小室直樹の奇蹟
──その思想を読み解く──
(大学院)文芸領域 上田士恩
小室直樹の奇蹟──その思想を読み解く──
小室直樹の思想に関して、比較分析によりその解明を行った。
比較対象としては、保守派で著名な評論家・渡部昇一、進歩派の大立者・丸山眞男、ノーベル文学賞候補の最右翼と言われながら特異な思想を形成した三島由紀夫を選んだ。執筆スタイルは「小室節」とも評される、軽快な講談のような文体を心がけた。
まず、序章では、小室の半生を『評伝小室直樹』に依拠しながら略述した。小室という人間の魅力がこの章で理解できるようになっている。
第一章では、小室が保守派であるとの説を検討した。英米法における「法の支配」の思想と、大陸法の「主権」理論の比較を通じて、小室が本質的に保守主義と相違することを論じた。また、小室は自由主義者ではあったが、フリードリッヒ・ハイエク的な意味での自由主義とは似て非なるものであることも明らかにした。
第二章では、進歩主義の丸山から何を学んだかを検討した。丸山に小室が学んだのは、社会科学的方法論であり、思想的な進歩主義ではないことを明らかにした。小室は、戦前の大正デモクラシーを評価したが、丸山が賭けたのは「戦後民主主義の虚妄」である。
第三章では、三島と小室の天皇観を比較検討した。三島由紀夫はよく知られる通り、『英霊の聲』で戦後の昭和天皇(の渙発した「人間宣言」)を激烈に批判した。小室も戦後日本には不満を抱いており、「人間宣言」を批判したが、昭和天皇自身への直接的な批判は一度もしていない。小室の天皇観は「天皇予定説」であるが、それは何であるかと、日本の近代化への影響も論じた。
終章では、ここまでの内容を踏まえ、天皇予定説の小室が、左翼的進歩主義と接触し、保守派とも交流を持つに至った経緯を明らかとした。
以上を、思想史に詳しくない人にも楽しめるように、エピソードなどを交えつつ、諧謔ある文章で記述した。読み手と対話するような文を挿入し、途中で離脱する読者が出ないように気をつけた。
小見出しを多く作り、気になるところから読めるようにするなど、完読しない読者にも配慮した。脚註では背景情報を補い、読者の利便性を考慮した。同時に論文としての質を保つ為、出典をできる限り明らかにしたが、煩雑になるので後註に回した。
上田士恩
(大学院)文芸領域
このコースのその他作品