたいのね。あとゲームの7要素にある「称賛演出」の渇望かも知れないね。

 

中井 太木先生に関しては「強い女性」っていう印象があるんですよ。全然ブレないし。私たちの世代って強い女性に憧れるんです。

女性社会に変わりつつある中で、あんな強い人をみるとちゃんと頑張りたくなるんですね。

高校の時の先生もめちゃくちゃ厳しくて怖かったんですけど、言い過ぎて生徒が泣いたら慌てて優しくフォローしたりとか。もうブレッブレなんですよ(笑)。

 

村上 となると、知識欲、独占欲と色々出てきたけど、どういう感覚なんだろう。太木先生の存在は、中井にとっては師匠?いやラスボスなのかな?

 

中井 ラスボス(笑)!そうではないですね。太木先生の知識や考え方が欲しいんですよ。

 

村上 なるほど、じゃあポケモンだ。ドラクエだったら敵を見つけたらただ倒すけど、ポケモンは敵を弱らせてから捕まえるよね。つまり太木先生はミュウツー(笑)なんだ。

1ターン毎にボコボコにやられるけど、技術が欲しいから耐えて耐えて、モンスターボール投げて太木先生ゲットだぜ、みたいな。

倒したいわけではなくて後から利用できる技術が欲しいという感じ。

 

中井 まさにそうですね。だから強そうな人ほどお近づきになりたいです(笑)。

 

村上 あ、そうそう。中井のことで一つ気になってることがあって。後期の頭くらいだったかな?

ゲームの授業で講義が三週くらい続いたときに、「先生の言葉が聞きたいです」て言われたのがすごく印象的だったというかショックだったというか。

そこの真意を聞かせてくれる?

 

中井 一般的な知識がほしいわけじゃなくて、先生だからこそ話せることとか、先生が実際に感じたこととか、「この人から学んだから価値がある」って感じたいんですよ。

 

村上 でもあの時の講義の内容は、自分の中にあるものを吐き出したもののはずなんだけど、結局話し方とか見せ方の問題だったのかな。

個人的に講義ってあまり好きじゃなくて(笑)、機械的な情報伝達になりがちで体温が伝わりにくいから。

Power Pointを使った時点で一般論を淡々と語られてるように感じるのかもしれないね。で、結果「つまらない授業」って思われるという。

 

中井 だと思います。講義…はもうなくていいです(笑)。授業をしないでください(笑)。

見世物小屋のプロジェクトのときにもそういうのがあって、ストーリーを作る時に、「人間の怖さてっいうのが最終的に重要なんだよ」って先生は教えたかったんだと思うんです。

でもそれをスライドとかパワポで見せちゃうと「教える」ことになっちゃってダメじゃないですか。

じゃあどうしようってなった時に、貴船神社にみんなで行ってみようってなったんですよ。

呪いの藁人形を使った丑の刻参りがありますよね。その時はお化け屋敷感覚で怖がってたんです。

 

村上 リアルに感情が出てくるのはフィールドワークの醍醐味だわな。

 

中井 そこで感想をまとめて発表したんです。そしたらほとんどの人が「この絵馬が怖くて」みたいなことを言うんです。

でも最終的には丑の刻参りをしてる「人」が怖いっていう結論が出て、「そうかー、みんな人が怖いんだね」って誘導されて、なるほど!てなったんです。

実際に怖いと思って自分たちなりに発表までして、その発表の内容に対して的確に誘導されたからインパクト絶大で完璧に心に突き刺さりました。

 

村上 自分でリサーチした情報に新たな価値を上乗せされたことで、「教わる」じゃなくて「学ぶ」になったわけね。

もしそこでパワポを使って「人=怖い」みたいなスライドを見せられた日にゃ…

 

中井 あーもう最悪ですね(笑)。なんの学びもないし授業がつまらないと感じると思います。怖さの理屈を教え込まれるんじゃなくて、

体験して考えて発表までして、一回考えてるっていう経験があるから確実に理解できるんですよね。

 

村上 ゲームの基本=学びの基本っていうゼミの考え方が少しずつ浸透してるみたいで安心した。

「あそびの力で社会を豊かにしよう」ってカッコ良いよね(笑)。ゲームゼミが狙ってるのはそのポジションなんだけど。

ゲーム作りの技術を教えるんだったら専門学校さんの方が良いだろうし。

基本姿勢だけ教えておけばあとはみんな勝手に野間先生の授業で技術を習得して勝手に面白いゲームを作ってくれるのでこちらとしてはとてもラクでいいなと(笑)。

というわけで、今回はゲームはゲームでも、学びの中にあるゲーム性という点について掘り下げて話をしてみました。

学生視点の話が入ると机上の空論ではなくリアリティがあってこちらも良い勉強になります。

では今日はありがとうございました。

 

中井 ありがとうございました。

 

 

<311312313314315>