過疎と高齢化が進む社会の希望を現代小説で探究する試み
-国境の離島を舞台に人間と土地の再生を模索する-
(大学院)文芸領域 石川里津子 (石井里津子)
<作品名>彩の島
2034年冬の東京。まもなく65歳を迎える安田アトリは非正規雇用で食いつないできた。二人暮らしだった母を葬送し、自らの結婚願望に向き合う日々。9歳の時に訪問した自らのルーツがある国境の離島「乳根島(ちちねじま)」の家の購入を持ちかけられ、移住を決める。
島唯一の宿はIターンの夫妻が経営し、シングルマザーの奈々と4歳のひかるが長期滞在していた。一方、家隣にあった海原旅館は廃業しており、かつて出逢った旅館の姉弟への思いが募る。
55年前、乳根島出身の画家・冨多イサナの遺作の絵を悪徳業者から守るため、島の公民館に隠したアトリだったが、その絵が所在不明だと知る。また浜辺が大量の海洋プラスチックゴミに溢れ、周辺植物がプラスチック化したように見える。浜辺で出逢った土の研究者は、その奇妙な現象は見えないが、プラを分解する微生物を島内で見つけたいと話す。アトリは島がSOSを発し、島再生のパズルのピースを揃えようとしていると感じる。
島の婚活大会に参加し、島の産物や人々に触れるなか、海原の長女、八重に再会するが、冷遇される。
絵を探しに本土の博物館へ向かうものの絵はなく、先祖「飛島あとり」による島の伝説の聞き書き本に出逢う。55年前、冨多イサナの異母兄弟の老人が、島の聖域「入らずの森」で禁忌を犯し、祟りを恐れて集めた本だった。その本のある頁が破られていたが、その後、それが八重の本で「あとりという名の者が島を導く」という伝説が書かれた頁を彼女が破っていたとわかる。
アトリは本土のタクシー運転手から乳根島出身の芸術家の美術展招待券をもらい、鑑賞する中でこの芸術家が海原旅館の弟トモキだと確信する。
島では、土の採掘のため「入らずの森」で儀式が行われ、その際、奈々が冨多家の子孫だとわかる。島にルーツに持つ者同士で仕事を生み出し定住を目指すことに。島の商品を開発販売するビジネスを立ち上げ、八重も心を開き、NPO発足へと話はまとまる。
夏、台風が直撃し、土砂が水源を埋めてしまう。水道の回復後、外部の力も入って復旧が始まる。トモキも甥とともに島に戻る。閉鎖中の海原旅館内に幻の絵があるのではと探すなか、トモキが自作の机に設けていた隠し引き出しを思い出し、絵が見つかる。
イサナの絵とともに世界中の人を呼び込む芸術祭開催を提唱するトモキ。島での暮らしを築きつつ逞しくなっていくアトリ。島を蘇らせていくピースが揃い、希望が見える。
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