(大学院)文芸領域 筑波 幸一郎
小説の時間・空間描写における文体的特徴について
リズム、テンポ、立体感の構築に関する考察
<作品名>
わたつみの烽火
奈良時代、びわ湖を拠点とする水上盗賊の頭領・萬海は、母の形見の布で髪を束ねた隻眼の若者である。ある日、萬海たちは美作国からの課船(税を運ぶ船)を襲撃する。この頃、元海賊の馬留帆は朝廷から難波津の警備を任されていた。暴虐の限りを尽くした過去を持つ馬留帆は、老いへの恐怖に取り憑かれ、若さを取り戻す手段を執念深く探し求めていた。
余呉の里の漁師・ゴウタは、湖畔で男に襲われそうになっていた女・ミロクを助ける。ミロクは遙か未来から来た時を超える者であった。男子が生まれなくなった人類を救うため、過去で受胎し帰還する使命を帯びていたのだ。「時を司る」力を持つ天衣で時空を超えてきた彼女だったが、ゴウタはその衣を古木の洞に隠してしまう。次第に惹かれ合う二人の間に新しい命が宿る。
兵役として馬留帆に徴用されたゴウタは、ミロクの元へ帰ろうとして逃亡を図るが捕まり、拷問の末に隠し持っていた天衣を奪われてしまう。一方、ゴウタを探すミロクは馬留帆の手下に捕らえられるが逃げ出し、偶然出会った萬海に助けを求める。その出会いの中で、ミロクは萬海の髪を束ねる布が、自分の天衣とは異なる時を司る布だということに気づく。
萬海は仲間の道門と亜茶とともに、ミロクの天衣を取り戻すため馬留帆の巨船に向かう。道門には馬留帆に殺された姉の仇討ちという想いが、亜茶にはミロクへの共感と萬海への想いが、それぞれの行動の源となっていた。嵐が近づく中、彼らは巨船に乗り込んでいく。
暴風雨の中の決戦で、馬留帆はミロクの天衣の力で若返りを試みるが、その力を制御できず暴走する。老いと死への恐怖に囚われた馬留帆は異形の姿となって暴れ狂う。その時、萬海の母の形見の布が不思議な光を放ち、その光が萬海を導いて馬留帆の暴走を止める。決戦の末、馬留帆は羽虫となって闇の中へ消滅した。
ミロクとゴウタは共に新たな人生を歩むため去り、萬海は亜茶や道門たちと生きる道を選ぶ。亜茶は少女から女としての成長を、道門は復讐の呪縛からの解放を、そして萬海は母の形見の布に秘められた力の謎をいつか解き明かせると感じながら、彼らは新たな日々を共に歩み始めるのだった。
筑波 幸一郎
(大学院)文芸領域
このコースのその他作品